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リゾート-2

 4月1日 1306時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 射撃場に銃声が鳴り響き、人間の形をしたボール紙の頭と心臓の辺りに幾つか穴が空く。ジョン・トーマス・デンプシーはステアーAUGの弾倉を取り替え、再び標的に銃を向け、引き金を引いた。5.56mm弾の薬莢が飛び散り、足元に転がる。天井のレールに沿って標的が射座の前に動き、射手の1m手前まで近づくと、標的を支えているクリップが自動的にボロボロになった標的を床に落とす。デスクワークばかりになったものの、仕事の合間を見つけては、こうして射撃訓練やアスレチックコースでの障害物走をしている。デンプシーは自動小銃の弾倉を取り外し、ボルトを引いて薬室を開けると、今度はホルスターからシグザウエルP226を取り出した。両手でしっかりと構え、標的に狙いを定め、引き金を引く。SASにいた頃は、こうして体を動かすことを続けることができると思いこんでいたが、今ではなかなかできないでいる。今日はたっぷりと訓練をする時間ができたので、この後はアスレチックコースを3周するつもりだ。

 デンプシーは足元に落ちている標的を拾い上げた。全ての弾丸が頭部か心臓の辺りに集中している。こうしていると、自分もまだまだ現場に出ることができるのではないか、と思えてくるが、トリプトンやパーカーから『年寄りの冷や水はやめろ』と言われるのは目に見えている。弾倉3つ分を撃ち終えると、スライドを下げたままで固定し、銃の手入れを始めた。

「まだ腕は鈍っちゃいないようですね」

 デンプシーが撃った標的を拾い上げて、クリス・キャプランが言った。

「おいおい、舐めてもらっちゃ困るよ。まだまだ実戦には使えるぞ」

「しかし、昨日、障害コースを何分で走りきりました?少なくとも、ハワードより5秒は遅かったと記憶していますが」

「くそっ、年は取りたくないな」

「いつまでも走り回ったり、アスレチックを登ったりはできないですよ。いつかはそんな日が誰にでもくるものです」


 4月1日 1311時 モナコ公国


 ミュラーと柿崎は食料品やミネラルウォーター。トイレットペーパーなどが入った紙袋を片手で抱え、隠れ家にしているアパートへと向かった。それぞれの組が買うものを決めておき、効率よく必要なものを揃えるようにしていた。全員が拳銃を携行し、いざという時に備えている。また、すぐに拳銃を使えるように、必ず利き手で物を持たないようにしていた。丁度昼休み時なので、サラリーマンや学生がレストランやカフェへ向かい、昼食を楽しんでいる。柿崎は時折、何か不審なものを置いて立ち去る人物がいたり、不審な物が置いてあったりしないかどうか警戒し、周囲に変化が無いかどうか気にしながら観光客然とした様子で辺りを見回している。だが、二人ともサングラスで目を隠しているため、外見では目の動きを見られることは、まずは無いだろう。そして、隠れ家にしているアパートの1室の前に戻ってきた。

 柿崎はドアをノックすると中からトリプトンの声が聞こえた。

「ボスのお気に入りの銃は何だ?」

「何の変哲もない、13連発のブローニング・ハイパワーだ。士官学校を卒業した時から使っていた、博物館行きになりそうなくらいの年代物だ」

 ドアが開き、拳銃を持ったトリプトンが姿を現した。彼は一歩外に出ると、ドアの外の周囲の状況を確認してから、二人に入れと合図した。

「早かったな」

「ああ。とりあえず、これだけ買ってきた。これなら・・・・5日間は持つ。まあ、また買い物に行かないとな」とミュラー。

「外の様子はどうだ?」

「今のところ、変わった様子は無い。だが、夕方あたり、違うルートで見回ってみようと思う。暫くここで休もう」

 部屋には通信機器が並び、ラジオ、テレビは情報収集のため点けっぱなしだ。キュルマリクが窓のあたりにスナイパーライフルを設置してみてはと提案したが、何も知らない市民や警官に見られたら厄介事になるとトリプトンは判断し、却下した。トム・バーキンが机に置いた大型無線機のダイヤルを回し、警察と消防の無線を傍受している。今のところ、変わった内容が飛び交ったり、通信が急に増えたりする様子は無い。

「見回りなら、次は俺が行こう。一人につき1回だけ。交代しながら行けばいいさ」と、山本。

「それもそうだな。よし、じゃあ、偵察は手が空いた人間が交代しながら行くことにしよう。ここを守る人間と、本部と連絡する人間をここに置いておく必要があるからな」リピダルがそう提案した。

「悪くないな。じゃあ次は俺と・・・・・」

「俺が行こう。丁度、外の空気を吸いたいところだったからな。ただ、できるだけ夜間の外出は避けたほうが良さそうだな。不意な襲撃を受けるかも知れない。これを見てみろ」

 ネタニヤフが読んでいた新聞を柿崎に差し出す。それには"テロ予告警戒 政府は夜間の外出を制限するよう市民や観光客に呼びかけ"と書かれていた。

「状況が悪すぎるな。睡眠も交代で取るべきだな。最低でも、2人は見張りとして起きている必要がありそうだ」

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