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僕を聖女と呼ばないで!  作者: 水無月
第三章「悪魔の天使」
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第一一二話「命を懸けてくれた逆転のチャンスを無駄にはしない」

「きゃああ! わ、わたくしの(うで)が!」


 アンナを前に思考(しこう)(めぐ)らせていた時、背後(はいご)でマスティマの悲鳴(ひめい)が上がった。


 急いで振り返ると、母さんにナイフを()きつけていた(はず)のマスティマの右腕がごっそり(ひじ)あたりから消失(しょうしつ)しており、傷口から血を()き出している。


 見れば、マスティマの足元にナイフを持ったままの彼女の腕が落ちており、そして彼女の背後では、血に()れたサーベルを右手に(たずさ)え、(むね)を押さえて苦しむアザゼルの姿(すがた)があった。


「アザゼル……! 貴方(あなた)裏切(うらぎ)るのですか!」

「……この……ようなことに……手を……貸せるか……」


 そうか、アザゼルが(のろ)いの発動(はつどう)覚悟(かくご)してまで、マスティマを裏切って剣を振るってくれたのか!


 状況(じょうきょう)把握(はあく)した母さんが、すぐに自分を拘束(こうそく)していたマスティマの左腕を(つか)み、投げ飛ばした。(ゆか)に叩きつけられ、マスティマはくぐもった(うめ)き声を上げる。


「〈隠された剣(クォデネンツ)〉! あのシスターを()()いて!」


 私の命令で、落ちていた魔剣がマスティマに(おそ)いかかる。しかし彼女はすぐに起き上がると、飛来(ひらい)した〈隠された剣〉を()り飛ばし、背中から一対(いっつい)の黒い(つばさ)を広げたかと思うと落ちていた自分の右腕を掴んで出口へと()け出した。逃げるつもりだ!


(おぼ)えていなさい! 神に(そむ)貴女(あなた)たちには必ず神罰(しんばつ)(くだ)します! 必ず! 必ずです!」

「……〈隠された剣〉、追わなくて良いです、(もど)りなさい」


 万が一マスティマと戦っている間に魔力が()きたら〈隠された剣〉は力を失うため、私は大人しく魔剣を戻した。


 力天使(ヴァーチャーズ)マスティマか。この(けん)は、カナン神国(しんこく)報告(ほうこく)しなければな。




「すまない、聖女リーファよ。助かった」

「うむ、(おん)に着る。まさか私の(のろ)いが()かれる日が来ようとは」

「いえ……」


 マスティマが()った後、私はすぐに〈祝福があるように(ベネディクトゥス)〉でアザゼルとシェムハザの呪いを解いた。ベリアルがシャラにしていたように深部(しんぶ)根差(ねざ)した呪いが残っていないかを(ねん)のため母さんに確認して(もら)ったけど、大丈夫(だいじょうぶ)なようで一安心(ひとあんしん)だ。男とキスするような羽目(はめ)(おちい)らなくて良かったよう。


「その言い方からすると、随分(ずいぶん)と長い間呪いを()けられていたようですね?」

「ああ、俺はもう七、八〇〇年にもなるか。マスティマは神国が方針(ほうしん)を変えたにも(かか)わらず、天使と人間に試練(しれん)(あた)える(ため)に活動を続けていたのだ。神国も(やつ)を持て(あま)している」


 感慨(かんがい)深くそうのたまうアザゼル。そんなに長い間言いなりにされていたのか、可哀想(かわいそう)に。


「お母様、すぐにアンナを()れて家に戻りましょう。マスティマが何か行動を起こす前に、神国へ報告しなくては」


「ううん、そうは言うけどね、リーファちゃん。暗い山道(やまみち)、アンナちゃんを連れて下山(げざん)するのは危険よ。朝になるまで待たないと」

「……そう、ですよね」

「大丈夫。向こうにはシャムシエルさんとサマエルさんが居ます。なんとかしてくれるわ」


 そう言って、母さんは私の頭を()でてくれた。




 仮眠(かみん)を取り、朝を(むか)えて私たちはアザゼルたちの案内の下、下山を始めた。アンナは起きたら家でなかった為に混乱(こんらん)した様子だったけれども、「お姉ちゃんたちと遠足だ!」などとはしゃいでいた。ホントにマイペースな子だこと。


 シェムハザが上空から警戒(けいかい)しながら先行してくれているので、私たちは今のうちにアザゼルからマスティマの情報を確認しておくことにした。


「まず、マスティマが天使と人間に試練を与える天使であることは、奴が話した通り事実だ。悪魔を(したが)えて天使と人間に悪行(あくぎょう)への誘惑(ゆうわく)(おこな)い、それに(あらが)えない者に(ばつ)を与える。それが奴の役目(やくめ)、だった」

「だった、ということは、今は(ちが)うのね?」


 母さんの問いに、アザゼルは「その通りだ」と(うなず)く。


「一〇〇〇年と少し前、そのように(ため)すような行為(こうい)傲慢(ごうまん)であると神国は方針を切り()えた。だがマスティマはその方針を聞き入れなかっただけでなく、神に(あだ)なす者を(さば)き始めた。まぁ、神に仇なしているかどうかは奴が決めているのだが。つまり、今回は聖女リーファよ、お前がそれと判断(はんだん)された(わけ)だな」

「それは……何と言いますか……」


 一人の判断で裁判(さいばん)して(けい)執行(しっこう)とか、あまりの傍若無人(ぼうじゃくぶじん)っぷりに私は顔を引き()らせた。狂信者(きょうしんしゃ)が力を持つとこうなるのか。


何故(なぜ)神国はそのような者を放置(ほうち)しているのですか?」

「それはだな、厄介(やっかい)なことに奴を擁護(ようご)する天使もいるからだ。昔の方針を捨てていない(ちょう)保守(ほしゅ)()というのも神国の中には居るらしい」

「そうよねぇ、神国も一枚岩(いちまいいわ)ではないものねぇ」

「そういうことだ」


 うぅむ、神の(もと)(つど)っているのだから意識(いしき)は同じかと思ったら、そうでも無いのね。ちなみに母さんがその(へん)(くわ)しいのか聞いてみたら、昔、神都(しんと)ハルシオンへ行ったことがあるらしい。そこで世界や神国の()()ちなど色々と学んだのだとか。


「帰ったらすぐに陛下(へいか)へ連絡、そして神国へ取り次いで(もら)いましょうねぇ。クレームよクレーム」


 クレームて。まぁ天使に殺され()けたので気持ちは分かるんだけど。


◆ひとこと


リーファちゃんは男性にぶっちゅーするのは勘弁してほしいそうです(笑)


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次回は明日21時半頃に更新予定です!

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