099 エノールム
「シモンたちは今まで通り戦うとってくれ! 儂ゃ兵士が混乱せんように処置する!!」
朝になって大激浪に終わりが見えた頃に、エノールムなる巨大で白く毛むくじゃらのぷっくりした人型魔獣が現れたならば、今までの戦闘が台無しになるほどの脅威。
メインデルト王は焦りながらプーシーユーに指示を出したら、本部に走って行った。
「まぁ俺たちはこの戦い方しかできないけどな」
「せやけど対策は必要やで」
「シモンさん。何か策はあるどす?」
今まで通りと言われても、相手は体高40メートルはある二足歩行の怪獣。それなりの戦法の変更は必要だ。
「とりあえずこのまま。1キロ切った辺りからの戦い方を考えるか。つっても、俺たちの一斉射撃しかないけどな」
シモンの策も、いつも通り。迷宮ボスと戦うような感じだ。違うことは、弾込め役がいること。必ずプーシーユーの1人に補助を1人付けることは決定。
あとはプックのガトリングガンをエノールムが到着するまで温存して、到着したらガトリングガンを撃ち切ってから二丁あるサブマシンガンに持ち替えることにしていた。
「俺は9号でずっと行く。明後日は筋肉痛だろうな~」
シモンは一番強い銃での攻撃。撃鉄は力一杯引かないといけない形なので、最後はスタミナ勝負となってしまった。
「筋肉痛が2日後って……オッサンか」
「え? みんな2日後じゃないの??」
「ウチは翌日来るどす」
「しゅ、種族差じゃね? まだ俺、24だし……」
「明後日に来る言うたやろ。往生際悪いわ~」
この中で一番年下のはずのシモンが何故かオッサン認定。長生き組には人族の筋肉痛事情は最後まで伝わらないのであった。
プックからオッサンと馬鹿にされたシモンは、「戦闘中だった!?」とか言って狙撃に戻る。ごまかしたことはバレバレだ。
相も変わらずシモンとユーチェは長距離射撃で大物狩り。プックはガトリングガンを温存してサブマシンガン連射。ダークエルフは弓矢に魔法に接近戦で、魔獣を外壁にすら近付かせない。
そろそろラストスパートだと皆の頭に浮かんだ頃に、エノールムに動きがあった。
「ヤベッ。走り出した! 君、王様に報告! 思ったより早く来るぞ!!」
「はいっ!!」
チラチラと動向を見ていたシモン。エノールムは2キロ地点から速度が倍以上になったからシモンは見習い騎士を走らせた。
「デカイだけあって速いな……ユーチェ。エノールム狙いに変更。プックはいつでも撃てるように準備してくれ!」
「はいっ!」
「おうっ!」
ここからは、ユーチェの風読みを急がせ、シモンもできるだけ早く引き金を引き、エノールムにヘッドショットを決めまくる。
ただし、まだ距離がありエノールムも防御力があるからそれほどのダメージとなってなさそうだ。
「走ったじゃと!?」
シモンが必死にスナイパーライフルを撃っていたら、血相変えたメインデルト王が走って来た。
「はいっ! いま応戦中です! 王様は一斉攻撃の準備をしてください!!」
「ああ! 出し惜しみナシにやっちゃる!!」
急転直下。エノールムの到着時間が早まったからには、ダークエルフは急いで配置換えを行うのであった。
シモンたちがひたすらエノールムに攻撃を加えるなか、外壁の下では援護射撃の減った近接部隊は防御陣形で魔獣の群れを押し返す。
そうこうしていたら外壁の上から見るエノールムはドンドン大きくなるから、ダークエルフに恐怖で震える者も出て来る。
『何も問題ない! すでにシモンがダメージを与えとる! 今までより出番が増えるだけじゃ。いや、出番が少な過ぎたな。我々ダークエルフの攻撃力を見せ付けちゃろうぞ!!』
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
そこにメインデルト王が発破を掛ける。信頼高いシモンの名前も出したから、ダークエルフは容易に奮い立った。
「効いて来たよな?」
「はい! 血みたいなの見えました!」
スナイパーライフルに使っている50BMG弾は、エノールムが近付けば近付く程ダメージが大きくなる。シモンとユーチェは少しだけ喜んだら、次の指示だ。
「間もなく1キロを切る。もう風読みはいらない。ユーチェも5号を構えろ。連射モードな」
「はいっ!」
「プック。頼んだからな」
「任せなはれ。あんだけ的がデカけりゃ外すほうが難しいで~」
ここからはプーシーユー、フル稼働。シモンがスナイパーライフルを撃ち続けるなか、ユーチェは立て掛けておいたアサルトライフルを肩に掛けて横のテーブルには弾倉を全て並べる。
プックもサブマシンガンを肩からぶら下げ、テーブルには弾倉。ガトリングガンの持ち手を握り、エノールムが射程距離に入るのを待つ。
「ほな、お先失礼します。喰らえ~~~!」
アサルトライフルのほうが射程が長い。ユーチェはエノールムが王都まで500メートルを切った辺りから連射モードで撃ちまくる。すると20発なんてあっという間。急いで弾倉を交換して撃ち続ける。
「真打ち登場や! うらああぁぁ~!!」
続いて残り100メートル辺りから、ガトリングガンの発射。プックがペダルを勢い良く回すと、弾丸は途切れることなく放たれた。
エノールムはというと、シモンの弾丸で掠り傷がどんどん大きな傷となっていたが、速度が落ちるほどのダメージではない。
ユーチェの弾丸も同じく、体に当たった程度では掠り傷程度。近付くに連れてダメージが大きくなる。
最後に攻撃したのはプック。ガトリングガンも近くになれば多少のダメージはありそうだ。
「足が止まった!」
「ホンマや!」
「撃て撃て撃て~~~!!」
「シモンはん、気張りや~!」
プーシーユーの一斉射撃を受けたエノールム、ついに前に出れなくなる。特にシモンの攻撃を嫌って顔をガードしているが、シモンは喉元や指の隙間に50BMG弾を滑り込ませてダメージを稼ぐ。
その間、プーシーユーは弾が切れたらすぐさま弾倉を交換して、見習い騎士が必死に詰め込む。その一瞬の緩みでエノールムは1歩ずつ前に出ていた。
「あきまへん! プーシー8号、もうじき弾切れや!!」
「こっちも残り2個どす!!」
一斉射撃は強力な分、弾の消費量は尋常じゃない。ガトリングガンもアサルトライフルも弾切れ間近だ。
「君! 王様に一斉攻撃の指示を!!」
シモンはここで切り札投入。
「おう! 任せとけ!!」
見習い騎士に言ったのに、メインデルト王がすぐそこにいたのでシモンはギョッとしたよ。
『放て~~~!!』
「「「「「喰らえ~~~!!」」」」」
次の瞬間には、ダークエルフの魔法部隊、最大魔法で応戦。
溜めに溜めた魔力の攻撃魔法が放たれると、目の前には巨大な火柱が立ち上がり、爆風が吹き荒れるのであった……




