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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一二一話「対地竜の作戦の要、それは……」

 ディースブルクから(はる)か西にある小高(こだか)(おか)の上、そこに展開(てんかい)された陣地(じんち)到着(とうちゃく)したのは五日後のことだった。ここからはもう国境が近く、遠目で最前線の様子(ようす)がうっすらと(うかが)える。


「ラルフ殿(どの)に、貴女(あなた)が聖女リーファ様ですか。お初にお目に()かります、私はシュターミッツ州第四部隊隊長のテオドール・ライン・フォン・グラーツと申します。階級(かいきゅう)中佐(ちゅうさ)となります」


 恐らく三〇代後半くらいだろう、シュターミッツ州の第四部隊隊長さんは強面(こわもて)(わり)随分(ずいぶん)物腰(ものごし)(やわ)らかな方だった。でも隊長をやっているだけに、部下の前ではきっちりとしているんだろうなぁ、アロイスさんみたいに。


 ちなみにテオドールさんやアロイスさんが戦時下でありながら私に対して下手(したて)に出ているのは(わけ)がある。今回軍へ所属(しょぞく)するにあたり、私は少将(しょうしょう)同等(どうとう)の「特務(とくむ)少将」という階級を(いただ)いているのである。州の各部隊長さんは中佐なので、実質(じっしつ)私よりも二階級下になるのだ。まぁ特別(えら)そうにしたりはしないけどね。


「はっ! ケルステン州第三部隊所属のラルフであります! 階級は中尉(ちゅうい)であります!」

「初めまして、王国の聖女が一人、リーファです。階級は特務少将です。着いて早速(さっそく)ですが、ラルフ隊長と(とも)状況(じょうきょう)(うかが)いたいのですが」


 ラルフさんは私をここまで()れてきてくれた小隊の隊長さんである。聞けばベリアルの騒動(そうどう)(さい)に問題を起こしたイザークさんに変わり、アロイスさんの副官の一人として着任(ちゃくにん)したのだとか。


「はい、長距離(きょり)移動でお(つか)れのところを(もう)し訳御座(ござ)いませんが、状況を説明させて頂きます。後方(こうほう)伝令(でんれい)を送った通り、敵は三人の地竜(ドラゴス)()竜騎士(りゅうきし)隊を中心に編成(へんせい)されており、こちらも魔術師隊で応戦(おうせん)しておりますが、戦況(せんきょう)劣勢(れっせい)拠点(きょてん)のアイマー村を()てて後退することも検討(けんとう)している状況です」

「……なるほど、(かんば)しくないようですね」


 アイマーはシュターミッツ州の最西部の村で、そこを拠点として防衛(ぼうえい)していると道すがらラルフさんから聞いている。場所(がら)(つね)に兵が駐留(ちゅうりゅう)しているので、村民は宣戦(せんせん)布告(ふこく)があった翌日(よくじつ)には(すで)に東へ避難(ひなん)したらしい。


「何しろ、我々は対翼竜(ワイバーン)を中心とした部隊ですからね。地竜は想定外(そうていがい)であり、対抗(たいこう)出来(でき)装備(そうび)や兵器も(そな)わっていないのです。……ちなみに聖女様、失礼ながらお伺いしても(よろ)しいでしょうか?」

「はい、何でしょうか?」


 階級が上ということもあって、私に対して申し訳なさそうに頭を下げるテオドールさん。別に(かま)わないんだけど……と思うけれども、他の兵士が居る手前(てまえ)堂々(どうどう)としておく。


「聖女様は、地竜についてどの程度(ていど)存知(ぞんじ)でしょうか?」


 ああ、なるほど。私にその辺の説明が必要かどうかを確認したいのか。でも私は魔術師なので大丈夫(だいじょうぶ)ですよ、竜の知識(ちしき)は一通りあります。


「そうですね……、他の古竜(エンシェントドラゴン)のように空を飛ぶ事は出来ませんが、皮膚(ひふ)堅固(けんご)で普通の武器では()が立たない。精神操作(そうさ)系の魔術や神術(しんじゅつ)であれば有効。その鈍重(どんじゅう)な見た目に反して馬と同程度の速さで()ける。気位(きぐらい)は高いものの他の古竜に(くら)べて知能はあまり高くはない。……こんな所でしょうか?」

「……(おどろ)きました、よくご存知ですね……」

「わたくしは魔術師でも御座いますので」


 唖然(あぜん)とするテオドールさんに、にっこりと余裕(よゆう)の笑みを見せてみる。ふっ、(となり)に立つラルフさんの尊敬(そんけい)眼差(まなざ)しが気持ちいいぜ。


「なるほど、感服(かんぷく)いたしました。でしたらもう一つ質問させて頂きますが……地竜に対抗する何らかの(じゅつ)をお持ちでしょうか?」

「御座います」


 あっさりと答える私。まぁそこだよね。無ければそもそもここへ来てないんだけどさ。


 私は範囲(はんい)系の攻撃奇跡として中範囲に迎撃(げいげき)出来る〈神の炎(ウリエル)〉の他に、もう一つ(ちょう)広範囲に殲滅(せんめつ)を行う〈メギドの丘(ハルマゲドン)〉という奇跡を持っている。


「ならば、今回はその術をお使い頂けるということでお間違(まちが)い無いでしょうか?」

「……それは、最後の手段(しゅだん)ですね。何しろそれは、半径(はんけい)およそ七〇メートルの超広範囲を殲滅する術となりますので」


 私が真顔(まがお)でそう答えると、テオドールさんとラルフさんは顔色を変えた。そんな危険(きわ)まりない人間兵器が目の前に居ることに恐怖を(おぼ)えたのかも知れない。


 でも、今回はいきなりそれを使うつもりは無い。敵側とは言え大量の人死(ひとじ)にが出るのだ。私としては人道(じんどう)的にも精神的にも許容(きょよう)出来ない。それにこれ使うと神気(しんき)枯渇(こかつ)しそうなので肉体的にも。


「わたくしは古竜語(こりゅうご)を少し話せますので、先ずは防衛(ぼうえい)(てっ)した上で、地竜との対話を(こころ)みたいと思っております。何故(なにゆえ)に彼らが人間に(したが)っているのか、そこが気になっておりますので」


 たぶん魔術師隊の中にも古竜語を話せる人は居るだろうけど、防衛に必死でそれどころじゃないだろうしね。


「しかし……そのような余裕(よゆう)が作れるでしょうか?」

「作ります。そのためには……」


 テオドールさんの疑問(ぎもん)にそこまで答えてから、ちらりと背後(はいご)のサマエルさんを見やる。


「……分かってるよー。アタシの出番(でばん)でしょ?」

「ええ、お手数ですが、お願いいたしますね、サマエルさん」

「ま、可愛い妹分(いもうとぶん)(たの)みだ。やってやろーじゃないの」


 (かた)(すく)めたサマエルさんは、(いや)がることもなくそう応えてくれた。うーん、(たよ)りになるったら。



◆ひとことふたこと


少将に就いてしまったリーファちゃん、大出世ですね!(笑)


シュパン村の畑を荒らした隊を率いていたイザークさんは更迭されたようで。

ここはアロイスさんが責を負うのではないかということは微妙なところですけれどもね。


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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