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大和撫子、恋花の如く。  作者: 南条仁
第7部:水鏡に映る夏空
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第44話:信じる方が無理です


 朝陽が緋色にプロポーズされてから数日後のこと。

 家でのんびりとしていると、久しぶりに撫子達がやってきた。

 夏休みを利用して、遊びに来たらしい。


「家出をしてたと聞いていたら、こんな所に。私の計画の邪魔をしてくれますね」

「家出扱いはお姉ちゃん達の陰謀なの」

「うるさいですよ。何が陰謀ですか」

「い、いひゃい、髪をひっぱらないで~」

「あ、朝陽ちゃんをイジメないであげて。撫子、落ち着いて」


 さっそく従妹にイジメられる朝陽が可哀想すぎだった。

 拗ねる彼女は「ぐすんっ。なんだよぉ」と涙目だ。


「うぅ。先にここで暮らしてたのは私なのに。大体、その別荘の鍵を貸した時点でパパたちだって知ってるじゃん」

「私達を利用して、貴方の様子を探ってこいと言う意味もあったのでしょう」

「なるほどなぁ」

「はぁ、別荘ならこの場所を使えばいい。そう言ってくれた、晴海おじさんにしてやられました。まったく、兄さんとラブラブな旅行のはずが……」

「まぁまぁ。それより、朝陽ちゃんは春からここで暮らしてたのか?」

「そうだよ、猛君。もうすっかりと私の家なのです」


 春に来たときはここに暮らすなんて思わなかった。

 ただの旅行のはずだったのに、すっかりとここが朝陽の居場所になりました。


「ところで、愛の逃避行とか言ってたけど、何をしたの?」

「兄さん、お腹が空きましたね」

「スールかぁ!? 無視ですかぁ」

「説明が面倒なだけです。割愛しても問題はないでしょう」

「ぐ、ぐぬぬ。年下なのにぃ。生意気だよぉ」


 朝陽の扱いが雑なのも通常通りだった。

 空腹なのは事実なので撫子は調理を始めようとする。


「さて、と。冷蔵庫の中はレトルト系ばかりでしょうかねぇ」

「失礼な、材料くらい普通にあるよ。冷蔵庫に入ってるのを適当に使って? ふふふ、私も料理スキルを身に着けたのです!」

「……あぁ、そうですか。カップラーメンとかでしょう」

「違うしっ!? 全然信じてくれないね、ナデ!」

「信じる方が無理です」

「ひどっ。ちなみに得意料理はオムライスです」


 彼女は冷蔵の中を覗き込んで「へぇ」と小さく嘆息すると、


「なるほど。どうやら自炊をしているのは間違いないようです」

「どうよ、ナデ? 私も素敵な女子力を身につけてますよ」

「ふっ。何が女子力ですか、貴方程度が調子に乗らないでください」

「返す言葉がきつすぎて泣くよ」


 打たれ弱い朝陽には辛らつな言葉に耐えられない。


――そんなのは兄と姉だけで十分なのです。


 どうして、こんなにも大和家の人間は冷徹なのだろうか。


「優しさと思いやりを持った方がいいですよー」

「十分すぎるほどに持ってますよ。兄さん専用ですが」

「私にも向けて!?」

「嫌です。無意味な行為はしません」


 朝陽を鼻で笑うと、彼女はエプロンを巻いて挑戦的に言い放つ。


「貴方に教えてあげましょう。私との女子力のレベルの差を」

「なぬ?」

「本物の料理と言うものをみせてあげます」


 何とも負けず嫌いな従妹である。

 

――この子、ホントにプライドの高い子です。


 相変わらずの様子にげんなりする朝陽だった。





 数十分後、朝陽達の前に出されたのはシーフードソースが乗ったオムライス。

 冷凍庫にあったエビや缶詰の貝が見事に調理されて添えられている。


「どうぞ、地中海風オムライスです」

「ナデの料理スキル半端なさすぎ!? なんですか、地中海風って」

「ふふふ、これが実力差というものですよ。思い知りましたか?」

「見た目も綺麗で、漂う香りもゴージャス感が素敵です」


 実際、一口食べてびっくりする。


「お、美味しい」


 口に広がるシーフードの味わい。

 地中海風って言うだけあって、魚介の旨味が口の中に広がる。


――私のスペシャリテを軽く上回る出来。すごすぎデス。


 完全敗北した朝陽は従妹に頭を下げる。


「ま、参りました。私の女子力なんてナデに比べたらまだまだでした」

「分かればいいんですよ。レベル1か2程度でレベル99の私には勝てません」

「ガーン!? そんなに差があったなんて……」


 へこたれる朝陽を横目に猛は同情的になりながら、


「……朝陽ちゃん相手に容赦ないよ、撫子」

「こういうのは力の差を見せつけなくてはいけません。さぁ、食べましょう」


 フルボッコにされた朝陽だが、撫子の実力は認めざるを得ない。

 食べ進めるたびに感激する。


「普通のオムライスと全然違う」

「魚介類があったので、それを利用しました。あと、これは良いトマトですね」

「それは近所のおじいちゃんが作ったトマトです。甘くて美味しいの」

「えぇ。味見しましたが、トマトの味がしっかりする良いトマトでした」

「えへへ。でも、ナデってホントに料理が上手だね」


 ふわふわのオムライスをスプーンですくいながら、


「あむっ。美味しー」

「貴方を喜ばすために作ったわけではありませんが。兄さん、お味はどうです?」

「美味しいよ。撫子の作る料理はどれも好きだな」

「ありがとうございます」


 穏やかに撫子は彼に微笑む。

 

――この子ってホントに猛君の前だと見事な乙女モードになるよね。


 この二面性が苦手なのである。


――私に対してもっと優しくしてほしいです。


 いろいろと自業自得な面もあるのだが、嫌われてばかりでは悲しい。


「ナデはいいお嫁さんになれそう」

「当然です。兄さんのお嫁さんは私の務めです」


 うっとりとした顔で胸を張る。

 その自信はどこからくるものなのか。

 ぼそっと朝陽はつい口走る。


「……いつか浮気とかされたらいいのに」

「今、問題発言をしましたか?」

「さ、些細な冗談ですよ!? 顔が怖いので近づかないでぇ」


 不用意な一言でまたイジメられる。

 従姉妹同士とはいえ、本当に相性の悪いふたりであった。


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