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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一四二話「私たちの敵は悪魔じゃなくて、天使だった」

正真正銘リーファちゃんの視点に戻ります。

「本当にわたくしが向かっても大丈夫(だいじょうぶ)なのですか、メタトロン様?」

「ああ、ラグエルとサマエル、アザゼルが上手くやっているさ。むしろ、これからの事を考えるとリーファが居なければキツい」


 何やら合図(あいず)を受けたらしいメタトロン様と、シャムシエル、ザアフィエルさんと一緒(いっしょ)に、私はディースブルクの大通りを急ぎ西の方へ向かっていた。本当に久しぶりの外出である。娑婆(しゃば)の空気が美味(おい)しい。


 先日メタトロン様からお(うかが)いした作戦は、「〈変身(メタモルフォーゼ)〉の魔術で聖女リーファに()けたラグエルを(おとり)にする」といった内容だった。


「まさかあの魔術を、こんな形で使ってしまうとは……。そもそもラグエル様は神気(しんき)放出(ほうしゅつ)している天使ですし、マスティマが気付(きづ)いてしまうのではないかと思ったのですが」

「ラグエルにとっては神気を(おさ)えて魔力を放出させることなど造作(ぞうさ)もないことだ。寄越(よこ)した合図は成功を示していたし、上手くいったんだろう。……おっと、ザアフィエルにシャムシエルよ、ラグエルが魔術を行使(こうし)出来ることは、秘密(ひみつ)だからな?」

「は、はい、(かしこ)まりました!」

「誰にも信じては(いただ)けないと思いますが……承知(しょうち)いたしました」


 つい先程作戦の内容を知らされた力天使(ヴァーチャーズ)能天使(パワーズ)の二人は、困惑(こんわく)した様子でそう(こた)えた。そもそも魔術は悪魔が広めたものだからね、御前(ごぜん)の天使が行使出来るなどとは誰も思わないらしい。


 と、聞いた現場に近づくにつれ、何やら大きな剣戟(けんげき)の音が聞こえ始めた。これは……?


「……どうやら、本当に最悪の予想は当たっていたようだな。これから御前の天使が一人減るとなると頭の痛いことだが……仕方(しかた)の無いことだ。はっきりと姿(すがた)(あらわ)した(がん)(かか)えておく(わけ)にはいかないからな」


 メタトロン様が、溜息(ためいき)()きながらそう愚痴(ぐち)(こぼ)す。


 何故(なぜ)なら、街の中心部から少し(はな)れた所にある広場、そこでは――


「サ、サリエル様に、アザゼル様が……!?」


 驚愕(きょうがく)の声を上げたのはザアフィエルさん。それもその(はず)だろう。御前の天使サリエルと堕天使(だてんし)アザゼルが戦っているのだ。


 サリエル様が()るう大きな機械鎌(アームドサイズ)の攻撃を、アザゼルは(なん)なくサーベルでいなしている。サマエルさんは上空から二人とラグエル様を閉じ込める結界(けっかい)維持(いじ)しているようだ。ラグエル様はというと……


聖霊(せいれい)よ、あの裏切(うらぎ)り者を(つらぬ)きなさい! 〈光槍(ジャベリン)〉!」


 ラグエル様の詠唱(えいしょう)(とも)に、彼女の(まわ)りに幾多(いくた)神術(しんじゅつ)(やり)発現(はつげん)する。その槍は一斉(いっせい)にアザゼルの方へ――ではなく、サリエル様へと(おそ)いかかった。神術の一斉放射(ほうしゃ)を受けた死の天使は、歯を食いしばりながらそれを(たく)みに大鎌(おおがま)で打ち消していく。アザゼルに攻撃しながらもあの数を(ふせ)ぎきるとは、流石(さすが)は御前の天使であるとしか()(よう)がない。


「ラグエル様が、サリエル様ではなくアザゼル様を援護(えんご)している!? どういうことですか、メタトロン様!」

「どういうことも無いぜ、ザアフィエル。俺たちの敵は悪魔のアザゼルじゃない、サリエルだ」


 ザアフィエルさんが(おどろ)きのあまり自分より(はる)か上の身分であるメタトロン様に(せま)るも、御前の天使の筆頭(ひっとう)は顔色一つ変える事無く、鎌を振るうサリエル様を見つめたままにそう答えた。


「そ、そんな……」


 神国(しんこく)(もっと)(えら)い天使の一人に言われたもののまだ信じられないといった様子(ようす)のザアフィエルさんが、呆然(ぼうぜん)とサリエル様を見つめながら(くちびる)(ふる)わせた。彼女はサリエル様から指示(しじ)を受けていたようだし、メタトロン様に「(たお)すべき敵」として認識(にんしき)されている事がショックなのだろう。


「リーファは、知っていたのか?」

「……いえ。わたくしも先程、サリエル様とマスティマが(つう)じている可能性をメタトロン様から伺ったばかりです」

「そうか…………」


 シャムシエルも少なからずショックを受けているようで、自分がどうすべきなのか判断(はんだん)に困っている様子。まあザアフィエルさんも(ふく)め、生真面目(きまじめ)なこの二人ならば仕方の無いことかも知れない。


「ショックを受けている場合じゃないぞ、三人とも。アザゼルたちの援護に向かう。……捕縛(ほばく)(のぞ)ましいが、(けっ)してサリエルには手心(てごころ)を加えるんじゃないぞ。アイツは鎌使いであると同時に大神術の使い手でもある。お前たちが手を抜いて勝てる相手じゃないからな」


 大剣を(かた)(かつ)ぎ、メタトロン様がそう(くぎ)を刺す。元御前の天使であるベリアルと戦ったことがある私にとって、手を抜くことなどは考えようも無かった。


「サマエル! 結界の一部を開けてくれ! アザゼルの援護に入る!」

「はいよーん、気を付けてねー」


 下で死闘(しとう)が行われているにも(かか)わらず、サマエルさんはいつも通り呑気(のんき)な声を返してきた。きっと結界は(まわ)りに被害(ひがい)を出さない為もあるだろうけれど、サリエル様を逃がさない(ため)()っているのだろう。


 私たちは各々(おのおの)獲物(えもの)を手に取ると、サマエルさんが開けた入口から結界の内部へと(あゆ)みを進めて行った。


◆ひとこと


ザアフィエルとシャムシエルにとっては、過去「悪魔は倒すべきもの」として行動していましたからね。

味方である筈の天使を倒す為に悪魔に手を貸すというのは、信じ難いことなのでしょう。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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