表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第四章「聖女リーファ」
155/184

第一五五話「男に戻るとか、そんなレベルの話じゃなかった」

「ん~……血圧(けつあつ)正常。脈拍(みゃくはく)は少し高いですねぇ。そんなに緊張(きんちょう)しなくても良いのですよ~、聖女リーファ?」

「は、はぁ。ですが……」


 うぅ、緊張するなと言うのは(むずか)しい。何せ私は今、自分の部屋で(はだか)に布きれ一枚だけという姿(すがた)なのだから。それにしても寒い。もうすぐ冬なんだから当たり前だ。


 私がどうしてこんな姿をしているのかと言うと、昨日の酒場でのやり取りで検査(けんさ)を受けることについて承諾(しょうだく)したからである。流石(さすが)にラファエル様が()まられている宿(やど)で検査をする(わけ)にもいかない(ため)、自宅までご足労(そくろう)(いただ)いている。


 ラファエル様は私の不安や緊張など何処(どこ)()く風で、脈拍と血圧を測定(そくてい)出来(でき)るらしい器具(きぐ)片付(かたづ)けつつ、楽しそうに「こんなに可愛(かわい)らしい女の子ですもの、『聖女リーファ』なんて堅苦(かたくる)しい呼び方はやめましょうか~」などと言っている。ま、まぁ、お医者様だし、患者(かんじゃ)さん(がた)異常(いじょう)には()れきっているのだろう。


「さて~、肝心(かんじん)神気(しんき)確認(かくにん)させて頂きましょうか~。左(てのひら)を、わたくしの右手に合わせてくださ~い」

「こ、こうでしょうか?」


 ラファエル様が差し出した右掌に、自分の左掌を合わせる。これで私の神気がどのようなものかを感じ取れるらしい。こんな方法があるとは知らなかった。


「……はぁ、なるほど。これはマズい状況(じょうきょう)かもしれませんねぇ~」

「……マズい、ですか」

「はい~……」


 はっきり言われてしまった。どんなマズいことがあるのか気になるけど、多分、聖霊(せいれい)や天使に近しい存在(そんざい)になりきっているとか、そういうことだろう。


「リーファちゃんは、神に近い存在になっていますね~」

「……はい?」


 え?


 聖霊や天使じゃなくて……神?


「神気が出している波長(はちょう)というものが、我()(しゅ)とそっくりなのですよ~。わたくしは熾天使(セラフィム)なので主を五感で感じ取れますし、間違(まちが)い無いですねぇ~」


 そう言えば聞いたことがある。智天使(ケルビム)より上の存在は、神を認識(にんしき)出来るとか何とか。逆を言えば、座天使(スローンズ)以下の存在は天使であろうとも神を認識することが出来ないということなのだけど。それほど神とは高次(こうじ)の存在なのである。


 しかし……神と波長が似ている、というのは――


「あの、主と波長が()ているというと、具体的(ぐたいてき)にはどのような弊害(へいがい)があるのでしょうか?」


 そんな私の質問に、ラファエル様はしばし考え()んでから、私の目の前に右手で三本の指を()きつけた。


「そうですねぇ~、まずは一つ目。これは弊害と言えるか微妙(びみょう)な所ですが……、(すで)にリーファちゃんは、ご自分の神気で奇跡を行使(こうし)出来るようになっていると思われます~」

「……そ、そこまでわたくしの神気は、神に近しいものになっているのですか……」

「はい、そうです~」


 私はあまりにあまりな現実に、口元をひくひくと引き()らせた。もはや奇跡を行使するときに、神へのパスを(つな)ぐ必要すら無くなっているらしい。もうそれ神じゃん。不敬(ふけい)なので言わないけど。


「続いて二つ目ですがぁ……主に近しい存在となったことを(こころよ)く思わない天使たちに、(ねら)われる可能性があります。彼らにとって、神は唯一(ゆいいつ)ですからねぇ~」

「……旧体制(たいせい)()、ですか」


 私は今年の春から夏にかけて戦っていた相手、マスティマとサリエル様を思い()かべていた。彼らは神国(しんこく)でも(ふる)観念(かんねん)(とら)われていた(ため)、奇跡を行使出来る私という存在を(みと)めていなかったのだ。


「そうそう、それです~。……派閥(はばつ)筆頭(ひっとう)のサリエル様が消滅(しょうめつ)なさったとは言え、(いま)だにそのような方は多くいらっしゃるのですよぉ。この事実(じじつ)は、絶対に彼らへ知られてはいけませんねぇ」


 そうのたまうラファエル様は、どうやらそのような考えとは無縁(むえん)らしい。純粋(じゅんすい)なお医者様であり、派閥やら思想(しそう)やらに興味(きょうみ)が無いのかも知れないけど。


「そして、三つ目。これが一番重要(じゅうよう)なことなのですが~……先程(さきほど)、わたくしはリーファちゃんが、神に近しい存在となっている、と言いましたよねぇ?」

「……はい、(おっしゃ)いましたね」

「そして、智天使以上でなければ、神を五感で認識することは出来ない。これがどういう意味か、お分かりですか~?」


 ラファエル様の口調は相変(あいか)わらずのんびりしたものだったけど、瞳は真剣(しんけん)そのものである。


 私もその質問の意味をすぐに理解(りかい)して、頭をハンマーで(なぐ)られたような衝撃(しょうげき)を受け、自分の顔から血の()が引く音を聞いていた。


「…………まさか」


 そうだ。そういうことなのだ。


 最早(もはや)、男だの女だの、そんな事がちっぽけに思えるような、衝撃的な出来事が私の身体に起こっていたのだ。


「このままですと……リーファちゃんは、(みな)さんから認識されなくなってしまいますね~」


◆ひとこと


まさかの神様リーファちゃん。

しかしこのままですと彼女の姿を誰も知覚出来なくなるのでしょう。


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ