033 シモンの夢
勇者パーティの対策会議は、シモンは情報を全て出し尽くしたのでプックと一緒に退室。すると冒険者ギルドのギルマスが追って来た。
「おい。シモン……お前、これからどうするんだ?」
どうやらシモンが勇者パーティを騙したから、心配で聞きに来たみたいだ。
「俺は消える。ここにいたら迷惑になりそうだからな」
「そうか……ちなみに行き先は?」
「ああ~……勇者パーティに聞かれたら、単身六層に向かったと言っておいてくれ。どうせ殺されるぐらいなら、夢を叶えるとか適当なことを言ってな」
「まぁ死んだことにしたほうが安全か……本当に向かったりしないだろうな?」
「さあな。フッ……」
シモンは含み笑いをしたあとはすぐに背を向け、右手を振ってギルマスと別れるのであった。
その足でシモンは下の階にある銀行の応接室に入って預金の半分を引き出す。その手配に少し時間が掛かるので、ソファーに座って待っていた。
「なあ? ホンマは六層に行こうとしてるやろ?」
そこにプックは勝手について来ていたので、シモンは「だから入って来るなよ」とか思ってる。
「別に俺がどこに行こうと構わないだろ。それよりプック……急いで故郷に帰って身を隠すんだぞ? 俺と一緒に顔を見られたんだからな」
「なんでんのん。かっこつけて……プーシーシリーズの整備は誰がしますん? あーし抜きじゃ無理でっしゃろ」
「整備ぐらいなら俺でもできる。新しい武器は作れないけどな……プック。今までありがとな。プックのおかげで、本当に俺は夢を叶えられそうだ」
シモンが優しい目で感謝して頭を深々と下げると、プックの肩は震える。急な別れとシモンの男気に感情が揺れたのだろう。
「……うが~~~!! だからかっこつけんな言うとるやろ!!」
いや、怒っていたみたい。
「あーしもついてく!」
「は??」
「これは決定事項や! 六層でも地獄でもついて行って、もっと凄い武器作ったるわ!!」
「いや、もう充分凄い武器作ってくれたし……」
「あんな中途半端なのであーしが納得いくか! 絶対ついて行くからな!!」
プックが一方的に怒っていたら、受付嬢が「痴話喧嘩ですか~? お若いですね~」と半笑いで近付いて来たので、お金を受け取ったらそそくさ退出。
それからもシモンとプックの問答は続いているけど、プックがシモンの腕に絡み付いて離れてくれないから歩きにくそうだ。
言い争いしながら行き付けの酒場までやって来た2人は、中に入ったところでイレーナと出くわした。
「あなたたち……そんなに進んでたの??」
「「ちっが~~~う!!」」
イレーナはお盆を落として青ざめていたので、シモンとプックは仲良くツッコミだ。
「こいつが離れてくれないんだ」
「シモンはんがあーしを捨てようとするから悪いんやろ」
「それはシモンが悪いわね。ちゃんと責任取りなさい」
「だから違うって言ってるだろ~」
やはり痴話喧嘩にしか見えないので、イレーナはシモンだけ非難してるよ。
「それよりイレーナに話があるんだ」
「わたし? 私はほら? もう縒りを戻すつもりはないから……」
「だから違うんだって。お別れを言いに来たんだ」
「え……」
驚きのあまり固まってしまったイレーナに、シモンは勇者パーティを怒らせることをしたから逃げる旨を完結に説明した。
「これから発表があるはずだから、イレーナもすぐにここから離れてくれ。俺の関係者だとバレたら何をされるかわからないんだ」
「そういうこと……シモンはどこに行くの?」
「知らないほうがいい」
シモンはイレーナのために言うつもりはなかったみたいだけど、プックが言っちゃう。
「六層やで」
「おお~い。なに言ってんだよ~」
「あーしもついてくねん」
「おお~い。なにしれっとウソついてんだよ~」
また痴話喧嘩みたいになっているけど、イレーナは目に涙を浮かべていたので2人はギョッとして喧嘩をやめた。
「そう……ついに蒼き群雄を追いかけるんだね……」
「いや、勇者パーティから逃げるだけなんだけど……」
「ウソつかなくても、私、知ってるんだからね。この日が来るの、私も待ってたんだもん。やっとだね」
「いや、その……」
イレーナに自分の未練が見透かされていたのかとシモンは焦ったが、手を取られたところで覚悟を決めた。
「ああ。やっとだ。イレーナには何かと迷惑掛けたな。絶対に蒼き群雄に追いついてやる。その時は、手紙を書くよ」
「うん。待ってる……弱音も待ってるから、こまめに出してね。あ、シモンのことは待ってないから、プックちゃんと仲良くね」
「ああ……って、だからこいつを連れて行く気はないんだって~」
途中までいい感じの別れだったけど、プックの名前が出たのでイマイチ締まらないのであった。
今日のところは時間も時間なので、このまま夕食。明日は1日やることがいっぱいあるけど、その前にシモンはやることがある。
「マジでついて来るのか?」
「当たり前や。シモンはんにはまだあーしの力がいるやろ」
「俺について来たほうが危ないぞ? 勇者パーティに見付かったら、殺される可能性が高い。殺されない場合は奴隷扱いだ。見付からなくっても、俺は冒険者。いつ死ぬかわからない身だぞ?」
シモンが脅すように言っても、プックの意志は固い。
「その時はその時や。勇者パーティの目を盗んで武器を作ったるわ。それで殺したらよろしいでっしゃろ」
「勇者殺しって……誰がやるんだ?」
「……シモンはん?」
「おお~い。女神様が怒ったらどうすんだよ。天罰落ちて結局俺だけ死ぬだろ~」
プックは大それたことを言うし、シモンが迷宮で死んだ場合は遺産で五層に戻るとか言っていたので、ついにシモンも折れた。呆れたとも言う。
「もう好きにしろ」
「やった! 最強コンビ、再出発やな!」
「誰にもそんなふうに呼ばれたことはないけど……まぁ、これからもよろしく」
シモンとプックの活動は秘密裏に進行しているので、誰も知らない。それでも2人は固く握手をして、結束を固めたのであった……




