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避暑に行こう! 12

今日も1更新です。

「き……っ、きゃああああああ!!」

「!?」


な、何事!?

突然どこからか響いてきた悲鳴に浮上しかけていた意識が一気に覚醒し、私は目を開けた。

すると飛び込んできたのは、横を向いたラクロさんの姿。

ソファに横になっている私の前に膝をついている。

その手は、私の頭にあった。

これは……先に目が覚めたラクロさんが、眠ってる私の頭を撫でていた、と考えていい……のかな?

……寝顔を見られた……恥ずかしい。

……あれ、でも、さっきの悲鳴は何……?

疑問が浮かんだ私は、ラクロさんの視線を追ってみた。

すると、部屋の扉が開いていて、そこに怯えたような表情のアージュが立っているのが見えた。


「アージュ……? どうしてそんな顔をして」

「ク、クレハ!! 大丈夫っ!?」

「へ?」


"大丈夫!?"って……何が?

言われた言葉の意味がわからず首を傾げると、アージュと扉の間から、シヴァくんが姿を現した。

シヴァくんは私達のほうを見ると、即座にその顔を歪めた。


「クレハ様に何をするっ!!」


そう怒声を上げ、シヴァくんは私達のほうへ駆けてきた。

同時に腰から双剣を抜き放ち、なんと、ラクロさんに斬りかかった。


「えっ……!?」

「……っと」


ラクロさんは立ち上がって後ろに跳び、それを避けた。

シヴァくんは私とラクロさんの間に立ち、私を背に庇う。


「……よくもこんな、不埒な真似を……!! ……クレハ様の寝込みを襲って、無事にここから出られると思うな!!」


シヴァくんはそう叫ぶと、再びラクロさんに斬りかかって行った。

……寝込みを、襲って……?

……えっ!!


「シ、シヴァくん、待って!! 違うの!! 誤解だよ!! その人は私の知り合い……じゃなくて、お兄さんなの!! 私のお兄さんなの~~!!」


シヴァくんのまさかの行動に呆気に取られていた私は、その行動の意味を理解すると、慌ててそう叫んだ。

直後、シヴァくんの動きがぴたりと止まる。


「……兄……!?」

「えっ……クレハの、お兄さん!?」


シヴァくんとアージュは、揃って驚きの声を上げた。


「うん、そう! 私のお兄さんなの!!」

「……驚かせたようで、申し訳ない。私はクレハの"兄"、ラクロという。昨夜用事があって近くに来たので、クレハに会いに、ここへ寄らせて貰った。……夜遅かった為に、君達に挨拶をするのは遠慮させて貰った。クレハに会うまで、ここに長居をする予定もなかったからね」

「…………」

「……シヴァくん? そんなに警戒しなくてもラク……お、お兄ちゃんは、何もしないよ? 大丈夫だから、剣、しまおう? ね?」


私とラクロさんから説明されても尚、シヴァくんは双剣を手にしたままラクロさんを睨み付けている。

私はシヴァくんの隣に歩いて行き、そう声をかけた。


「……。……おかしな真似をしたなら、容赦はしません」

「えっ?」

「……ああ、承知したよ」


シヴァくんの言葉にラクロさんがそう返すと、シヴァくんはようやく手にした双剣を鞘に納めた。

そして再び、私とラクロさんの間に立つ。

……ええと……?

なんか、"私のお兄さんだから大丈夫"じゃあ、シヴァくんは納得してくれないっぽい?

な、何で……?


「……悲鳴が聞こえたから、何事かと思って来てみれば……珍しい人がいるね。君、もうクレハちゃんには会えないんじゃあなかったっけ?」

「私もそう聞いた気がするけれど……違ったかしら? クレハちゃんの"お兄さん"?」

「あっ、フレンさん、アイリーン様……!」


扉のほうから聞こえた声にそちらを向くと、フレンさんとアイリーン様が部屋の中に足を踏み入れて来ていた。


「ええ、そのはずだったのですが。あのあと、少々事情が変わりまして。幸運な事に、またこうして会える事になったのですよ」

「まあ……そう。事情が。では、私にお願いされたクレハちゃんの後見のお話は、なかった事になさるのかしら?」

「……いいえ。会える事になったとはいえ、私はもうクレハには何もできません。ですから、後見はこのまま貴女にお願いしたい。よろしいでしょうか」

「ええ、構いませんわ。けれど……おかしいですわね? 何故、"兄"なのにクレハちゃんに何もしてあげられないのかしら?」

「あっ、あの、アイリーン様、それは! それは……えっと……!!」

「申し訳ありませんが、それに関しては以前お話した時同様、事情がある、としかお答えできません」


訝しげに尋ねるアイリーン様に、どう説明したものかと言葉を詰まらせる私を尻目に、ラクロさんはさらりとそう答えた。


「そうですの。……貴方達ご兄妹には、本当に謎がありますわね。私達がどう調べても判明しないなんて、不思議だこと」

「え?」


あ、貴方達、ご兄妹?

それって、この場合当然、私とラクロさんだよね?

どう調べても判明しないって……え? え?


「あ、あの、アイリーン様……!?」


私が困惑ぎみに声をかけると、アイリーン様は私を見て微笑んだ。


「ああ、心配しないでクレハちゃん? 謎があっても、貴女に不信を抱く事なんてないわ。貴女がどういう子かなんて、この目で見てきて、もう十分わかっているもの」

「アイリーン様の言う通りだよ。僕を含め、君の周囲の人間は誰一人、君を疑う事はないよ、クレハちゃん。……兄だという、この人の事は別だけど。だよね、シヴァ?」

「……」

「えっ……」


フレンさんの言葉に、シヴァくんは何も答えなかったけれど、今もまだ私を背に庇っているその態度から、肯定している事がわかる。


「あっ、あの! ラクロさん、じゃあなくて、お兄ちゃんは、悪い人じゃあありません! とても優しい、いい人です! 信じて下さい!!」

「……そう言われてもね。"妹"が盗賊に狙われたっていうのに顔も見せない上、突然現れて初対面の人間に"妹"の後見を頼む"兄"の、どこが優しいいい人なのか、僕達にはさっぱりだし」

「そ、それは……!」

「構いませんよ、クレハ。貴女に対する信頼に揺らぎがないなら、それでいい。私には貴方達と縁を繋ぐ必要はありませんから。今後、また会うことがあるかもわかりませんし」

「へっ? そ、それはそうかもしれませんけど、でも……っ、え」


私が更に言葉を紡ごうとすると、まるでそれを遮るかのように、部屋の中に小さな光が放たれた。

その光はふよふよと漂い、ラクロさんの元へ飛んでいった。

あれって……魔法の手紙?

懐かしいその形を、私はぼんやり見つめる。


「……失礼」


ラクロさんは手紙を受けとると、一言そう断って、手紙に目を通した。

けれど、無言で文面を読み進めるラクロさんの表情は、どんどん険しくなっていった。

その顔に浮かぶのは、明らかな嫌悪。

……魔法の手紙なら、出した相手はきっと、新しく加護を与える事になった人のはずだけど……ラクロさんがこんな顔をするなんて、一体何が書かれてるんだろう……?


「……仕事が入りました。申し訳ありませんが、私はこれで失礼します」


手紙を読み終わると、ラクロさんはため息をつきながらそう言って、その姿を消しかける。


「えっ! ラ、ラクロさん!!」


ラクロさんの様子が気になった私は、"お兄ちゃん"と呼ぶことも忘れ、普段通りに呼びかけてしまった。

その甲斐あってか、消えかけたラクロさんの姿は、再びこの場にしっかり現れた。

私はシヴァくんの横を通り抜けて、ラクロさんに駆け寄った。


「ラ、ラクロさん、あの……っ! ……だ、大丈夫、ですか……?」


呼び止めたのに、なんて言っていいのかもわからずに、私はただ月並みにそう尋ねる。

するとラクロさんは穏やかに微笑んで、私の頭を撫でた。


「大丈夫ですよ。貴女が心配する必要はありません。……とはいえ、貴女と過ごす有用性は昨夜しっかり認識しましたから、今後心身共に疲れた時には、エンジュに追いたてられるまでもなく、貴女に会いに来ることにします」

「えっ、ほ、本当ですか!?」

「はい。……ですが、今日はこれで。またお会いしましょう、華原さん」


そう言うと、ラクロさんは今度こそその姿を消した。


「良かった……。ああでも、それなら、ラクロさんをしっかり休ませられるように方法を考えておかなくちゃ……!」

「……クレハ様」

「睡眠薬は効かないんだよね……となると……」

「クレハ様」

「……えっ? あ、何? シヴァくん?」

「……着替えて、朝食にしましょう。俺はその為に、クレハ様を呼びに来る途中でした」

「あら、そうだったわね。アージュちゃんとシヴァくんにそうお願いしたんだったわ。それじゃあ皆、戻りましょうか」

「はい。クレハちゃん、早くおいでよね。アレク様とフェザ様は、セイル達やギンファちゃん達を連れて、もうとっくに外出なされたから、僕達も早く朝食を済ませて行動開始しよう。今日から数日、少し忙しいよ」

「へ?」

「あのねクレハ、数日後のお祭りで、色々やることになったんだって! だからお手伝いするんだよ!」

「お祭り?」

「ふふ、詳しい事は、朝食を食べながら話すわ。だから早く着替えて来てね? クレハちゃん?」

「あっ、はい! わかりました!」

「じゃあ、先にリビングに行っているわね」


そう言うと、アイリーン様達は、部屋を出ていった。

アージュだけは何故か残り、私はそれを特に気にする事なく着替え始めたけど、突然アージュが、『ねえクレハ、何で別れ際、クレハとお兄さんは名前と名字で呼びあってたの?』と聞いてきて、私は自分の失態に気がついた。

アージュはなんとか誤魔化したけど、けれどアイリーン様達にはどう説明したものかと、私は恐々リビングに向かったが、アイリーン様達からの追及は、何故か一切なかった。

聞かないでくれるって、本当にありがたい。

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