069 手紙
シモンの狙撃を受けてトボトボと帰って行く勇者パーティ。岩山の頂上でその姿を双眼鏡で見ていたプックとユーチェは歓喜の声をあげていた。
「急いで狙撃ポイント変えるぞ」
しかし、シモンはまだ緊張を解かない。
「なんでや? あーしたちの勝ちやろ?」
「そうや。追い返しましたやん」
「転移魔法も空も飛ばないなんて怪し過ぎる。回り込むつもりだ」
「「あっ……」」
2人もシモンの危惧していることに納得したら撤収。素早く片付けたら、シモンはしゃがんだ。
「プック、乗れ。時間との勝負だ」
「これがあるからついて来るの渋ってたんでっか。えろうすんまへんな~」
プックがおんぶしてもらうのを羨ましそうに見ていたユーチェは、いいアイデアが浮かんだと言って止めた。
「飛び下りるって……」
「絶対死ぬやん」
「そこはウチの風魔法で減速してやね。たまにやってるから大丈夫どすえ」
「そういえば、エルフはフレズベルクの巨体も浮かして運んでいたな」
「あーしらが乗っていても楽々運んでたな~」
そのアイデアは、前例があったのでシモンとプックは許可。飛び下りるのは怖いけど、急いでいるのは確かなので覚悟を決めて、全員頂上から飛び下りた。
「あっ……1人でしかやったことなかったんやけど……」
「「いま言う~~~!?」」
空中に飛び出たところでユーチェのカミングアウト。シモンとプックは大絶叫で落ちて行くのであったとさ。
ところ変わって勇者パーティサイド。勇者パーティはコルネーリア女王の下を歩いて離れていたが、充分離れた所からカーブして岩山を目指す。
飛んで行けたら楽なのだが、いつ狙撃があるかわからないから、念のため物陰も使ってゆっくりと進んでいた。
岩山の区画に入ると、空中浮遊魔法を使って近場の岩山の頂上へ移動。着地すると頭を低くしてシモンを探す。
何度も場所を変えて頂上を確認していたら、たまたまシモンが狙撃していた場所に着いたが、勇者パーティはそのことに気付いていない。
「チッ……逃げやがったか」
「ここで見付けるのは至難の業だな」
「トモヤが飛んでくれたら行けんじゃね?」
「俺、撃たれてめっちゃ痛かったんだぞ? 弾丸も抜けてなかったからさらにだ。やるなら全員飛ばしてやる」
「落ちたのもヤバイって。チビルかと思った」
勇者ユウキと賢者トモヤがもう諦めるしかないかと喋っていたら、聖騎士リクトと拳聖トモノブが「ぐわっ」と言って左腕を押さえた。
「撃たれた!? 崖にしがみ付け!!」
2人は撃たれた方向と逆に転がって崖を盾にすると、聖者キヨトに治療してもらう。
「マジか……こんな隙間を通すなんて……」
リクトの装備は全身鎧。腕の関節部に銃弾を滑り込ませるシモンの腕に驚愕の表情を浮かべていた。
「クソッ! どこだ!? どこから狙ってやがる!!」
その間、ユウキは崖から少し顔を出してシモンを探していた。しかしトモヤには諦めが見える。
「これは見付からないぞ。今日のところは諦めよう」
「はあ? こんだけナメられて、逃げ帰るってか??」
「今日のところは、だ。やりようはある」
トモヤが策を語っていても、怒りの収まらないユウキはシモンを探していたが、何かが顔を掠めて頭を引っ込めった。
「血……撃たれたのか?」
「あの野郎……」
シモンが再び引き金を引いたのだ。
「外れたのか、わざと外したのか……後者だろうな」
「ああ。ユウキ、殺そうと思えばいつでもできる。撤退だ」
トモヤとキヨトが説得して、なんとかユウキも聞き入れた。
「シモン! 絶対に殺してやるからな~~~!!」
こうしてユウキの絶叫が岩山に木霊するなか、勇者パーティは転移魔法で完全に消え去るのであった。
勇者パーティが転移魔法で消えたなんてシモンたちはまったくわからないので、狙撃ポイントを動かずに「いなくなった? いなくなってない?」と話し合っていたら日が暮れた。
なので3人はマジックアイテムの光を頼りに下山。飛び下りは、怖くてできないみたい。昼間のダイブはユーチェの風魔法で着地できたけど、めちゃくちゃ怖かったんだって。
ちなみにプックの足が遅かったから、シモンが次の狙撃ポイントまで背負って走ったので、息が整うのに時間が掛かったらしい。
下山したシモンたちは、念のため一日は身を隠そうとベースキャンプに決めていた洞穴に向かったら、コルネーリア女王と護衛や従者が待っていた。
そこで従者がセッティングしたテーブル席に着いて、お互いの報告会だ。
「ようやってくれたでありんす。これで少しは行いを正してくれたらええんやけどな」
「たぶん無理でしょうね。だから、俺が常に狙っているように仕向けたら、アイツらもめったなことはできないかも?」
「そこまで考えていたでありんすか。我らエルフは、シモンに足を向けて寝られんでありんす」
「やめてください。俺1人の力じゃないし。それに、俺は勇者パーティを付け回すことなんてできないんで、あとは人任せです」
「確かに神出鬼没にするには、それ相応の説得力は必要でありんすな」
作戦はこれだけでは完璧ではない。シモンたちはこれからについても話し合い、夜が更けて行くのであった……
シモンたちが勇者パーティを追い返した翌日の夜。王都にまで撤退した勇者パーティーは、2日連続酒場に繰り出して店主や客に迷惑を掛けていた。
「も、もうお帰りになられては……飲み過ぎです……」
「ああん? 酒場で酒を飲んで何が悪いんだ! てか、エルフ椅子! 座り心地悪いぞ!!」
怒りの収まらない勇者パーティは酒を煽り、八つ当たりでエルフの男性たちを殴るわ蹴るわ。四つん這いにして椅子にまでさせている。
勇者パーティがそんな傍若無人に振る舞っていたら、「パンッ!」と乾いた音のあとに窓ガラスが「パリン」と割れた。
勇者パーティは何事かとそちらに目を持って行ったが、酒のせいでイマイチよくわかっていない。
そこにエルフの客が近付き、勇者ユウキに手紙を渡そうとした。
「なんだコレ?」
「人族の男に渡されたのですが……」
「人族? ……シモンか!?」
王都にはエルフしか住んでいない。それに先ほど銃声のような音が鳴ったのだから、ユウキはシモンを連想して手紙を奪い取る。
その手紙には「いつも見てるぞ シモン」とだけ書かれていた。
「どこだ!? シモンが近くにいるぞ!?」
「狙撃されるぞ! 窓に近付くな!?」
それだけで勇者パーティはパニック。テーブルを倒して盾にしたり、壁に張り付いたりの慌てよう。
挙げ句の果てには裏口から飛び出して逃げて行く勇者パーティであった。




