表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
69/184

第六九話「こんにちは、三日ほど大悪魔をやっているリーファと言います」

 大悪魔ベリアルとして(とら)えられた日、私は近くの町ベンカーまで護送(ごそう)された。ベリアルだと主張(しゅちょう)する誰かが居ただけで捜索(そうさく)を打ち切ってしまうのだから、兵士たちの(しつ)が知れるというものだ。


 それから詰所(つめしょ)(ろう)に閉じ込められ、「悪魔ならば(めし)()らぬだろう」と(わけ)の分からないことを言われご飯も(あた)えられず三日が()ぎた。水だけはこっそり使っている魔術で何とかなっているけど、空腹(くうふく)がそろそろ限界(げんかい)だなぁ。悪魔に対する偏見(へんけん)もまだまだ残っているものだね。


 逃げるだけなら王都で捕まっていた時よりも簡単(かんたん)に出来そうだけれども、今回はこの騒動(そうどう)仕掛(しか)けた誰かと接触(せっしょく)するために捕まることが目的だったので大人しくしているわけで。何かアクションが()しい所だなぁ。


「では、ここにベリアルが?」

「はっ! (みずか)らそう名乗(なの)りました!」

「おい、こちらを向け……なっ!? せ、聖女様!?」


 ん?


 何やら、聞き(おぼ)えのある声がしたと思ったら……あれ? この騎士様、私を聖女としてシュパン村から王都まで()れて行ったアロイスさんじゃない。


「……ごきげんよう、アロイス様。アロイス様が今回の仕掛け人でいらしたのですか?」

「せ、聖女様が何故(なぜ)ここに? それに仕掛け人というのは?」

「兵士たちがシュパン村を(おそ)ったことです」


 私が鉄格子(てつごうし)()しで端的(たんてき)にそう()げると、アロイスさんはお(とも)の兵士に(きび)しい視線(しせん)を向けた。この兵士、シュパン村を来襲(らいしゅう)した兵士たちの隊長を(つと)めていたな。アロイスさんの副官(ふくかん)だったのか。


「お、襲ったなどと! 我等(われら)は命令に従い、魔術師の捜索にあたっただけです!」

「畑などを()らして良くも言えたものですね」


 私はあくまでも冷たい態度(たいど)でそう返した。お(なか)()いていてこちらはイライラしているのだ。容赦(ようしゃ)などしてやるつもりは無い。


 ところがアロイスさんは、「なんだ、その命令というのは?」と兵士に()()る。


「ベリアルは強大な魔術を使う、だから軍属(ぐんぞく)でない魔術師を見つけたら(とら)えろ、などという無茶苦茶(むちゃくちゃ)な命令と(うかが)っております。ですから、わたくしは母上が捕えられぬよう()えて目の前で術を使い、自らベリアルと名乗りました」

「なんと……、流石(さすが)は聖女様、他者(たしゃ)への愛に(あふ)れて――」

「それより、命令についてです。アロイス様は命令をご存知(ぞんじ)無かったようですが?」


 こーの騎士様は聖女(がら)みだとすぐに脱線(だっせん)するので、無理矢理(むりやり)軌道(きどう)修正した。今はこっちの話を優先してほしい。


 アロイスさんはと言うと、「いえ、そのような命令は下しておりません」とばっさり言い切った。


「そ、そんな! アロイス様が直接我等に命令を(くだ)されたのですぞ!?」

「馬鹿な! 私はそのような命令など出してはいない! そもそも、軍属でない魔術師などどれほど居ると思っているのだ!」


 なるほど、これは――


「……取り()えず、容疑(ようぎ)が晴れたようですので解放(かいほう)して頂けますと幸いです。ああ、三日間食事を頂けなかったので、何か食べるものも頂けますか? 悪魔もお腹が空くのですよ?」


 私は(あつ)をかけるように、言い(あらそ)う二人に皮肉(ひにく)()じりでそう微笑(ほほえ)んでみせたのだった。




 三日も食べて居なかったため()がびっくりするので、軽くスープを頂いてからアロイスさんたちとシュパン村への帰路(きろ)()く。アロイスさんの後ろに乗馬することを(すす)められたので、素直(すなお)(したが)うことにする。(ろう)生活で体力が落ちてるからね。


「それで、アロイス様から命令が下ったというのは間違いないのですね?」

「間違いございません。ベンカーの町でアロイス様より命令を受け、即日(そくじつ)対応いたしました」


 馬上から横を歩くイザークさんという兵士に問いかけると、先程も聞いた答えが返ってきた。


 まぁ、上司から命令が下されれば従わざるを()ないんだろう。この副官に罪は無いと言える。畑を荒らしたのは許せないけど。


「わ、私はそのような命令を下しては()りませぬ! 信じてください!」

「しかし、確かにアロイス様から命を受けたのです! 証人もおりますぞ!」

「くっ……!」


 そして、アロイスさんもこの様子だと(うそ)は言っていないんだろう。それに嘘を()ける人だとは思えない。


 となると、答えは一つだろうな。


「お二人とも、嘘を吐かれてはいないのだと思います。わたくしにはなんとなくですが、この現象(げんしょう)の原因が理解出来ました」

「我等が二人とも真実を言っているというのに、ですか?」


 私の言っていることが理解出来ず首を(かし)げるアロイスさん。まぁ気持ちは分かる。


「はい。恐らくイザーク様は、アロイス様に化けたベリアルから命令をお受けになったのだと思われます」

「……なんですと? それは(まこと)ですか、聖女様?」

「わたくしは先日ベリアルと対峙(たいじ)し、ベンカーの町の方角(ほうがく)へ飛び立つ姿(すがた)目撃(もくげき)しています。断言(だんげん)は出来ませんが、何かしらの細工(さいく)がされてもおかしくはないと思っています」


 あの時ベリアルはシュパン村近くにある古代遺跡(いせき)から東の方角へと飛び立った。


 恐らく途中にあったベンカーの町に滞在(たいざい)し、現代の情報収集を(おこな)ったのだろう。現代語をどうやって(あやつ)ったのかは分からないけれども、何しろ元は神より二番目に(つく)られた天使だ。色々と規格外(きかくがい)だしその辺りは考えていても仕方(しかた)がない。


 そしてシュパン村に居る聖女の情報を知り、混乱を呼び起こすためにアロイスさんの姿を借りて魔術師狩りを行わせた、こんな所なのではないか。


「それは……なんとも、ベリアルの恐ろしさが身に()みて分かりました……」


 アロイスさんは戦慄(せんりつ)しているようだ。無理も無い、自分の姿をした悪魔が自分の知らぬ間に悪事(あくじ)を働いていたのである。(こと)次第(しだい)によっては刑を(まぬが)れなかっただろう。以前王弟(おうてい)派の陰謀(いんぼう)に巻き込まれたことと言い、ホント運が悪いなこの人。


◆ひとことふたこと


悪魔はレアな存在であるため、まだまだ偏見は残っています。

シュパン村の人たちはサマエルで慣れているのですが、普段接触していなければこんな対応になります。


アロイスさん再登場。

聖女絡みだと熱くなるのは変わっていないようです。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 姿なき者、無価値の化身、ソロモン27の王の階級の1柱だったかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ