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・作中最悪の王子 陰謀を張り巡らす

・ルプゴス王子


 フィッシュパイはまだ見つからない。

 徹底的に下流を捜索させたところで、見つかったのは関係のない遺体ばかりだった。


「弟よ、お前には心底失望した。この我が王位を継いだその時には、必ずお前をこの王宮から追放してくれる」


 あの時消せていれば、父と兄にこれほど睨まれることはなかった。

 あの気持ちの悪い男が死んでいれば、これまで通り死人に口無しで済んだというのに。


「確かに兄上は長子。だが血統の上では、公爵家の血の流れるこのルプゴスこそが正統。いつまでもふんぞり返っていられると思うなよ、兄上」


「人に濡れ衣を着せるような男に、尊き血など流れていない。ルプゴス、お前と比べたら、そこいらの浮浪者の方がまだ尊い」


「フッ、綺麗事ばかりの兄上らしい言葉だ。この国はこのルプゴスの物だ。下級貴族の母の腹から生まれた兄上になど、玉座は渡さん」


 兄上、ヴァレリウス、忌々しい下せんの血が私の王国にのさばっている。

 父上は罰則とのたまい、魔法学院での私の学生ランクをCに落とした!


 この、最も尊き血を持つルプゴス・アンフィスバエナがっ、下級貴族以下の生活をさせられているのだ!


 王宮での兄との一悶着を、私は生徒会室の書斎で歯ぎしりを鳴らしながら思い出していた。

 そこにノックが響き、私の愛しき奴隷が新しい友人を連れて帰って来た。


「ようこそ生徒会へ、ネルヴァ・ヴァイシュタイン」


 ネルヴァ・ヴァイシュタイン。彼は同じ男に苦渋を飲まされた同志だ。

 この男はヴァレリウスを倒す上で、最高の駒となるだろう。


「フォルテ、こちらに来い」


「え……? で、ですが、今はネルヴァ様が……」


「来い、私のフォルテよ」


「は……はい……ルプゴス様……」


 フォルテを膝に座らせ、私は革張りの背もたれに身体を預けた。

 これならルプゴスに爪を立てられないと、フォルテは安堵したようだ。


「前任者が辞任した。君を生徒会書記に任命しよう」


「……ヴァレリウスに復讐するためか」


 そうだとも。私は口元を残忍に歪めた。


「それもあるが、私は友人として君を迎えたい。その証拠に……そうだな、君が望むならこのフォルテを抱かせてやろう」


「ル、ルプゴス様ッッ!!? い、嫌ですっ、私はそんなこと……っ、あぐっっ?!」


 影からわき腹に爪を立ててやると、ネルヴァの蔑みの目が私を見る。

 私それが痛くもかゆくもない。彼のスキャンダルをよく知っている。我らは同じ男に醜態をさらされた仲間だ。


「お前は私の所有物だ。私が私の物を自由にして、何が悪い?」


「協力しよう。これからは友人としてお付き合い願いたい」


「おお、ネルヴァ! お前ならわかってくれると思っていたぞ!」


「父がルプゴス殿下に感謝していた。【軍用魔法兵の私的運用】についての件、口利き非常に助かったと」


「フ……君との友情のためだ」


 フォルテを膝から突き落とし、私は書斎の前に立つネルヴァの肩に手を置いた。


「だが、どうやってヴァレリウスを殺す? 今やあの男は皇女殿下のお気に入り。実力も今となっては、俺を遙かにしのぐ……」


「うむ……狡猾な男だ。だが心配ない、私の友人が知恵を貸して下さった」


「友人……?」


「出て来てくれ、私のもう1人の友人よ」


 私の友人は潜伏魔法を解き、廊下側の棚の前に姿を現した。


「な……っ!? あ、貴方は……なぜ、ここに……」


「この友人はここ魔法学院に詳しくてね、昇降機にカラクリを仕掛ける方法を教えて下さった」


「なぜ……?」


 私も不思議だ。


「2年生初の迷宮実習、ヴァレリウスの乗った昇降機に異常が起きる。昇降機は奈落の底に彼をご招待、裏階層13階にヤツを叩き落としたのだった……」


 床に倒れたフォルテを振みつけると、奴隷根性丸出しの女は卑屈な声を上げて、主人の行為を喜んだ。


「地上に帰り咲くには、アイアンゴーレム、キングキマイラ、トロルチャンプを倒さなければならない」


「ほう……。それは悪くない、喜んで協力しよう」


「ああ、そう言ってくれると思っていたよ。私は関係者への根回しを行う。2年の君は、やつの昇降機への細工をしてもらいたい」


「いいだろう、それでアレが死んでくれるなら、こちらも面倒が減る」


 足蹴にしていたフォルテを引っ張り起こした。

 その背中に手をかけ、ネルヴァに突き飛ばす。


「い、嫌ですっ、ルプゴス様っ、それだけはお許しを!」


「友人になる証だと思ってくれ。さあ、証明してくれ、ネルヴァ。見せてくれ、フォルテ」


 全ての者は私の思うがままに踊り回らなければならない。

 ネルヴァもフォルテもこのルプゴス第二王子に逆らうことはなかった。



 ・



・ヴァレリウス


 6月25日。迷宮を使った初の特殊訓練の日がやって来た。

 この実習では学園指定のペア相手と協力し、3階層目まで軽く進むお触りの実習だ。


 これは成績に全く影響しない。

 軽く触れて経験を積むだけの準備運動だ。


「みんな番号は手元に渡っているね? ではレクリエーション開始だ。他のクラスに入ってもいいから、ペア相手を探してくれ」


 これも50年続く伝統行事だそうだ。

 番号だけを教えられた生徒は、自力で同じ番号を持つペアを探す。


 社会性を高めるための試みらしいが、まあどう見てもシナリオの都合だろう。

 仲間同士で番号を共有して、他のクラスにペアを探しに行った。


 しかし一時限使って探したのに、俺のペアはどこにもいなかった。

 徒労感を胸に抱えながら担任にそのことを相談した。


「見つからない……?」


「ああ、見つからなかった」


「そうなると、欠席かな。こちらで調整しておくから、番号をくれるかい?」


「手間をかけるな、頼む」


 実習の開始は明日。

 俺としては別にソロでもかまわなかった。



 ・



 翌日、昨日と同じ一時限目の座学の時間に、俺たちは教室の席を立ち、渡り廊下より特別棟に移動した。


 その一階の魔法の扉は既に開かれ、地下へ地下へと続く螺旋のスロープ道がのぞいていた。


「ちょっと、緊張しますね……」


「姫様が心配でごじゃります……。どうしてメメがペアじゃないんでしゅか……」


「お前らがペアが組めたら、見え見えのイカサマになるからだろ」


「あい、ゴネたでしゅが、無理でごじゃりました……」


 真っ白なカテドラルの不気味な雰囲気も、ミシェーラ皇女とメメさんが一緒ならなんでもなかった。


 すり鉢状のカテドラルを不気味な儀式のように廻り、廻って、扉ではなく昇降機が立ち並ぶエリアまで下った。


「俺はこの昇降機みたいだ。またな、ミシェーラ、メメさん」


「はい、また後ほど」


「姫様、メメはやっぱり心配でしゅ……」


 下ってゆく2人を見送り、ペア相手を待った。

 何度来ても薄気味の悪い場所だった。

 地下へと下ってゆく同級生たちの行列も、儀式めいて見えて普通の雰囲気ではなかった。


「お、お待たせしました……」


「ん……お前がペア番号8番か?」


「は、はい……っ」


 俺のペア相手は見覚えのない生徒だった。

 本編のキャラクターではない、本編では顔無しのモブ子といったところだろうか。


 髪色は茶。さらに前髪が長くて顔がよく見えないところが、いかにもモブ子らしい。


「ちょ……っ、な、なんですかっ!?」


「いやすまん、ちょっと顔が気になって」


 この手のモブキャラの素顔は永遠の謎だ。

 それを確かめる方法があるなら、当然やるに決まっているだろう。


「ヴァレリウスだ、よろしく」


「モイラ・ブリュレです……」


「そう緊張することはない。俺は以前、先生と一度入ったことがあるんだが、浅い階層はヌルくて物足りないくらいだった。気楽に行こうぜ」


 カテドラルの上部でうちの担任が出発の合図をした。

 すると昇降機の扉が上から順に次々と開かれてゆき、俺たちの昇降機も開かれた。


「がんばります……!」


「おう、そうすっか!」


 昇降機に入って待つと、すぐにその扉が閉じられた。

 3層目に同じ昇降機があるので、それで戻ってくるようにと再三の説明が終わると『出発!』との声と共にボロい昇降機が降下を始めた。


「モイラさんは戦士科か?」


「はい、長剣を少々」


「俺は魔法科だ。一応前もこなせる。臨機応変に行くので、そっちも柔軟に頼む」


「は、はい……っ」


「しかし遅いな、この昇降機。もっとズドンと落っこちるように動く――うおっっ?!」


「ヒャ、ヒャァァッッ?!」


 昇降機が『ズドン』と落下して、俺は手すりにしがみついた。

 辺りの風景が大理石の地層から、得体の知れない暗黒の霧に変わって驚いた。


「こ、怖い……っ」


「大丈夫だ、死ぬことはない!」


 この展開、知っている。

 ゲーム画面ではテキスト数行の演出だったが、これは今日発生するメインストーリーの1シーンだ。


 暴走する昇降機は落下速度を次第に緩め、最下層に到達すると『ふわり』と紳士的に停止してくれた。

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