「コンビ誕生!」
さて、そうと決まったら善は急げだ。
翌日の昼休み。
わたしとリリゼットは自席で昼食をとる双子のところに赴いた。
「なんやなんや、ふたり揃って雁首揃えて。改めて謝罪にでも来たんか?」
「いかんなあ菓子折りのひとつも持たんと、それともなにか、体を使っておもてなしでもしてくれるんかあー?」
最低な冗談を言い合いながらホットドッグをパクつく双子。
体中に大量の包帯を巻き、いかにも痛々しそうだが……。
「……んなわけないでしょ、ウソつきども」
一切の冗談を許さぬとばかりに、真顔のリリゼットがふたりの手からサンドウィッチを叩き落とした。
「あんたらねえ、女の子にあんなことしておいて、ただで済むと思ってる?」
「はあー? 聴聞会のお偉方がいいと言ってるんやけどー?」
「てか、わしらの昼ご飯どうしてくれんねんなあー?」
「はあ? 拾って食べれば?」
いかにも田舎のヤンキーっぽくすごむ双子だが、リリゼットはまったく動じない。
いやホントに気が強いなこのコ……などと感心してる場合ではない。
ここはわたしの出番なのだ。
「ねえミゼル、アルゴ。あんたたちってけっこう有名なペアなんだって? 二台四手と四手連弾じゃ、目下負けなしらしいじゃない。すごいわねえ、尊敬しちゃう」
「……はあ? なんや急に」
「……いきなり持ち上げてきて、気色悪い」
突然のわたしの発言に、目を細めて怪しむ双子。
まあそうだよね。
わたしたちの関係性を考えると、何か罠があると感じるのが当たり前。
「あら、わたし本気で言ってるのよ? あなたたちみたいな素晴らしい奏者と一緒にピアノを学ぶことが出来て嬉しいわって」
「「……」」
「あーっと、そう言えば再来月、4つの音楽院合同の発表会があるんだっけ? ソロと二台四手の。そんでもって、その代表者を選ぶための選抜会が来月に行われるんだっけ? ああー、でもでも、残念ねー。そぉぉぉんな怪我してちゃ、練習も満足に出来ないわよねえぇぇぇ~」
「……なんや」
「……何が言いたい?」
テレーゼの悪役顔をこれでもかと生かしたわたしの喋りにイラつく双子。
「あら、わからない? わたしとリリゼットが代わりに出てあげようかって言ってるの、あなたたちの代わりに」
「……はあ?」
「わしらは普通に出る。おまえなんぞが……」
「ダメよ~ダメダメ、無理しちゃダメ。特にアルゴ。見たとこそれ、骨が折れてるんでしょ? だったらきちんと治さなきゃ。ピアノ弾きにとって腕は命より大事なものなんだから。ねえ、わかるでしょ?」
「くっ……」
「……この女、そういうことかい」
ようやくわたしの狙いのわかった双子が、明らかに不機嫌そうな顔をした。
「あら、それともその頃にはきちんと治ってるって断言出来るの? 医者でもないのにわかるの? わからないわよねえ~。もし治っていたとしても、完調とは言えないわよねえ~。にもかかわらず強行出場したらほら、音学院の恥にもなるわけじゃない。それぐらいならわたしたちが……」
「ええわ、乗ったろ」
「わしらと勝負したいっちゅーことやんな? やったるわ」
フィイィイィイィイィーッシュ!
わたしは内心で快哉を上げた。
「だが、ひとつ条件がある」
「せや、わしらと因縁があるのはこの場合、おまえとリリゼットやないやろ」
双子は不敵に笑うと、同時にハンネスを指差した。
「「そこのおデブちゃんとなら、やったるわ」」
え。
え。
え。
ええええええええーっ!?
「はああぁーっ!? あんたたち何言ってんの!? それはない! それはないでしょ! というかそもそもあんたたちがハンネスに何したか覚えてる!? 蹴って殴って罵って! さんざっぱらいじめ倒したくせに! その上で勝負の土俵に上がれっていうの!?」
何事にも控えめで争いごとが嫌いで、しかもこの間の一件で心に深い傷を負っているだろうハンネスに戦わせる? そんなこと出来るわけないじゃない。
他の誰が許したって、わたしは許さないわよ。
人として、中身は20歳も上のおね……お姉さんとして(言い切った)!
「何を言ってるんや、あれはただのケンカやケンカ。聴聞会でもそうゆー結果が出てたやろ」
「いじめなんてものはなかったんや。あるのはただのケンカと因縁。なら当事者同士で決着をつけるのが当たり前の話やろ。外野がいちいちしゃしゃり出てくんな」
「あっ、あんたらって人はあああああー……っ!」
あまりと言えばあまりな言い草に、わたしは憤懣を抑えきれない。
「あんたらには人の心ってもんがないの!? いじめ被害者に自分と戦えだなんてどの口で……っ!」
「……やるよ」
「ほら、ハンネスだってこう言ってるでしょ? やるわけな……え、やる? え?」
「やるよ、テレーゼ」
驚き振り返ると、そこにいたのはいつものハンネスではなかった。
といって、外見がいきなり変わったわけじゃない。
相変わらずのぽっちゃり体型で、背は女のわたしより低くて、メガネの度は強くて頬にはそばかすが散っていて。
でも、その表情にはいつにない覇気がある。
興奮しているのだろう頬は朱に染まり、緑色の瞳には強くまぶしい光が宿っている。
「僕、悔しかったんだ。あの時、テレーゼがバカにされて、ひと芝居打ったみたいに、言われて。今だって、双子に、いいように言われて」
ハンネスは拳をぎゅっと握っている。
怒りからか、それとも恐怖からか、小さなそれは小刻みに震えている。
「ホントは、もっと、すごい人なのに。美しくて、気高くて、まっすぐで。そんな人なのに」
「ハンネス……」
「ねえ、テレーゼ。僕は嬉しかったんだ。あの時友達だって、言ってくれて。こんな僕を、それでもいいんだって言ってくれて。つり合うとかつり合わないとか、考えなくていいんだって、言ってくれて。でも、だからこそ僕は」
逃げたくないんだ、血を吐くような声でハンネスは言った。
「初めて出来た友達だから、初めて認めてくれた人だから。僕はそれに見合う人間でありたいんだ。そのためには、双子と戦うのが怖いからって逃げてるようじゃダメなんだ」
いつの間にか、ハンネスのどもりが消えている。
極度の緊張状態になると震え、まともに喋れなくなるクセが消えている。
「リリゼットのほうが遥かに上手い。それは事実だよ。でも、僕はやってみたいんだ。テレーゼと一緒に戦ってみたいんだ。結果、負けるかもしれないけど、笑いものにされるかもしれないけど。でも、僕は……」
「ハンネス」
わたしはそっと、ハンネスの拳に手を触れた。
掌で、優しく包んだ。
感動した。
少年が殻を破って大人になる瞬間を、初めて目の当たりにした。
それが他ならぬこのわたしのためだっていうのが最高だ。
この気持ちを無下にしたくないと思った。
大事に扱って、方向性を間違えずに育ててあげれば、きっとこのコは将来もっといい男になる。
その姿を見てみたいと思った。
「ありがと、ハンネス。勇気を出してくれて、ホントにありがとね」
「テレーゼ……」
「その気持ち、受け取ったわ。ようーっし、いっちょふたりでぶちかましてやろうじゃない」
「……テレーゼ!」
わたしが受け入れると、ハンネスは希望に顔を輝かせた。
「だけどね、もし負けたらとか考えちゃダメ。勝つのよ、絶対勝つの。わたしと一緒に頑張って、そんで勝つの。ほら見て。あいつらのあの顔。ハンネスに牙を剥かれるなんて思ってもみたかったって感じの間抜け顔」
わたしが促すと、ハンネスは恐る恐る双子を見た。
よほど意外だったのだろう、双子は細い目をいっぱいに見開いて驚いている。
「ねえ、ハンネス」
わたしはごにょごにょと、決闘の文句をハンネスの耳元で囁いた。
ハンネスは何度かうなずき、やがて意を決したように双子を見た、にらみつけた。
「さあ、言ってやろうぜハンネス。せーの、わたしたちは──」
「僕たちは──」
「「おまえたちに──音楽決闘を申し込む!」」
ビシリと指を突きつけると、異口同音に叩きつけた。
テレーゼの活躍が気になる方は下の☆☆☆☆☆で応援お願いします!
感想、レビュー、ブクマ、などもいただけると励みになります




