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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一六四話「三〇〇〇年の謎が、暴かれた」

「人類の、選別(せんべつ)


 静寂(せいじゃく)支配(しはい)していたリビングに、私の言葉が(ひび)いた。


「……そうだ。昔、サリエル()筆頭(ひっとう)(つく)られたのが古代兵器『聖別されし者(マシアハ)』。その力で星を落とし、一度(ひとたび)起動すれば人類の大半が死ぬと予想されている。……無論(むろん)、当時の御前(ごぜん)の天使である俺たちは反対したがな」


 こちらも元御前の天使であるアザゼルが、古代兵器について(つまび)らかに教えてくれた。『聖別されし者』というのか、その兵器は。〈彗星(コメット)〉の魔術などのように魔力の(たま)を天から落とすのではなく、本当に星を落とすのだろうな。


「そして、(おそ)らくだが『(けもの)』も神国(しんこく)が創り出したんだろうさ。あの手の生き物を創り出す研究がされていたのは知っている。当時神国を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にしたベリアルの後始末(あとしまつ)忙殺(ぼうさつ)されていたメタトロンの(すき)()いて、過激派(かげきは)が創り出したんだろう?」

「………………」


 メタトロン様は沈黙(ちんもく)してしまった。しかしその沈黙が、真実(しんじつ)物語(ものがた)っているようなものである。


 それにしても……『獣』は、神国が創り出したのか。多種多様(たしゅたよう)種族(しゅぞく)や動物、魔物が(あふ)れているこの世界で、あの『獣』だけ異質(いしつ)()ぎる存在(そんざい)だった。私は魔術師だからすぐにあれが創られた存在であることが分かったけれど、まさか、神国が……。


「神国は、と言うか、その過激派たちは、自分たちが選別した人間以外をその兵器で滅ぼそうとしていたんだよ。本当に選別出来るのかは(あや)しいもんだけどね。『獣』もそういった目的で創り出されたんだろうね。まぁ今回は、兵器の運用目的が変わっているみたいだけど」


 サマエルさんが気だるげに話す。選別というのはそういうことか。カマエルたちは私のことを『神を()した』などと言っているけれど、どちらが神様気取(きど)りか分かったものではないな。


「……ここに(いた)り、意外(いがい)な真実が分かったものだな」


 陛下(へいか)の声が、一段(いちだん)低くなっている。あ、これは怒っているのかも知れない。無理も無いか、『獣』が古代の災害(さいがい)のようなものだと思っていたら、神国の不始末(ふしまつ)だったんだからね。


「御前の天使メタトロンよ、此度(こたび)のこともそうだが、『獣』のことは大きな貸しとなるぞ?」

「…………(きも)(めい)じておこう」


 メタトロン様は目を()せ、固い口調(くちょう)でそう返したのだった。




「いや~、リーファちゃん、いい質問をしてくれたねぇ。お(かげ)で神国が(はじ)()いちゃったねぇ」


 会議終了後、(かた)を落としたメタトロン様がカマエルの()らえられている小屋へ向かった所で、サマエルさんが(となり)(すわ)って(うれ)しそうに(ひじ)(つつ)いてきた。脇腹(わきばら)突くのくすぐったいから()めて?


 あの後、「この事は絶対に他言(たごん)無用(むよう)だ」と陛下から(ねん)を押された。うん、言える(わけ)が無いし、言ったとしても信じて(もら)える(はず)が無いです。


「メタトロン様には(もう)し訳ない事をしたような気がするんだけど……。結局(けっきょく)、部下の不始末なんじゃない?」

「いやいや、部下の不始末に責任(せきにん)を持つのも上司(じょうし)(つと)めなんだよ? それに神国が後ろ暗いことをしてたなんてのは、下っ()なんて知らないからね? ほら、見てみなよ」


 サマエルさんの()(しめ)す方を見ると、今にも堕天(だてん)しそうな(くらい)に落ち()んでいるシャムシエルが居た。ちょっと可哀想(かわいそう)()ぎて声を()けられない。


「そんな……、でも、だとしたら何故(なぜ)サリエル様は()ちていなかったんだ……?」

「んー、神国が本当に『獣』を創ったからといって、神に(そむ)行為(こうい)じゃないから? 兵器の一つとして創ったなら、だけどさー」


 影を落とすシャムシエルの譫言(うわごと)のような(つぶや)きに、サマエルさんは頓知(とんち)のような答えを返した。そりゃね、マスティマみたいな存在も居るんだから、『獣』が神国に創られたとしてもおかしくは無い……のか……?


「……ラファエル様も……ご存知(ぞんじ)だったのでしょうか……?」

「どうでしょうね~?」


 ふふ、と微笑(ほほえ)みながら首を(かし)げてどちらでもない答えを返すラファエル様。ホントこのお方、食えないなぁ……。




 そして翌日(よくじつ)にはカマエルも神国へと護送(ごそう)されて行った。


 私が小屋まで様子を見に行こうとすると、(みな)(こぞ)って止めに入ったのが気になっていたんだけど……そんなに彼女には(きら)われていたんだろうか? まあ、仕方(しかた)ないか。


◆ひとことふたこと


元御前の天使の悪魔たちが大暴露大会。

『獣』も天使たちが創り出した存在でした。


マシアハはヘブライ語で「油を注がれた者」。英語にすると分かりやすくメシア。

油を注ぐ、というのは「聖油で聖別する」ということを指すんだとか。だから聖別されし者。

この聖油ですが教会でも儀礼用に用いられる香油ですね。

身体に塗ったらメシアになれるんだろうか?()


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] >その力で星を落とし、一度ひとたび起動すれば人類の大半が死ぬと予想されている。 人類どころか地上・海中の生物の多くが絶滅するだろうに 落とす星のサイズにもよるけど
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