「入学のための条件」
よっしゃ、クラウンベルガー音楽院に入学するぞ。
なーんて決めたはいいものの、そんなにすんなりいくわけじゃない。
リリゼットによると、入学するためには大きくふたつの方法があるのだという。
まずは多額の寄付金を積むこと。
これがけっこうな額で、わが家……というかわたしとクロードの現在の所持金では全然無理。
テレーゼが家から持って来たドレスやら宝石類を売ればそれなりの金額にはなるのだが、これはクロードに止められている。そういったものは尊き身分にある淑女の武器であり、いざという時のために取っておくべきだというのだ。今さらそんな時が来るとも思えないが、執事とはかくあるべきみたいな人の言う事なので従っておく。
リリゼットが用立ててくれてもいいとの話も出たが、これも却下だ。せっかく出来た友達に、いきなりそんな借りを作りたくない。
となると、残りは実技試験ということになる。
面接、そして5人の審査員の先生たちの前で楽器の腕前を披露し、OKが出れば安価な入学金で入学出来るとのこと。
「そういうことなら実技試験一択ねっ、任せてっ、わたし実技には自信あるからっ」
拳を握って言うわたしを、しかしリリゼットはうさんくさげな目で眺め回した。
上から下まで、じろじろと。
「な、なに急に……どうしたのよリリゼット?」
さすがにそんなに見られると居心地が悪いんだが?
「ダメよ、このままじゃダメ。実技がどれだけ上手くても、あなたの場合、見た目が派手過ぎるのよ。これじゃ審査員の心証を悪くしちゃう」
「リリゼットに言われるのだけは納得いかないんだけど!?」
赤毛でツインテールの勝ち気系美少女とか、派手どころの騒ぎじゃないでしょうが。
わたしの言いたいことが伝わったのだろう、リリゼットはちっちっとばかりに指を振った。
「あのね、わたしだって入学時はそれなりに気を使ったのよ? もちろんまだ子供の頃ではあったけど。髪をストレートにして、衣装も地味なのにして。音楽院って厳格さを重んじる部分があるというか、派手すぎる女はそれだけで悪印象を持たれがちなの」
……な、なんか既視感あるわねその制度。
某日本という国の就活でもそんな風潮あったけど……うっ、頭が……っ?
「あと、そもそもの問題として決闘者も好まれないわね。どうしても賭け事とか裏社会との繋がりを想像しちゃうから、音楽院の風紀を乱す存在だと思われるみたい」
「じゃ、じゃあリリゼットはどうなるのよ?」
その辺はどうなんだおい、元西地区最強の『舞姫』よ。
「わたしは入学して、抜群の成績を叩き出して、教師陣の信頼を得てから決闘者になったからね。そこまで積み重ねたものがあったの。あなたとは順番が違うのよ」
「ぐぬぬぬぬ……なんたることか……っ」
「あと、礼儀作法にもうるさいわよおー。入室してからピアノを弾くまでに17の注意事項があって、退出するに際しても18の注意事項があって……」
「それちょっとうるさすぎじゃない!?」
というかホントに就活と一緒ね!
何十社も落ちて死ぬほど苦しんだ身としては、今の時点ですでに吐きそうなんだけど!?
……いやでも待てよ?
これってもしかしたら、あの時の経験が活きる展開? 就活チートキター?
「ええと、どうするんだっけ……ノックをしたら、入ってくださいって言われるまで入っちゃダメで……ドアを開け閉めする時もそっと静かに……体の向きはどうするんだっけ……?」
あ、ダメだ。
過去のトラウマを思い出した体が勝手にガクガク震えてる。
「んー……やっぱりあなた、そういうこと苦手そうよね。普通のお嬢様ならこういうのは生まれながらに教育されてる部分だから大丈夫なはずなんだけど……何度も言うけど、ホントに公爵令嬢だったの?」
リリゼットはいかにも不審そうな目でわたしを見る。
そんな風に見られてしまうとなぜだか緊張してしまい……。
「え、ええー……ホント……ですよ? ですわよ?」
思わずしどろもどろになってしまうわたしだ。
「……」
そんなわたしをリリゼットはますますうさんくさげな目で見て、周りも微妙な空気になり。
「「「「「……」」」」」
みんなが無言になる中、遠慮なく発言したのがアンナだった。
「……どうでもいいんだけど、やるなら早めにしたほうがいいんじゃない? バーバラの出方だってわかんないわけだし、なんだったらすぐにでも仕掛けてくるかもしれないわけだし、だったら全部早め早めにしたほうがいいんじゃない?」
ものすごい正論に、みんなびっくり顔。
これは急がねばということで、わたしの実技試験対策は急ピッチで進められることとなったのだった……。
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