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作戦当日-2

 5月23日 0759時 西サハラ


 ファリド・アル=ファジルはこの日、最初の礼拝を終えたところだった。立ち上がり、AKMSを拾い上げると、テントを目指して歩いて行く。丁度、同じように礼拝を終えた部下たちは、慌ただしく朝食の用意を始めたところだった。このテロリストキャンプは、辺鄙な砂漠のど真ん中にあるにも関わらず、衛星電話回線、テレビやラジオの衛星放送受信機、GPS、Wi-Fiなどが設置され、デジタル通信環境はかなり充実していた。今日は、ヨーロッパに潜入した細胞が行動を起こす日だ。アッラーの神に、成功を祈らねばならなかった。

 食事の準備に関わらない部下たちは、電話をかけたり、パソコンやタブレットでギリシャにいる同胞たちに、アル=ファジルが指示した通りのメッセージを送っていた。攻撃決行である。


 5月23日 0813時 モナスティラキ駅


 駅へと続く階段は、通勤客でごった返していたが、幸いにも、"ブラックスコーピオン"のメンバーたちが乗っている車両は、アテネの中心街から離れる下り線であったため、そこまで混雑はしていなかった。彼らは、腰のファニーパックにP320拳銃を、肩から掛けている鞄にウージ・サブマシンガンを入れている。特に、サブマシンガンの方は、銃のシルエットを隠すのと、他の人間に当たって、気づかれるのを防ぐため、分厚いウレタン材で覆っている。ポワンカレとミュラーは、それに加えて、手提げの大きなブリーフケースを持っていた。これには、通常分解したスナイパーライフルが入っている。彼らは、現地に到着すると、警察のスナイパー・チームと合流し、他のメンバーとは別行動を取ることになる。


 ホームは非常に混雑していたが、ファリロ駅へ向かう方面の電車は、それ程多くの人は乗らなかった。彼らは全滅を避けるため、2人ずつ、別々の車両に乗り込んだ。不審物や不審者への警戒も、勿論、怠らない。ファリロからは、鉄道のニューファリロ駅へ向かい、そこからは乗り換えてツィツィフィスに向かう。そうなれば、今回の仕事場は、もうすぐそこだ。


 5月23日 0823時 ギリシャ アルハネス


 ヘリポートの格納庫から、オリーブドラブに塗られたHH-60Gが引き出された。ハリー・パークス以下、航空部隊のメンバーがヘリの状態を陸軍の整備兵たちと確認する。全て申し分ない状態のようで、燃料さえあれば、いつでも飛び立てる状態になっていた。作戦が開始されれば、地上部隊の『足』となって、アテネの市街地を飛び回ることになるはずだ。空を見上げてみると、既にテレビ局のものと思われるAW-139が1機、飛んでいくのが見えた。

 パークスとジョージ・トムソンはヘリに乗り込み、APUを作動させた。電源が入り、機械音が鳴り始める。ギリシャ陸軍の兵士たちがタンクローリーからホースを引き出し、給油し始めた。ベイカーとリースは、機体の両側に取り付けられたM134ミニガンの調子を確かめた。ボタンを押すと、モーター音を鳴らしながら、6本の銃身が回転する。整備クルーが、NATOの標準規格の7.62mm普通弾と曳光弾をつなげたベルトリンクを箱に入れた状態で持ってきた。

「曳光弾は5発に1発の割合だ。予備は1丁につき1箱分までだ」

 ギリシャ軍の整備クルーがダニエル・リースに話しかけた。

「それだけあれば十分だ。そこまでバンバンぶっ放すものじゃないからな」

 できれば街中でミニガンを撃つのは避けたかった。毎分4000発で7.62mm弾を吐き出すこの銃を使えば、普通乗用車は1分も有れば鉄屑になり、テロリストならば数秒でハンバーグの材料に変えてしまう。

「それよりも、できるだけそっちを使ってくれよ」

 リースとベイカーは狙撃用スコープを搭載したヘッケラー&コッホG-3SG1を背負っている。上空からテロリストを狙撃する事になったときのためだ。


 ヘリのキャビンの中には様々な種類の予備弾薬、ファストロープ用のケブラー製ワイヤー、無線機が積まれている。また、サイドドアにはケブラーとチタン、鉄板を重ね合わせた防弾板も追加されていた。


 5月23日 0845時 ギリシャ ツィツィフィス駅


 電車がホームに進入し、停車するとドアが開いた。ようやく、今日の仕事場にたどり着いた。傭兵たちは、駅の利用客の動きの流れに乗って、改札にICカードを触れさせて通り、地上へ出る階段を登った。


 傭兵たちが降りた電車の1本後の車両から、大きな荷物を持った数名の男たちが降りてきた。1人の駅員が、今日はやけに大荷物を持った客が多いな、と彼らを見て思ったものの、それ以上の注意を払うことは無かった。


 5月23日 0834時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ジョン・トーマス・デンプシーは、いつもどおりにオフィスに向かい、ロッカーの鍵を開け、中からHK416Dと装填された弾倉の入ったマガジンパウチを取り出した。ユーロセキュリティ・インターナショナル社の職員は、一部を除き、皆、武装した上で野戦服と防弾チョッキを着て、更には自動小銃と拳銃を携行して仕事をしている。デンプシーはグロック19をホルスターから取り出し、弾倉をグリップから外し、中に15発のハイドラショック弾がきっちり装填されていることを確認した。


 社屋の敷地内では、自動小銃で武装した警備員が何人も巡回し、1ヶ所しかないゲートには、常にバレットM82A1とブローニングM2重機関銃の銃口が向けられ、自爆テロ対策に隠れた場所からM47ドラゴン対戦車ミサイルの狙いを付けている警備員もいる。今日は、ギリシャでのテロの恐れありとの情報がヨーロッパ各国の軍や警察、情報機関の間で流れていたため、より一層、職員たちは警戒感を強めていた。

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