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反撃の狼煙

 4月19日 0913時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 モナコ事件以来、テロリストは鳴りを潜めていた。ようやく春の陽気が中部以北のヨーロッパ各国にも訪れ始め、ここも数日前よりは薄着になっても快適に過ごせるようになってきた。ジョン・トーマス・デンプシーは、自分のオフィスで改めてモナコの件の報告書に目を通していた。そこで繰り返し書かれていたのは、9mm拳銃弾の威力不足であった。その時は、市街地での戦闘になることも考慮し、従来の9mm拳銃弾を使ったのだが、AKやガリルを持った相手には、たとえサブマシンガンであっても射程距離のから歯が立たないと指摘されていた。そこで、デンプシーは新たな武器の調達に踏み切った。


 射撃場に銃声が響いた。柿崎一郎は、この新たに支給された拳銃のスライドを固定し、弾倉を取り外した。足元には、ライフルの弾をそのまま小さくしたようなボトルネック型の薬莢が散らばっている。

「それにしても、ボスも凄まじいな。報告書1枚で武器を全部更新しちまうだなんて」

 クリス・キャプランがホルスターから、柿崎が持っているものと同じ拳銃を取り出した。その銃はフレームとスライド・トリガーがプラスチックでできていて、一見しただけでは、まるでオモチャのようだ。だが、この銃に使われる5.7×28mm弾は、自動小銃のライフル弾並みの貫通力を持ち、レベルⅢAまでの防弾チョッキを100m以下の距離ならば楽々貫通するという。その上、人間の体内のような柔らかいものに入った場合、縦回転をして中で留まりやすいので、テロリストの体を貫通して無関係の人間に当たる危険性も少ない。これは、FNハースタル社の社内実験でも検証済みだ。

「MP-5やグロックも全部廃棄したのか?」

 柿崎が訊く。

「いや、廃棄はしていない。あくまでも前線装備から外しただけだ。予備武器として登録はしてある」

 デンプシーは、グロックとシグザウエルをFN57に、MP-5やUMPをP-90にそれぞれ更新した。確かに9mm弾は入手も簡単で、世界中どこにいても予備弾の補給をすることができるが、重武装したテロリストに対しては威力不足であると前々から指摘され続けていた。しかし、それ以上に汎用性の高さという点で、世界各国の軍や警察は、更新に尻込みしていた。だが、ユーロセキュリティ・インターナショナルのような小回りの利く組織では、その法則は当てはまらなかった。デンプシーは即座に新たな武器のトライアルを行い、結果として、FN57とP-90に軍配が上がった。

「よし、ちょいと試してみるか」

 キャプランは人形の標的に防弾チョッキを着せて、射撃レーンの向こうに置いた。どうやら、貫通するかどうかを試すらしい。

「よし、撃ってみろ」

 柿崎は防弾チョッキを着た標的を撃った。ガキン!という金属音が響く。標的を確認してみると、防弾チョッキに穴が空き、銃弾はマネキンにめり込んでいた。


 4月19日 0936時 ベルギー NATO本部


 爆音を響かせ、ガンメタルに塗装されたMH-60Lがヘリポートに着陸した。キャビンのドアが開き、ジョン・トーマス・デンプシーが姿を現した。既に、FN-F2000を持った警備兵が迎えに来ている。今日は、NATOの最高幹部との会合だ。NATOはいよいよ続発するヨーロッパでのテロに対し、本腰を入れ始めたようだ。そのため、今日はドイツ国防省ではなく、NATOの本部に直接行くことになった。


 デンプシーはヘリから降りると、ジョージ・トムソンらに手を振った。ヘリはエンジンを切り、そのまま駐機した。ヘリポートの作業員が、ヘリに燃料を入れ始める。


 デンプシーが通された会議室では、既にNATOの最高幹部たちが席に着いていた。給仕の少尉がコーヒーをどうするのかを訊いた。

「紅茶はあるかな?」

 デンプシーが返すと、少尉は頷いて一度、部屋から退出した。


「さて、議題はここ最近のテロのことだ。これは、何者かがヨーロッパを狙って、組織的かつ計画的に行っているとしか思えない」

 NATO副司令官、ハインリヒ・シュナイダーが口を開いた。各々の目の前にはタブレットが置かれ、一番奥の壁際には、巨大なスクリーンがある。そこにヨーロッパの地図が表示され、幾つかの赤い点が重なる。ここ1ヶ月程で、テロが発生した都市だ。

「次のテロ計画は何としても阻止したいところだが・・・・・、それはほぼ不可能なのが現状だ。例の北海で強奪された核物質の行方もわからないまま。SASとフランス陸軍第2外人空挺部隊を主体にしたチームが捜索しているが、未だに手がかりすら見つかっていない」

 副司令官は、そこで一度、言葉を区切った。

「問題は、あらゆる面で我々が後手に回ってしまっているところだ。主導権を敵に握られ、攻撃を受けたときには、既に犠牲者も出てしまっている。そこでだ。次は、奴らにこっちから攻撃することとした。既に、諜報員を東欧、中東、アフリカに派遣している。SBSやフュージリア海兵コマンド、COMSUBINなどが、敵を追跡しており、命令さえあれば、いつでも攻撃可能な状況にある。これ以上、テロによる市民の犠牲を出さないようにするには、先制攻撃以外、方法は無いとの結論に至った。法的問題もあると思われるが、敵は国家ではなく犯罪者集団であるから、国連が禁じる先制的防衛には当たらない。他にも攻撃すべき目標はあるが、人手が足りないのが現状だ・・・・・・」

 なるほど。手を貸せって訳か。デンプシーはすぐに理解した。確かに、"ブラックスコーピオン"は、法的制約に縛られること無く、テロリストを排除できる数少ない存在だ。

「我々のチームの出番ですな。で、目標は何です?」

 デンプシーが言うと、副司令官はパソコンのキーボードを叩いた。

「今回、我々が計画しているのは、今、わかっているテロリストの拠点への攻撃だ。イスラエルがよくやるような方法だが・・・・・・」

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