084 七層へ出発
王都にやって来たプーシーユーは、コルネーリア女王と面会したあとは会食に移行。話すことは近況とユーチェのことしかないので、度々ユーチェが顔を赤くしていた。どちらも失敗談が多いみたいだ。
食事を終えると大事な話。コルネーリア女王はシモンの策を察して、出口の迷宮の正確な地図と八層の地図を用意してくれていた。シモンとプックはメイドがチクったと思ってる。
それに加えて、冒険者ギルドの書状とコルネーリア女王の書状。冒険者ギルドの書状は、七層の冒険者ギルドでもシモンを秘密裏に隠してもらえる内容。五層のギルドマスターに書いてもらった物と同じ物だ。
コルネーリア女王の書状は、七層の君主宛。もしもプーシーユーが何か事件に巻き込まれた場合には、便宜が図られるようになっているらしい。もちろんすでに、七層の君主とは手紙のやり取りをして返事はもらえたそうだ。
話し終えたら、今日はお開き。当然のようにお城のVIP客室に通されたから、シモンとプックは苦笑い。部屋が広すぎるから「一緒に寝る?」とか言っちゃってる。
ユーチェが「シモンさんと寝る!」とか言っちゃってるから、その話はお流れ。広すぎるお風呂で溺れ掛けてから、プーシユーは就寝した。
それから3日。プーシユーは毎日王都観光を楽しみ、3日目の夜にコルネーリア女王と会食していた。
「そうでありんすか。楽しめたなら結構でありんす」
「本当にありがとうございました。この御恩、一生忘れません」
「一生忘れないのは、エルフも同じでありんす。シモンたちの活躍は、千年後も語り継がれることであろう」
「それはちょっと……」
「エルフならマジで語り継がれるがな……」
「やだな~。いまの、女王様のエルフジョークどすよ~?」
「「……ホンマに??」」
このままでは伝説になってしまうと、シモンとプックが顔を青くしたら、ユーチェが冗談めかして言った。
まぁ粗忽者の言葉は信じられないのだろう。コルネーリア女王も妖しく微笑んでいるから、まったく冗談に聞こえないもん。
「明日の見送りには顔を出せないが、妾はシモンたち……プーシーユーの活躍を期待すると共に、健やかにいることを祈っているでありんす」
「は、はい。ありがとうございます。女王様、エルフの皆さんもありがとうございました」
コルネーリア女王の別れの挨拶に、シモンは立ち上がり、四方に何度も頭を下げて返す。
こうして王都最後の夜は、別れを惜しむエルフたちに囲まれてゆっくりと過ぎて行くのであった。
翌日、プーシーユーはグレードアップした馬車で王都を立つ。まだコルネーリア女王のお礼が続くのかと、シモンとプックは顔が引き攣ってます。
まるで王族が乗っているかのような馬車なので、下々の者はすぐに道を開ける。町に入った時なんかは、最高級の宿屋にしか行けなかった。
なのでシモンとプックは「お礼なのか罰ゲームなのかわからないよね~?」と、ずっとゴニョゴニョやってる。ユーチェはお礼だとずっと反論していたけどね。
そんな話題ばかりをしていたら4日が過ぎて、町が見えて来た。
「アレかな?」
「せやろな。快適すぎて、旅した気分になれまへんわ~」
「だよな~。たぶんこれ、俺たちの前に騎士団か何かが先行してたんじゃね? 獣の1匹も見なかったし」
「女王様ならありえる。ホンマ、感謝し過ぎやで~」
「それだけエルフは感謝しているんどす。だからパパも張り切って道を切り開いてくれたんどすよ」
「「やっぱり……」」
「あっ!?」
粗忽者のユーチェのおかげで安全安心の馬車旅の謎が解ける。しかしユーチェの父親が先に出口の迷宮街に入っているなら、別れの時に一波乱ありそうだなとシモンは考えていた。
ユーチェが「冗談でんがな~」と言い訳していたら、迷宮街に到着。牧場では涙の別れだ。
「プリンちゃ~ん。達者で暮らすんやで~」
プックの愛馬、プリンと離れ離れになるからだけど、シモンとユーチェは冷めた目で見てる。
「思ったより高く買い取ってもらえたけど……プックに額を言うべきかな?」
「やめたほうがいいと思うどすけど……プックさん、あんなに泣くほど愛でてましたっけ?」
だって、馬は売却ありきで買ったんだもん。シモン的には英雄価格で売却できたからプックと喋りたかったけど我慢。ユーチェはプックが馬と絡んでいるところを見ていなかったから、涙の理由がわからないんだとか。
それからメイドに勝手に用意された高級宿にチェックインし、買い出しと準備、体をしっかり休めたら、プーシーユーは迷宮に向かった。
「ユーチェ……必ず生きて戻って来るんだぞ?」
「パパ……それは約束できへん。だから感謝の言葉聞いて。ウチ、パパとママの子供になれて幸せでした。これからはシモンさんに幸せにしてもらいます」
迷宮の門の前では、ユーチェと父親のユドークスが涙の別れをしていたのだが……
「うおおぉぉ! シモン~~~!!」
「俺に振るな! 怖いから!!」
「涙の別れ、台無しやな……」
ユーチェが結婚するようなことを言うもんだから、ユドークスは激怒。大勢のエルフが見送りに来ていたが、プーシーユーは逃げるように迷宮に飛び込んだのであった……




