「天然ふたり」
~~~クロード視点~~~
秋晴れの一日、家族連れが憩う『酔いどれドラゴン亭』最寄りの公園。
遊歩道から少し離れた木立の中にクロードとウィルはいた。
クロードは建築のアルバイトをしていた時分に使っていた作業服を、ウィルは音楽院の体育着を着ている。
もし自分しか周りにいない時にテレーゼ先生に何かあったら、というウィルの懸念に応えるために週二で行っている戦闘訓練の最中なのだが……。
「わっとっと……痛ててて……っ」
分厚い布を巻いたクロードの膝を蹴るという練習の最中、ウィルがバランスを崩して転んでしまった。
「ウィル様、集中しておられないようですね」
今日はこれで三度目だ。
ウィルの注意力が散漫なのを見てとったクロードは、練習を中断することにした。
「このままではケガをする可能性もあります。今日はここまでといたしましょう」
「ご、ごめんなさいクロード先生。ボクの方から頼んだことなのに……」
ウィルは申し訳なさそうに顔を歪めている。
「お気になさらず。誰しも調子の波はあります。身の入らない時は遠慮なくお休みになればよいのです。調子が悪いのに変に頑張ってしまって怪我をするのが、最も良くないことです」
「……ごめんなさい」
膝に巻いていた布を解いているクロードに、ウィルは重ねて謝ると……。
「ボクその……最近悩んでいることがあって……」
「……悩んでいること?」
テレーゼとハンネスの二台四手を見て以来のことらしい。
ふたりが一緒にいる姿を見るたび、ウィルは胸がモヤモヤしていても立ってもいられなくなるのだそうだ。
なぜそんな現象が起こるのか気になって、物事に集中出来なくなっているのだそうだ。
「ホント、どうしたらいいのか……。おおげさな病気みたいなもんでもないだろうから、アンナのとこの病院に行くのもちょっとと思って……」
普通に考えるならば、それは恋の病だった。
わずか10歳のウィルが、可愛らしくも6つ年上の女性であるテレーゼに恋焦がれている。
テレーゼと仲睦まじく語らうハンネスに嫉妬している。
代表者決定戦直後に出回った噂も影響を与えているのだろう、胸のモヤモヤはそのうち痛みに変わり、彼を苦しめることとなるだろう。
だが、クロードにはそんなことはわからなかった。
幼き頃より執事の修行に明け暮れた結果、恋愛事に極めて疎い人間になってしまったのだ。
自分では未だに初恋のひとつもしたことがないと思っているし、周りの女性から寄せられる恋心も善意のひとつの形ぐらいにしか思っていない。
ましてや他人のそれなどわかろうはずもない。
「なるほど、医者にかかるほどのものではないが自覚症状はあると」
「そうなんです。なので困っちゃって……」
ウィルもまた、極めて純朴な少年であった。
恋やら好きやらという単語の意味自体は知っているものの、それらが体にもたらす効果のことにはまったく思い至らない。
ましてや自分が誰かを恋することがあるだなんて、思ってもみなかった。
この終わりの見えない問題に解答を示したのは、意外なことにクロードだった。
「……もしかしたらその問題、解決出来るかもしれません。というのもですね、実はわたしにもそれに似た症状の出る時がありまして」
「え、クロードさんにもっ?」
まさか自分と同じ症状の人がいたとは、それが他ならぬクロードだとは。
ウィルは驚き、ワアと目を見開いた。
「ええ。奇しくもお嬢様関係で」
「テレーゼ先生の」
「ええ。たとえばお嬢様が何かに成功なさったり、皆様から祝福されている時などに起こります。この間のハンネス様との二台演奏の時にも強く起こりました」
「成功……祝福……それってつまりは感動、みたいなことですか……?」
「ええ。おそらくは」
クロードはこくりとうなずいた。
「胸のモヤモヤが感動より生じるものだと仮定すると、すべてが解決します。ウィル様もまた、お嬢様の成功や幸せに感動しているのではないでしょうか。それが非常に喜ばしいことであると考え、たびたび思い出しては感動している。ハンネス様がいる時に強く感動するのはこの前の代表者決定戦の記憶があるからではないかと」
「なるほどーっ」
いかにも真面目くさった顔で珍回答を披露するクロード。
素直すぎるほど素直にそれを受け止めるウィル。
「それなら納得ですね。よかった、ボクは病気じゃなかったんだ」
「よかったですねウィル様。わたし自身も疑問が解決して、安心しております」
同じ悩みを抱えていた天然男子ふたりは、斜め上の回答にたどり着いてほっと安堵の息を吐いた。
実に牧歌的な、ある晴れた日の午後の出来事だった。
ハンネスの躍進の裏で、未だテレーゼへの想いをハッキリさせられないでいるふたりは今後どうなるのか、気になる方は下の☆☆☆☆☆で応援お願いします!
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