「初めての友達」
~~~ハンネス視点~~~
クロードとリリゼットは、現場の状況を理解した瞬間血相を変えた。
双子をぶち殺す、いやこの場で埋める、いやいいや粉々にして海に撒くと、それはもう大変な勢いだったが、テレーゼの制止もあってなんとか思いとどまってくれた。
ハンネスとしても双子へのわだかまりはあるが、同級生から殺人者が出るのは避けたかったので、心の底からほっとした。
教師への報告は後々することとして、とりあえずは怪我の治療をしようということで落ち着いた。
「……ねえ、どうして、助けに、来てくれたの?」
保健室で傷の手当を受けたハンネスは、同じように手当を受けていた傍らのテレーゼに問いかけた。
「ひとりだけ、だったのに……。危ないの、わかってたのに……」
自分だったら絶対できない、なのになんでこの人はあんなにも迷いなく助けに来てくれたのだろう。
クロードたちがやって来る保証なんてなかったのに、双子に普通に負けてしまう可能性のほうが高かったのに。
「いっやあ~、それがさあ~……」
テレーゼは、「たはは」と照れくさそうに頬をかきながら行動理由を説明してくれた。
「動いてからようやく気づいたんだよね。自分ひとりしかいないから危ないって事実に。開き直られたら逆にこっちがやられちゃうって事実にさ」
「え、ホントに?」
「うん、そうなるまで全然気づかなかったの。あははははっ、おバカでしょー」
テレーゼは恥ずかしそうに頬を染める。
「普通に考えたらさ、誰か大人を呼んで、それから改めて助けに行けばよかったんだよね。だって、その方がハンネスを助けられる確率が高いんだもん。だけどさ、そう気づいた時にはすでに双子の前に立ってたんだ。手をこうやって広げてて……やめなさいよってさ。完全に頭に血が上ってたんだよねえ~、友達がやられてる、助けなきゃって、それしかなかったんだ」
「友……達?」
その言葉の意味を理解するまで、しばらくかかった。
友達……自分が友達? この人の、テレーゼの?
「そうよ。わたし、ハンネス、友達、OK? ……って、なんでカタコトなのかはさておき、わたしたちって友達でしょ?」
さも当然のようにテレーゼは言うけれど……。
「で、でも僕なんてこんなで……。ケンカも弱いし、気も弱いし……。ピアノだって上手くないし……」
ハンネスは戸惑った。
こんな幸運があっていいのだろうかと、ひたすら不安になった。
「誰かが傷つけられても、テレーゼみたいに助けには入れない。見なかったふりして逃げちゃうと思う。そういう意味でも人格的にダメダメで……テレーゼとは全然つり合わなくて……」
友達、友達、友達。
今までの人生の中で、一度もできたことがなかったのに。
それがこんなに美しい少女で、才能に溢れた天才で……。
こんな幸運があっていいのだろうか。
「つり合わない? そんなこと思ってたの? あっははは、ハンネスはバカだねえ~。頭はいいのにおバカちゃん。まあそうゆーとこが可愛いとは思うんだけどさ」
ハンネスの杞憂を、テレーゼは豪快に笑い飛ばした。
「わたしは頭が悪いし、こういったことにも別に詳しくはないんだけどさ。でもこれだけはわかるよ。友達ってのはそういうので出来てるわけじゃない。何かを持ってるからつり合うとか何かを持ってないからつり合わないとか、そういうのでは出来てないんだよ」
自らの胸を親指で指し示すと、テレーゼはニカッと少年みたいに笑った。
「たぶんね、心なんだ。一緒にいたいとか、話したいとか、そうゆー単純な気持ちの集合で出来てるんだ」
「気持ちの……集合……?」
「たとえばさ、ハンネスはわたしのピアノが好きで話しかけてくれたんでしょ? じゃあさ、もしいま急にわたしがピアノを弾けなくなったらどうする? それがきっかけで、二度と話しかけなくなったりする?」
「し、しない」
「でしょ? それがつまりは、今のわたしたちがピアノ以外の部分で繋がってる証拠じゃん。イコール友達ってことじゃない?」
「そ、そうなのかな……そんな簡単で……いいのかな?」
ハンネスがまだ半信半疑でいると。
「まぁぁぁだそんなこと言ってるのー? ったく、しょうがないなあーっ」
テレーゼが笑いながら肩を組んで来た。
ふわふわした金髪がハンネスの頬に触れ、甘い香りのする胸がハンネスの体の側面にぎゅっと押し付けられた。
「……ふあっ? あ、ひえっ……?」
「ほら、見なさいよハンネス。わたしの頬、首に肘に指に膝。至るところ傷だらけでしょ?」
硬直するハンネスに、テレーゼは体の至る所に貼られた絆創膏を差し示す。
「そんでさ、それはハンネスも同じでしょ? ほら、こことここと、ここも。服着てるから見えないけど、背中なんてもう大変なことになってるんでしょ?」
「う、うん……そうだけど……そうだけどその……近いっ、近いからっ」
「それってさ、もう仲間ってことじゃん。わたしとふたりであの双子と戦って、そして勝った証拠じゃん。イコール友達、わたし、ハンネス、友達、OK?」
「わかった、わかったよっ。友達でいいから、もう離れてっ」
顔を真っ赤にして突き放すと、テレーゼは「にひひ、やーっとわかってくれたかーっ」と頭の後ろで手を組み、楽しそうに微笑んだ。
「もうっ、ホントにテレーゼは……っ」
顔を見れば胸が痛くなり、言葉を交わすたびドキドキする。
女の子に免疫がなく、何かと怖い存在だと認識していたハンネスにとって、それは不思議な感覚だった。
いやいやいや、それよりも何よりも……。
──この僕に、友達が出来たんだ。
その事実に、ハンネスは打ち震えた。
美しく、強くてカッコいい。
そんな女の子が自分を双子の手から守ってくれ、一緒に戦ってくれ、友達として認めてくれた。
──この奇跡の日を、僕はたぶん、生涯忘れないだろう。
おおげさにもそんなことを思いながら、ハンネスはただただ胸を痛めていた。
最後まで泣かないでいられたのは、ほとんど奇跡だった。
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