第一六四話「三〇〇〇年の謎が、暴かれた」
「人類の、選別」
静寂が支配していたリビングに、私の言葉が響いた。
「……そうだ。昔、サリエル等を筆頭に創られたのが古代兵器『聖別されし者』。その力で星を落とし、一度起動すれば人類の大半が死ぬと予想されている。……無論、当時の御前の天使である俺たちは反対したがな」
こちらも元御前の天使であるアザゼルが、古代兵器について詳らかに教えてくれた。『聖別されし者』というのか、その兵器は。〈彗星〉の魔術などのように魔力の弾を天から落とすのではなく、本当に星を落とすのだろうな。
「そして、恐らくだが『獣』も神国が創り出したんだろうさ。あの手の生き物を創り出す研究がされていたのは知っている。当時神国を滅茶苦茶にしたベリアルの後始末で忙殺されていたメタトロンの隙を突いて、過激派が創り出したんだろう?」
「………………」
メタトロン様は沈黙してしまった。しかしその沈黙が、真実を物語っているようなものである。
それにしても……『獣』は、神国が創り出したのか。多種多様な種族や動物、魔物が溢れているこの世界で、あの『獣』だけ異質過ぎる存在だった。私は魔術師だからすぐにあれが創られた存在であることが分かったけれど、まさか、神国が……。
「神国は、と言うか、その過激派たちは、自分たちが選別した人間以外をその兵器で滅ぼそうとしていたんだよ。本当に選別出来るのかは怪しいもんだけどね。『獣』もそういった目的で創り出されたんだろうね。まぁ今回は、兵器の運用目的が変わっているみたいだけど」
サマエルさんが気だるげに話す。選別というのはそういうことか。カマエルたちは私のことを『神を模した』などと言っているけれど、どちらが神様気取りか分かったものではないな。
「……ここに至り、意外な真実が分かったものだな」
陛下の声が、一段低くなっている。あ、これは怒っているのかも知れない。無理も無いか、『獣』が古代の災害のようなものだと思っていたら、神国の不始末だったんだからね。
「御前の天使メタトロンよ、此度のこともそうだが、『獣』のことは大きな貸しとなるぞ?」
「…………肝に銘じておこう」
メタトロン様は目を伏せ、固い口調でそう返したのだった。
「いや~、リーファちゃん、いい質問をしてくれたねぇ。お陰で神国が恥を掻いちゃったねぇ」
会議終了後、肩を落としたメタトロン様がカマエルの捕らえられている小屋へ向かった所で、サマエルさんが隣に座って嬉しそうに肘で突いてきた。脇腹突くのくすぐったいから止めて?
あの後、「この事は絶対に他言無用だ」と陛下から念を押された。うん、言える訳が無いし、言ったとしても信じて貰える筈が無いです。
「メタトロン様には申し訳ない事をしたような気がするんだけど……。結局、部下の不始末なんじゃない?」
「いやいや、部下の不始末に責任を持つのも上司の務めなんだよ? それに神国が後ろ暗いことをしてたなんてのは、下っ端なんて知らないからね? ほら、見てみなよ」
サマエルさんの指し示す方を見ると、今にも堕天しそうな位に落ち込んでいるシャムシエルが居た。ちょっと可哀想過ぎて声を掛けられない。
「そんな……、でも、だとしたら何故サリエル様は堕ちていなかったんだ……?」
「んー、神国が本当に『獣』を創ったからといって、神に背く行為じゃないから? 兵器の一つとして創ったなら、だけどさー」
影を落とすシャムシエルの譫言のような呟きに、サマエルさんは頓知のような答えを返した。そりゃね、マスティマみたいな存在も居るんだから、『獣』が神国に創られたとしてもおかしくは無い……のか……?
「……ラファエル様も……ご存知だったのでしょうか……?」
「どうでしょうね~?」
ふふ、と微笑みながら首を傾げてどちらでもない答えを返すラファエル様。ホントこのお方、食えないなぁ……。
そして翌日にはカマエルも神国へと護送されて行った。
私が小屋まで様子を見に行こうとすると、皆が挙って止めに入ったのが気になっていたんだけど……そんなに彼女には嫌われていたんだろうか? まあ、仕方ないか。
◆ひとことふたこと
元御前の天使の悪魔たちが大暴露大会。
『獣』も天使たちが創り出した存在でした。
マシアハはヘブライ語で「油を注がれた者」。英語にすると分かりやすくメシア。
油を注ぐ、というのは「聖油で聖別する」ということを指すんだとか。だから聖別されし者。
この聖油ですが教会でも儀礼用に用いられる香油ですね。
身体に塗ったらメシアになれるんだろうか?()
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次回は明日21時半頃に更新予定です!




