089 あれよあれよ
七層に到着したシモンは、何故か門番からダークエルフの救世主と呼ばれて握手を求められたから意味不明。とりあえず握手をしてから詳しく聞いてみる。
「なんで俺が救世主になってるんだ?」
「シモンさんの名前を出すだけで、勇者パーティの行いが良くなったからですよ! 名前ひとつで勇者パーティを震わせるなんて、凄い冒険者なんですね~」
「いや、俺はまったく名前が売れてないんだけど……」
シモンは褒められてもついて行けないので反論していたら、プックが閃いた。
「これ、アレちゃいますのん?」
「アレって??」
「女王様と一緒に考えた、『シモンがいつでも見てるぞ作戦』や」
「そんな名前は付いてなかったはずなんだけど……え? 俺の名前だけ先行して七層に来てたの!?」
「さすがシモンさんどす~」
シモン、ビックリ。これはエルフのコルネーリア女王のせい。七層も勇者被害で困っているだろうと、ここの君主に策を与えていたのだ。
「ま、まぁ、通っていいってことだよな?」
「それがシモンさんが来たら、領主様の下へ連れて行くように言われていまして……」
「ええぇぇ~……」
領主直々の呼び出しでは、シモンも逃げるに逃げられない。プックとユーチェもそれに気付いたのか、嫌そうな顔をしているシモンの肩をポンッと叩いたのであった。
「こりゃあこりゃあエルフの英雄殿。よう参られた。儂がダークエルフの王、メインデルトじゃ」
「早い……話の展開が早すぎるよ……」
いま喋った褐色肌で耳が横に長い厳つい顔の男は、正真正銘ダークエルフの王、メインデルト・ヘロルフ・フェルバーン。口調は、とある世界でいうところの広島弁を使うみたいだ。
シモンの言うように何故こんなことになっているかというと、あれよあれよと流されて王都に連れて来られたからだ。
簡単な経緯は、プーシーユーは馬車に乗せられて入口の迷宮街にある領主邸へ。そこで盛大に持てなされ、翌日から馬車旅。4日後に王都に着いてそのままメインデルト王の待つ謁見の間までノンストップで連行されたのだ。
「エルフの女王からワレの名前を使うとええと聞いた時は信じられんかったが、言われた通りやったら勇者パーティの蛮行は止まった。げに助かったでぇ」
「いや、俺は何もしてないので……ちなみにどれぐらい被害があったのですか?」
「まさか勇者パーティが、こがいに早う来るたぁ思うとらなんでな……」
メインデルト王曰く、七層ではそろそろ疎開の準備をしようかと話し合っている時に、急に勇者パーティが入口の迷宮街に現れてパニックになったとのこと。
その時の勇者パーティは荒れていたらしいが、ダークエルフがやっているクラブや娼館に入り浸り始めてからは落ち着いたそうだ。その間に領主はメインデルト王と連絡を取り合い、疎開地に女子供を少しずつ避難させた。
その後の勇者パーティは入口の迷宮街に居座り、クラブや娼館では一切お金を払わない。適当な酒場に入っても一緒。文句を言った者は、笑いながら半殺し。
飽きたら出口の迷宮街に向かい、途中の町や村でダークエルフを襲う。そして出口の迷宮街でも同じ蛮行を繰り返す。
入口の迷宮街では勇者パーティが去ったと喜んでいたのに、ちょくちょく戻って来るから喜ぶに喜べない。それは出口の迷宮街も一緒。
勇者パーティはこのふたつの町を拠点として、シモンがやって来るのを待っていたのだ。
しかし、1ヶ月後ぐらいに銃声に似た音とシモンの手紙が勇者パーティに届き、急に蛮行が止まる。
ただ、シモンがいるのなら、探さないワケがない。勇者パーティは迷宮街にて人を雇ったり、自分の目で探し回っていたそうだ。
「七層に俺はいないのに……ククク」
「よっぽどシモンはんが怖いんやろうな~」
「そりゃあんなに一方的にやられたら怖いどすって~」
「「「あはははは」」」
勇者パーティが無駄なことをしていたと聞いたシモン、プック、ユーチェは大笑い。メインデルト王も釣られて大声で笑い出したから、3人は「ヤベッ。王様の前だった!」と口を塞いた。
「よいよい。こちらは助けられた身じゃ。救世主殿を咎められるワケがなかろう」
「あの……その救世主殿はやめてもらえないでしょうか……気恥ずかしくて」
「ククク。こがいな功績があるのじゃけぇ、ちったあ偉そうにしてもよかろうに」
「俺の性に合わないんです。それに勇者パーティとバッタリ出くわしたら、俺なんてあっという間に殺されますよ」
シモンが下手に出るとメインデルト王は不思議に思ったのか、勇者パーティをどうやって追い払ったのかと質問し、シモンも断り切れずに遠距離攻撃で追い払った逸話を語っていた。
「そがいに遠いくからたぁ……疑うワケじゃないんじゃが、その実力、儂にも見してくれんか? エルフの女王もその腕前にゃあ惚れ惚れしたと書いてあったんじゃ」
「女王様、そんなこと言ってたんだ……」
「何スケベな顔しとんねん」
「意味ちゃうどす。腕前の話どすよ?」
シモンがコルネーリア女王に見初められたような顔をするから、プックとユーチェの冷たいツッコミ。シモンはそんな顔してないと逆ギレしたかったが、メインデルト王の前では怒るに怒れない。
なので話を逸らすために、メインデルト王のお願いに応えて、城の見晴らしがいい場所に移動するのであった。
「何がいいかな……」
許可をもらってアサルトライフルを構えたシモンは、スコープ越しに標的を探す。そして城壁の端辺りで見付けると、プックの双眼鏡をメインデルト王に貸して確認する。
「あそこの角……あの旗って国旗ですか?」
「ほうじゃ」
「じゃあやめましょう。国旗に穴なんて開けたら一大事ですもんね」
「あの距離でも当てられるというのか……」
「はい。ユーチェに協力してもらったら、その3倍は行けますかね?」
「そがいにもか……」
メインデルト王は国旗を狙ってもいいと言ってくれたが、よく考えたらその先に何があるかわからないので標的を変える。見張り台の石壁をメインデルトに見させて、ユーチェの合図でシモンは引き金を引いた。
「す、素晴らしい……5個の穴が綺麗に並んだ……」
結果は脱帽の一言。弾丸が当たった場所は等間隔で穴が綺麗に並んだからだ。
「これを3倍も遠くから行えるのか……勇者パーティを無傷で撃退できるワケじゃ」
「証明になってよかったです」
「うむ。ところでなのだが、シモンは独身か? 儂の娘なんてどうだ? 目に入れても痛うないほどの美人だでぇ~??」
「……はい??」
「ダークエルフは遠くの的を射抜ける者ほど強者じゃと尊敬されるんじゃ。いまならもう1人付けるでぇ?」
またしても謎のシモン人気。メインデルト王からいきなり縁談を持ち掛けられたシモンが固まってしまったから、プックとユーチェが丁重にお断りしてくれたのであったとさ。




