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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第二章「寂しがりやの女神様」
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第六五話「毒を浄化させるために必要なこと」

 二人、湯船(ゆぶね)の中で背中(せなか)を合わせて()かる。いつもなら(かた)(なら)べてみんなで楽しい話をしているお風呂(ふろ)だけれども、今日は私が生理的にアレなので流石(さすが)にお(たが)い気にしてしまい、静かな空気が(ただよ)っている。


「………………」

「………………」


 お互い何を話すこともなく、ただ無言の時間が流れる。


「……なぁ、リーファちゃん」

「ん、なに?」

「うちなんかを……助けてくれて、おおきにな」


 なんか、か。相変(あいか)わらず自己評価(ひょうか)の低い女神様だ。


「……なんか、なんて言わないでよ。シャラは大切な家族なんだからさ」

「でも……」

「でもは無し。シャラに何かあったら母さんも、アンナも、サマエルさんも、シャムシエルも、みんな悲しむよ」


 彼女と()ごした時間はまだ短いけれども、母さんはシャラと居ると楽しそうだし、アンナも(なつ)いているし、サマエルさんもシャムシエルもまるで姉妹のように仲良くしてくれている。


「……リーファちゃんは?」

勿論(もちろん)、私も。だから、自分を卑下(ひげ)なんてしないでほしい。シャラはみんなに大事にされているんだ。それを分かってほしいな」

「…………そっか」


 背中の方で動く気配(けはい)があったかと思うと、シャラは私の右(どなり)に移動してきた。


「え、シャ、シャラ?」

「え、ええんや。今はリーファちゃんの顔を見ながら話がしたいんや」


 シャラは(ほお)を赤らめ、私から視線(しせん)()らしながらそんな風に答えた。


 うぅ、いつも見慣れている(はだか)とは言え、今の私にはついている(わけ)で。生理的な反応が、その、ですね……。いけないいけない。頭の中で(むずか)しい術式(じゅつしき)でも構築(こうちく)しよう。水の精霊(せいれい)と火の精霊を召喚(しょうかん)しつつその力を利用し水を瞬間的(しゅんかんてき)沸騰(ふっとう)させることで体積(たいせき)を大きくさせることにより押し出す力が発生するのでそれを利用して力学(りきがく)作用(さよう)をさせる機構(きこう)を――


「……リーファちゃん?」

「はいっ!」


 硬直(こうちょく)して術の構築に(いそし)しんでいた私を、ジト目のシャラが(とど)めた。


「なんや? 何固まってたん?」

「い、いや、その……、今の私、一部が男なので」

「ふーん? て、ことは……う、うちのこと、意識(いしき)してくれてん?」


 う、そ、そうだよ! ばっちり意識してるよ!


 と言ってるも同然(どうぜん)のように、私は思わずシャラから目を逸らしてしまった。


「……ほんなら、ええわ。なんやちょっと、自信持てた気ぃするわ」


 なんか(うれ)しそうだ、この女神様。よく分からないけれど自己評価の向上(こうじょう)に役立ったのなら良かったと言うべきなのか。


「あんなー、リーファちゃん」

「うん?」

「うち、リーファちゃんのこと、大好きや」


 シャラはそう言って、私の右(うで)に自分の腕を(から)め、肩に頭を()せてきた。


「……うん、私もシャラのこと、大好きだよ」

「ちゃうねん、うちの好きは、もっとちゃうねん」


 ぎゅう、と右腕がしっかりと()()められる。シャラの(むね)感触(かんしょく)がしっかりと感じられ、再び私は脳内で魔術の構築に入りそうになる。


「けどな……、その想いも、もしかするとベリアルに作られたものかも知れへんと思ってしまうんや……」

「………………」


 そうか、シャラはもう自分の想いすら信じられなくなっているのか。


 これは一刻(いっこく)も早く、彼女を(おか)しているベリアルの(どく)を取り(のぞ)かなければ、心に安寧(あんねい)(おとず)れないだろう。


「……もう、精神感応(かんのう)系が苦手(にがて)とか、そんなこと言ってられないな」

「え? わ、リーファちゃん、何を……」


 私はシャラの肩を(つか)み正面を向かせる。彼女はあわあわと視線を(およ)がせたけど、「落ち着いて」と言って、もう片方(かたほう)の手で彼女の頭を抱き、自分の額と彼女の(ひたい)を合わせた。


 目を閉じ、精神を統一(とういつ)し、彼女の中にある異物(いぶつ)を探す。それはまるで砂漠(さばく)(はり)を探すような作業だけれども、手がかりが無いわけではない。ライヒェ荒野(こうや)で彼女にこびりついていた魔力は左耳の後ろに有った。恐らくその(あた)りだろう。


 それに、その異物はベリアルに対して何らかの信号を送っている(はず)だ。だとすれば探知(たんち)系の魔術を応用すればそれを検知(けんち)することが出来るだろう。信号の中身を理解する必要など無い。


「……あった、これか」


 五分ほど経過(けいか)したところで、彼女の精神に食い込んだ(くさび)のようなものを感じ取ることが出来た。


 それは明らかに何かしらの信号を定期的に外へと放出していた。中身を解読(かいどく)することは出来ないものの、東の方角(ほうがく)へと向かっている。恐らくベリアルが飛び立って行った方向で間違(まちが)い無いだろう。


 しかしこれはあの時破壊(はかい)出来なかったのも頷ける。彼女自身の膨大(ぼうだい)な魔力で守られている位置(いち)根差(ねざ)しているからだ。


「シャラ、君を(あやつ)っている魔力片(まりょくへん)を見つけた」

「ほ、ほんまか……!?」


 (うれ)しそうに顔を(ほころ)ばせるシャラ。でも僕は気まずさに頬を()いてしまう。


「ただ……簡単には(はず)せないんだ。魔力片がシャラ自身の力で守られてて」


 そう(かた)ると、すぐに顔を(くも)らせてしまう。


 でも、手はある。手はあるんだけど、ねぇ……。


「それじゃあ、どないすればええんや……?」

「ええっと、内部から(こわ)せばいい。その方法なんだけど……口と口を合わせる必要があるんだ」

「へ?」


 あまりに突飛(とっぴ)な内容に、シャラの声が裏返(うらがえ)る。いや、うん、冗談(じょうだん)言ってるわけじゃないんですよ?


「キス、しながら、壊す。私がシャラの内部から壊すとなると、それが一番」

「そ、そそそそれは!?」


 いやー、うん、分かりますよ? 私も()ずかしいので。


 でも、奇跡が使えるのは私しか居ないからねぇ。私がやるしかあるまい。


「どう、かな?」

「どう……って、そんな、えっと、うちにも心の準備(じゅんび)がな……?」


 真っ赤になっておろおろと(せわ)しなく視線を彷徨(さまよ)わせるシャラ。


 うーん、このまま(ほう)っていても(らち)が明かないからね。仕方ない、やろう。


 私はがっしりとシャラの両肩を掴むと、奇跡の術式の構築に入る。


「主よ、(あわ)れな贖罪(しょくざい)山羊(やぎ)(すく)(たま)え」

「え、ちょ、ちょま」

「〈祝福があるように(ベネディクトゥス)〉」


 奇跡を展開(てんかい)すると同時に、私は自分の(くちびる)で彼女の唇を(ふさ)いだ。


◆ひとことふたこと


今までに無いほどのドキドキ展開ですね!

そりゃリーファちゃんも意識しちゃいます!


途中でリーファちゃんが構築しようとしている魔術機構は蒸気機関です。

もうちょっとで技術がブレイクスルーするところでしたね(笑)


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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