Operetion Spring Britz-2
5月8日 2014時 西大西洋 西サハラから12海里の公海上
MH-60LとEC-225が一斉にローターを回し始めた。キャビンのドアが開き、甲板を歩いている重武装の特殊部隊員たちがぞろぞろと乗り込んでいく。ここから一旦、西サハラの砂漠に建設された、前方展開基地へ行き、燃料補給の後、ゴーサインを待つことになる。凄まじい爆音が夜空を切り裂き、ディーター・ミュラーが空を見上げた。緑のかかった光の点が4つ、凄まじい速さで飛び去っていく。どうやら、上空援護のため、イギリス海軍が戦闘機を飛ばし始めたようだ。
"ブラックスコーピオン"のメンバーは、ヘリに乗り込むと、離陸前に装備の全てを再度点検した。
「武器よし!」
柿崎が声を上げる。
「暗視装置よし!弾薬よし!」
トリプトンが続く。
「水よし!非常食よし!医療セットよし!」
ネタニヤフが言う。
「全部OKだ。離陸していいぞ」
山本がコックピットに座るハリー・パークスに言う。
「ミストラルへ、こちら"ブルーホーク"。発艦許可を願います」
『ミストラルから"ブルーホーク"へ。発艦を許可する』
傭兵部隊のMH-60Lがゆっくりと離陸していった。フランス軍の4機のEC-225も続く。更に、それらのヘリを護衛するため、EC-665タイガー攻撃ヘリも4機、離陸した。
空母"クイーン・エリザベス"の甲板からF-35Bが2機、立て続けに発艦した。更に2機が続き、シーキングAEWも飛び立っていく。西サハラには脅威となる航空機はいないが、モロッコ空軍が接近してくる可能性があったため、イギリス海軍は上空援護のため、戦闘機を飛ばすことにしたのだ。
5月8日 2028時 大西洋上空
真っ暗な海の上を、ヘリの編隊はお互いの航法灯、GPS、慣性航法装置、レーダーを頼りに飛び続けた。計画では、ここから西サハラに設置された前方展開基地に着陸し、燃料を補給する。周囲には味方のヘリの航法灯以外は何も見えない。ハリー・パークスは計器のMFDを見つつも、窓の外の様子を肉眼で確認することを怠ることは無かった。
F-35Bの編隊は、ある程度西サハラに近づいた後、上空をワゴンホイールで飛び始めた。兵器倉にはミーティアとASRAAMが搭載されている。西サハラにはレーダーサイトは無く、モロッコ空軍の戦闘機もまともに稼働しているような状況では無かった。よって、脅威になるようなものは確認できなかったが、戦闘機はヘリがターゲットにたどり着くまでは上空を飛び続けた。
洋上を飛び、程なくして陸地が見え始めた。砂漠の海岸沿いには幹線道路があるが、車が通っている気配は殆ど無い。ここから上空約2万メートルの辺りにRQ-4Bグローバルホークが偵察と作戦支援のために飛行しているはずだが、ここからは勿論、見ることはできない。ヘリは市街地を避けつつも、最短ルートで補給地点にたどり着くように飛行した。
5月8日 2031時 NATO本部
NATO本部の作戦司令室では、立派な階級章を付けた将校たちや、NATO加盟国の国防省の高官連中が衛星画像で作戦の進行状況を確認していた。ここでは映像を見ることはできるが、現地の部隊と交信することはできない。これは、COSとSASの司令部が作戦に当たって、NATOの司令部と現地部隊との交信が一切できないようにしたためだ。NATOの将官たちはともかく、各国の国防省の高官たちは納得しなかったが、SASの将軍は、司令部が作戦状況を確認でき、尚且つ現地部隊と交信ができることによる弊害をよくわかっていたため、これだけは頑なに譲らなかった。
ジョン・トーマス・デンプシーは作戦状況をじっくりと見ていた。ヘリの部隊が、それぞれのターゲットへ向けて飛び、さらにその上を戦闘機が飛んでいく。
「やれやれ。どうしてこうも文民のアホどもは、こうもあれこれ口を出したがるのかね」
デンプシーは、回りの人間に聞こえないような小声で、フランス人情報将校の大尉に話しかけた。
「自分たちも作戦に関わっているつもりだと思いこんでいるんですよ。ゲーム感覚でいるだけです」
「全く。007のMにでもなったつもりか。対テロ戦争はボードゲームじゃ無いんだぞ。俺の親友たちの命がかかっている」
「自分も特殊部隊に所属していますから、その辺りの気持ちはよくわかります。全く、軍隊経験の無い政治家をこういうことに関わらせると、ろくなことが無い」
5月8日 2059時 西サハラの海岸上空
暗視ゴーグル越しにターゲットの海岸が見えてきた。爆音とともに、4機のF-35Bが上空を通過していく。
『こちら"ワイバーン1"、上空に脅威無し。レーダーに反応無し』
F-35BはAMRAAMやASRAAM、他にもJDAMやHARMも搭載していた。だが、これらを使う事態になる様子は無かった。モロッコ空軍は戦闘機を飛ばしてきてはおらず、地上から早期警戒レーダーや地対空ミサイルの照準レーダーが作動している様子は無かった。
「地上のゲリラの携行式SAMやRPGに気をつけろ。どこに隠れているからわからないからな」
EC-225のパイロットが警告した。キャビンでは、MG-3の銃口をコマンドー・ユベルの隊員が地面に向けている。今のところ、ラクダや馬すら地上を歩いている気配は無い。
「地上に異常無し。予定通り、FOBへ飛行する」
"ブラックスコーピオン"のMH-60Lには、EC-225とは違い、地上警戒レーダーや地形追随レーダー、FLIRが搭載されいていた。そのため、地上に穴を掘り、地中に埋まっていない限りは、人間サイズの地表のあらゆる熱源を探知できた。




