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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
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第一六一話「医療行為でハンマーって何に使うんだろう?」

 帰りはカマエルが(しば)られ、麻袋(あさぶくろ)に入れられてシャムシエルとサマエルさんに(はこ)ばれた。私はというと、アザゼルに再びお姫様()っこされた(わけ)で。なんか定位置(ていいち)になってしまったような……。


 カマエルの配下一二人の遺体(いたい)はそのままにしてある(ため)、野犬か何かに食われるかも知れない。命令に(したが)っただけで殺されたことを思うと(むね)が痛いけど、どうしようも無いのだ。


「リーファちゃん! 無事(ぶじ)だったのね!」


 ゆっくりとアザゼルに家の前で下ろして(もら)うと、寒い中ずっと外で待っていたらしい母さんとアンナが、ひしっと抱きついてきた。


「お母様、アンナ、ごめんなさい、心配をおかけいたしました」


 アザゼルが居るので聖女モード。いや、別にアザゼルにならバラしてもいいんだけどさ。麻袋の中にカマエルが居るし。


「いいのよ、無事で(もど)ってきてくれれば。……顔に(なぐ)られた(あと)()り傷があるわね。ラファエルさんに()(もら)いましょう」

「はい……、ですが……流石(さすが)(つか)れました……」


 私は思わず、その場でへたり込んでしまった。お風呂(ふろ)に入りたいけど、()ずは傷を治してからだよね……。




「はい、もう傷は(ふさ)がっています。お風呂に入ってもいいですよぉ」

有難(ありがと)御座(ござ)います。……ほら、アンナ。お姉ちゃんの顔、ちゃんと元通りになったでしょう?」

「うん……」


 目を()らしたアンナが、私の顔を見てコクリと(うなず)く。帰って来るなり、私の顔の傷を見つけたアンナが、先程(さきほど)までびーびー泣いていたのだ。大好きなお姉ちゃんの顔が傷ついていたのがショックだったらしい。可愛(かわい)いったらもう。


「それでぇ、リーファちゃん? 奇跡は使いましたか?」

「……いえ、大丈夫(だいじょうぶ)です。一度も使いませんでした」


 ラファエル様が真剣(しんけん)な表情で(たず)ねてきたけれども、私はかぶりを()ってそれを否定(ひてい)した。奇跡を使ってしまえば、今までの治療(ちりょう)台無(だいな)しになるものね。


「そうですかぁ。よく我慢(がまん)しましたね、(えら)いですよ。それと……」


 一旦(いったん)言葉を切ったラファエル様は、椅子(いす)から立ち上がり、私に向かって深々(ふかぶか)と頭を下げた。


此度(こたび)の、我が国の天使が働いた暴挙(ぼうきょ)につきまして、カナン神国(しんこく)を代表してお()(もう)し上げます」


 いつもののんびりした口調(くちょう)では無く、誠心誠意(せいしんせいい)と言った様子(ようす)で頭を下げ続けるラファエル様。


「頭をお上げください、ラファエル様。私とて、能天使(パワーズ)カマエルの意思(いし)が神国の総意(そうい)とは思っておりません。それに、事前にラファエル様がサマエルさんに警告(けいこく)して(いただ)いたお(かげ)で、こうして事無(ことな)きを()たのですから」

「……有難う御座います」


 頭を上げたラファエル様の様子は、また普段(ふだん)通りに(もど)っていた。


「能天使カマエルについてのお話は、また明日にでもしましょうねぇ。それと……リーファちゃん、()いている小屋などはありますかぁ? 出来(でき)れば、母屋(おもや)から(はな)れていると良いのですけど~」

「へ? あ、はい、一つ、昔機材(きざい)を入れていた小屋がありますが……」


 唐突(とうとつ)な質問だな。あの小屋は(たし)か三年前まで使っていたけど、母屋から遠すぎたのでもう何も入れてない(はず)だ。


「まあまあ、それは好都合(こうつごう)です! アナスタシア様に(うかが)えば分かりますわよね?」

「ええ、勿論(もちろん)です」


 なんかラファエル様、(うれ)しそうに色々な器具(きぐ)を小さな(かばん)仕舞(しま)()み始めたぞ? ペンチとかハンマーとか入ってたけど、何に使うのやら。


「それでは、リーファちゃんはゆっくりとお風呂に入ってきてくださいな。それと、わたくしは今晩、夕食は()りませんからねぇ」

「え? お医者様なのに晩ご飯を抜くのですか? 駄目(だめ)ですよ、ちゃんと食べないと」


 普段、食べ物のバランスがどうとか結構(けっこう)(きび)しく言ってくるのに。医者の不養生(ふようじょう)って(やつ)じゃない?


「少し用事がありまして、(おそ)くなりそうなのですよぉ。ですので、後で頂きます」

「あ、そういうことですか。分かりました」


 ご多忙(たぼう)なお医者様だし、色々とお仕事があるんだろうと理解(りかい)し、私はアンナと二人でお風呂に入ることにした。




 その晩、ラファエル様の居ない夕食中のこと。


「あれ? 何か悲鳴が聞こえたような……」


 何か女性の悲鳴のようなものが聞こえた気がして、私はスプーンを止めた。でも……


「……(けもの)でしょ」

「……獣だな」

「獣ね~」


 サマエルさんもシャムシエルも母さんも、口を(そろ)えたようにそう答えたのだった。


 うーん、獣だったのかな? まぁ、いいか。


◆ひとこと


・囚われのカマエル

・母屋から離れた小屋を所望するラファエル

・ペンチやハンマーを用意するラファエル

・ラファエルが不在の時に聞こえた悲鳴

ここから導き出される結論は……(ひとことはここで途切れている


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 變形した骨をノミで削ったりするからハンマー必要
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