096 フライング
大きく深い樹海の果てから砂煙が上がる光景を見たダークエルフの戦士たちは、慌ただしく戦闘準備に取り掛かる。その頃には薄っすらと魔獣が移動する音が聞こえて来た。
そんな中、プーシーユーはお気楽なモノ。他よりだいぶ前に気付いていたから、緊張感なくペチャクチャお喋りしていた。
「デカイの見えたな……撃ってみるか」
すると撃ちやすい標的が見付かったので、シモンが動く。
「どれやろ……これかな? 猿みたいのどすか??」
「うん。角が2本あるヤツ。頭を狙うぞ」
「はい。確認したどす……5の2……カウントダウン始めます。3、2、1、撃て」
ユーチェの指示で引き金を引けば、50BMG弾は風にも負けず、3キロ先まで凄まじい速度で飛んで行った。
「ヒット」
「ダメだなこれは。この距離じゃあまり効いてない」
しかし、ヘッドショットを決めても魔獣は倒れず。遠くへ行くほど威力が落ちるから、倒すにはもっと近付いてくれないと難しいのだ。
「なあ? おふたりさんや」
「ん?」
「なんどす?」
そこにプックの質問。
「戦いの火蓋、勝手に切ってええんか?」
ダークエルフ軍の射程はまだまだ。それなのにシモンたちはすでに開始してしまったから気になるってものだ。
「まぁ……いいんじゃないか? 王様も忙しそうだし」
「一言は告げたほうがええんちゃうかな~?」
「好きにやっていいって言われてるし……今度は中型狙ってみよう」
「怒られても知らんで~?」
プックの意見は聞き流して、次の標的にヘッドショット。その攻撃で中型の魔獣は足がもつれたように倒れたが、シモン的には手応えを感じていない。
「たぶん即死とはいかなかっただろうな~……」
「あ、後続に踏まれましたどす」
「それでトドメになったかな? しばらく中型狙いでやってみよう」
「減るのは願ったりやねんけどな~」
殺せはしなくとも転倒させることができれば後続に踏まれてダメージになりそうなので、作戦は続行。シモンはついでに、先頭集団と後続を分断できないかと散らして撃ち、中型の魔獣を次々と転ばせる。
そうしていたら、思ったより転倒に巻き込まれた魔獣がいるので、シモンたちはキャッキャッと喜んでいた。
「いったいシモンたちは何をしよるんだ?」
ダークエルフは全員、これから到着するとんでもない数の魔獣を相手にするのだから死を覚悟した顔をしているのに、プーシーユーだけ喜んでいるから、メインデルト王が気になってやって来た。
「あぁ~……えっと……プック、俺は忙しいから説明任せた」
「なんであーし!?」
シモンとユーチェは狙撃に戻ってしまったし、王様は無視できないので、プックは嫌々プーシーユーの戦闘は始まっていると説明した。
「もう戦うていたじゃと!?」
するとメインデルト王ビックリ。まだ魔獣の一匹も見えないもん。
「あーしは勝手に始めてええんかと止めましたんやで? でも、届くからって一方的に……」
「一方的言うと、もう何匹も殺しとるのか?」
「それはわかりまへん。ただ、倒れた魔獣は後続に踏まれたり蹴られたりしてるみたいや。死んでなくとも、かなりのダメージはあるはずやで。それと、先頭と後続の分断もできてるみたいですわ」
「驚きを通り越して呆れんさんな。でも、ブチ嬉しい誤算じゃ!」
メインデルト王は怒ることもせずに去って行ったから、プックは胸を撫で下ろす。その話を聞き耳立てて聞いていたシモンとユーチェも安堵のため息が出ていたよ。
そうしてメインデルト王は本陣に戻ると、以心伝心というスキルを使って報告したら、「わっ」とダークエルフは沸き起こり、シモンコールとプーシーユーコールが鳴り響いた。
「やりづら……」
「うるさいどすな~。声、聞こえとります?」
「聞こえにくい。プック、ちょっくら王様のところに行って騒ぎを止めて来てくれ」
「やからな。面倒なことばっかりあーしに押し付けんなや」
王様の対応なんて、誰もやりたくないってもの。プックも当然やりたくないので、見習い騎士を走らせるのであったとさ。
大激浪は着々と進行中。魔獣が移動する地響きは大きくなり、地面も揺れが感じるほどになって来た。ダークエルフは益々緊張が高まっているが、プーシーユーはすでに戦闘中なのでいつも通りだ。
「弾込め頼む」
「はいっ!」
シモンが長距離射撃を始めてからスナイパーライフルの弾倉交換は3回目。プーシーユーの活躍は見えないけど話はバッチリ聞いていた見習い騎士は、嬉々として弾倉の補充をしてくれる。
「3回目ってことは、100発は超えたんやな」
その大きな塊に大きな弾丸を詰める姿を見ていたプックは、シモンの銃撃の間に話し掛けた。
「ああ。いまのところ弾詰まりはない」
「やっぱり自動にせんで正解やったな。ま、自動やったらもっと時間掛かっていたから間に合わへんかったけど」
「うん。レバーはちょっと重いけど、この距離ならなんとかなる。これで完成でもいいぞ」
プーシー9号、ついに完成。
「それはあーしの心情が許しまへんわ。大激浪が終わったら、本腰入れてプーシー9号改を作ったるさかいにな」
「フッ。プックらしい答えだ」
シモンは生きて帰るような話に聞こえて笑みが漏れる。
「あと、あーし用に……」
「ブッ! ホント、プックらしい答えだ~」
次の瞬間には吹き出すシモン。プックは単純に面白い武器が作りたいだけだもん。
「さあ~て。そろそろ第一波が到着しそうだ。プック、頼んだぞ」
「任しとき!」
「ユーチェ、俺たちは大物だ」
「はいっ!」
「いくぞプーシーユー!」
「「お~!」」
大激浪第一波は、もう間もなく樹海を出る。後続の大型魔獣は2キロ地点を切った。
シモンは気合いを入れ直し、プックとユーチェは掛け声で応えるのであった……
「「「「「うおおぉぉ~!!」」」」」
その数分後にダークエルフから雄叫びがあがったので、「フライングしちゃったね」と照れちゃうプーシーユーであったとさ。




