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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一五一話「男として、女として」

 季節(きせつ)(うつ)り変わり、秋。


 およそ半年ぶりに自宅へ(もど)った私は、ぼうっと地面に(こし)を下ろしたまま、(おか)の上からシュパン村を(なが)めていた。


 今回はこの村にも多大(ただい)迷惑(めいわく)()けてしまった。いや、騒動(そうどう)が起こる(たび)に何かしらシュパン村も影響(えいきょう)を受けているのだけれども、今回は元はと言えば私の力が原因だったし(もう)(わけ)なく思うのは当然な訳で。


「なんやリーファちゃん、ぼーっと村なんか眺めて」

「ん、ままならないな、って思っただけ」


 私の(となり)(すわ)り、そう問いかけてきたのは樹に宿(やど)っている精霊シャラだ。まぁ精霊じゃなくて元は女神様なんだけど。


「私、聖女の力を持っていて良いのかな、って考えちゃうんだよね」


 この聖女の力は、(たし)かに人々を(すく)える。だけど、その力を(おそ)れた御前(ごぜん)の天使サリエル様が、マスティマをけしかけたというのが騒動の発端(ほったん)だった、という神国(しんこく)の調査結果を、昨日陛下(へいか)から聞いて知ったのだ。


「聖女やないリーファちゃんなんて想像(そうぞう)できひんな」

「私は元々男なんだよう」

「よう知っとるわ、一部が男になっとった時一緒(いっしょ)にお風呂(ふろ)入ったからな」


 樹が生長したお(かげ)で一〇歳くらいの外見になったシャラが、クスクスと笑って見せる。ぐぅ、(なつ)かしい話を。あの時シャラは私の身体を見てテンパってた(くせ)に。ちなみに『群体(レギオン)』との戦いで男性に戻った身体だけど、一晩寝たら元に戻った。かなしい。


 しかし……私の力が(わざわ)いを呼ぶと言うのならば、手放(てばな)す事は出来ないのだろうか? せめて聖女の(そこ)なし魔力が無ければ大した奇跡も使えなくなるし、(まわ)りも無害として(あつか)ってくれないだろうか。


 でも、〈聖女化(セイント)〉の逆転は出来(でき)ないと言われた。いや、出来るのだけれども、その時は身体が(はじ)け飛び、私の人生が終わる。本当にままならない。


「そういやリーファちゃん、最近〈変身(メタモルフォーゼ)〉の魔術を勉強しとるんやって?」

「あ、うん。〈聖女化〉を逆転させる奇跡を使うと私の身体が()たないらしくて。だったら永続的(えいぞくてき)に男性の身体へ化けられる魔術が使えればな、って思ってる」

「んー……、それは男性に戻ったと言えるんかいな? 結局(けっきょく)、元の身体は女性のままやないの?」

「う、まあ、そうなんだけど」


 それを言われてしまうと痛い。でも――


「どうしても、男に、戻りたいんだよね……」

「なんでや? まあ、リーファちゃん自身やないから軽々(かるがる)しい言い方に感じてしまうかもやけど、もう女性の身体でええんやないの?」

「…………(こわ)いんだ」


 そう、怖いのだ。


 いつか、自分が男性に戻りたいと(ねが)わなくなったら、それはもう、元のリーファを()てるのと同じような気がするのだ。段々(だんだん)と女性の精神に近づいているのを自覚(じかく)しているので、自然にその時が(おとず)れるのが、ひたすら怖いのだ。


 そんな気持ちの吐露(とろ)を聞いたシャラは、(こま)ったように眉尻(まゆじり)を下げた。


「うちはもう前の身体は()ぅなってるけど、それでうちがうちで無ぅなったとは思うてへんけどな……。こうして生きてリーファちゃんとお(しゃべ)り出来るだけで万々歳(ばんばんざい)や」

「そう言えばそうだったね……」


 シャラは元の肉体をベリアルに殺されているけれど、種に力を移し、こうして新しい肉体を手に入れている。彼女は元の身体に戻りたくとも戻れないことが分かっているから、足掻(あが)こうとは思わないのだろう。まあ、口に出しては言わないけど。


「そうじゃぞ、シャラの言う通りじゃ。おぬしはそろそろ(あきら)める頃合(ころあ)いかも知れんぞ」

「……何処(どこ)から()いたんですか、ペル殿下(でんか)


 私は()り返り、声の(ぬし)である地竜(ちりゅう)王女のペル殿下を半目で(にら)み付けた。お付きのメイさんと二人だけかと思ったら、サマエルさんも一緒だった。というか、殿下がサマエルさんの右(うで)をしっかりホールドしている。うちの長姉(ちょうし)はぐったりと力無く殿下に引き()られていた。


「湧いたとは(ひど)()(ぐさ)じゃのぅ。(なや)める若人(わこうど)たちを(みちび)くのも先達(せんだつ)(つと)めじゃ。のうサマエル?」

「あー……、はい……」


 こちらはもう逃げられないと諦めたサマエルさんである。目が死んでる。


 ペル殿下のお父上である地竜王グラン陛下が(ひき)いる地竜族は、シュパン村から少し(はな)れた西の山々に住むことになったため、度々(たびたび)こうしてペル殿下が遊びにいらっしゃるのである。「毎回大変ですね」とお付きのメイさんに視線(しせん)を送ったら、コクリと(うなず)かれた。


「第一、〈変身〉の方法を教えてくれたのは殿下では無いですか。それを諦めろというのは(いささ)無責任(むせきにん)では無いのですか?」

「ほう、言うのう小童(こわっぱ)。いや小娘か。まぁ、あの時は『男の身体を再び手に入れる方法』しか教えておらんし、精神的なアレとはまた別問題じゃ。そこまでは責任を持てんぞ?」


 ニヤリと不敵(ふてき)な笑いを見せながらのたまう殿下。くっ、詭弁(きべん)をっ!


 けれど、言われた通り潮時(しおどき)なのかも知れないなぁ。方法が無いのだとしたら、私はいよいよもって女性として生きていくことを覚悟(かくご)しなければならないのかも……。


「今おぬしに大事なことは、女を受け入れる事かも知れんな。おぬしの(たましい)(すで)に女性へと振り切っておる。ここで自分に(うそ)()いてしまえば、心を()んでしまうぞ」

大丈夫(だいじょうぶ)やリーファちゃん。リーファちゃんが男を棄てたとしても、うちらの態度(たいど)は何も変わらへんよ。せやから、ゆっくり考えるとええんやない? 自分に嘘吐くんは、ペル殿下のおっしゃる通り、頭おかしうなる原因や」

「…………ちょっとだけ、そっちの方も考えてみることにするよ…………」


 溜息(ためいき)を吐いて、(ひざ)と膝の間に顔を(うず)めた私は、そういった前向きなのか後ろ向きなのか分からない答えを返した。



 聖女の身体となって一年半。


 私は少し、女性であることを受け入れることにしたのだった。




「けど、女性として生きる、としたら何をすればいいんだろう?」

「んー……、伴侶(はんりょ)を見つけるとか、やない? あのアザゼルさんなんかどないや?」

「……いきなりそこなの!?」

「いやぁ、女の(しあわ)せ言うたらそれやろ。まぁ、うちはリーファちゃんが女の子でも伴侶になって(もら)ってええけど?」


 ()ずかしそうにきゃあきゃあ言いながら妄想(もうそう)を始めるシャラ。いや、女同士でどうしろと……?


◆ひとこと


女性として生きる選択肢を考え始めたリーファちゃん。

本当に元へ戻ることは出来ないのでしょうか?


--


ここまでお付き合い頂きありがとうございました!

もう少しリーファちゃんの物語は続きます!

よろしければブクマと評価などを頂ければ幸いです!


--


次回は明日21時半頃に更新予定です!

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