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避暑に行こう! 10

本日一回目の更新です。


最近暑さのせいか余分に体力を奪われてるようで、しばらくは一日一更新が続きそうです。


街門につくと、開いていたはずの門は、固く閉ざされていた。

門の向こうからは、怒号や悲鳴、金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。

こちら側に残り門を守る騎士様は、険しい表情で門を見つめていた。


「騎士さん、門の警護、ご苦労様。向こう側の状況を聞いてもいいかしら?」

「え? ……あっ! 貴女様は……!!」


アイリーン様が騎士様に近づいて声をかけた。

その声に振り返った騎士様はアイリーン様を見て驚き、すぐに姿勢を正した。

どうやらこの騎士様は、アイリーン様が領主であるハイヴェル家縁の人だという事を知っているようだ。


「賊の襲撃があったのだろう? 何人だ?」

「街には、入られてはいないんだよね? 外には、一般人は?」

「は、はい! 賊はざっと、三十人程度です! 一般人は、街に入る手続きの為列を作っていた者達がまだ……! 賊は騎乗したまま馬を走らせて参りまして、制止の声も聞かなかった為、街への侵入を防ぐには、急ぎ門を閉じるしかなく、やむなく、手続きの済んでいない者も一緒に、外に……。しかし同時に、詰め所の騎士達が出た為、被害はそうはないものと……!! 現在は、支部から駆けつけた増員も出ております!!」

「そう。よくわかったわ。それじゃ、門を開けてちょうだい。私達も出るわ」

「は!? そ、それはなりません!! 今貴女様方を外に出すわけには……!!」

「大丈夫よ。私達は皆、戦う力があるのだから」

「我がハイヴェル侯爵領に押し入ってきた愚か者に、キツいお灸を据えなくちゃね。たっぷり後悔させてあげないと」

「我が国に賊など不要だ。一人残らず殲滅してやるとしよう。……お前達も、一切手加減は無用だ。王子である俺が許す」


そう言って、フェザ様は自分達の護衛である三人と、セイルさんとミュラさんを見た。

全員、しっかりと頷いた。


「ねぇクレハちゃん。僕も今日は、全力をもって叩き潰していいかな? せっかく旅行を楽しんでいたのに、それをぶち壊すような真似した輩に、情けなんていらないよね?」

「はい、構いません!」

「い、いやいや待て! 待てフレン! 賊に情けはいらないが、周りには情けをかけろよ!? 味方まで巻き込んだり、環境を破壊するのはやめろよ!? いいな!?」

「えっ!?」


み、味方まで巻き込む?

環境を破壊する!?

フ、フレンさんの言う"全力"って、どういうものなわけ!?


「……チッ。……嫌だなぁ、わかってるよセイル。味方までとか環境をとか、僕がそんな事するはずがないだろう? 全く、何を言っているのさ」

「……なら、最初の舌打ちは何だ!? 大体、お前には前科が」

「うるさいなぁ。クレハちゃんの前であんまり余計な事言うと、後ろから襲われて怪我するよセイル?」

「なっ! お、俺を攻撃するなよ!?」

「はいはい、ほら行くよ。背後に気をつけなねセイル」

「な、だから……! ……くそっ、クレハちゃん! こいつを見張っててくれ!!」

「あ、あはは……」


じょ、冗談、だよね?

フレンさんがセイルさんにする、いつもの軽口の応酬だよね?

……うん、そうだ、そうに違いない。


「ふふ。……さあ、門を開けてちょうだい。お仕置きの時間よ」

「……ほ、本当に、外に出られるのですか? いくら戦う力があるとはいえ……!!」

「大丈夫よ。開けてちょうだい。何なら、命令にしてもいいわよ?」

「……。……わ、わかりました。どうか、十分にお気をつけて……!!」


アイリーン様の言葉を受け、騎士様は意を決したように門を開いた。

護衛の三人やセイルさん、ミュラさんを先頭に、私達はすぐさま門の向こう側へ出る。

直後、アイリーン様とアレク様、フレンさんは精霊を召喚し、騎士様方と斬り結んでいる賊に向かって、その魔法を放った。


「……わ、私も頑張らなきゃ! おいで、皆! 騎士様方を助けて、賊をやっつけて!!」

「「「「「「 はい、マスター!! 」」」」」」


私の呼び声に答え、契約した六人の精霊達が私の周囲に集う。

地の精霊、ノルンくんは地面に人一人分の穴を開け、賊を次々と落とし穴に落とす。

火の精霊のフエンくんと水の精霊のミウちゃんはそれぞれ火の玉と水の玉を作り、器用に賊にだけぶつけていく。

風の精霊のフウリちゃんは、カマイタチを放ち、馬上の賊を攻撃した。

そして、光の精霊のキラリちゃんと、雷の精霊のライカくんは。


「ふふふ……! ようやくこの時がきたわ! やっと貴方と直接対決できるわねライカ! 今日こそ、貴方より私が、雷の精霊より光の精霊が頼りになるって事を、マスターに認識させてみせるわ! どちらがより多くマスターの敵を殲滅するか、勝負よライカ!!」

「……キラリ……もういいじゃないか。そういうの、いい加減やめない?」

「よくないわ! でもそこまで言うならこれで最後にしてあげる! 決着をつけましょうライカ! お互い全力で勝負よ!」

「……はあ、わかったよ。これで最後だからねキラリ? ……じゃあ、勝負しようか」

「ええ! 私、負けないから!!」


……キラリちゃん、まだ根にもってたんだ……。

なんか、ライカくんには本当に申し訳ない事をしたなぁ。

完全にとばっちりだもんね……ごめんね、ライカくん……。

心の中でそう謝罪をしながら、私はキラリちゃんとライカくんを見た。

キラリちゃんとライカくんは、空から降り注ぐ光の光線と一筋の雷で、これまた器用に、賊だけを殲滅していく。

私の見間違いでなければ、その数は、二人とも同じようだった。

そして、アイリーン様達や護衛の皆さん、騎士様やシヴァくん達の活躍もあり、抗っている賊の数が数える程度になった頃、キラリちゃんが狙いを定めた相手の足を、フレンさんの精霊、フウタくんが風で操る、フレンさんの投げナイフが、先に貫いてしまった。

当然、立っていられずに倒れる賊。

キラリちゃんの光線は、そのすぐ後ろに落ちた。


「あ……ああ~~~!!」


狙いが外れ、絶叫するキラリちゃん。

対して、ライカくんは別の相手に、雷をクリーンヒットさせていた。

キラリちゃんは慌てて残りの賊を探したが、最後の一人を、フェザ様が地に倒れさせていた。

それは賊退治が終了した瞬間だった。


「……どうやら、僕の勝ちだねキラリ。一人分だけだけど、僕のほうが多いよ。……約束通り、これで最後だからね? いいね?」

「うっ……! ……フ、フウタぁ~~……!?」

「えっ!!」


キラリちゃんはフウタくんを睨み、迫っていった。

どうやら、ライカくんに敗れた怒りの矛先は、フウタくんに向いたようだ。

フウタくんはオロオロと後ずさり、他の精霊達に助けを求めるような視線を送った。

けれど精霊達は困ったような表情を浮かべ、互いに顔を見合わせた。

どうしたらいいものか、といった様子だった。

助けが得られないと知って、フウタくんは涙目になる。

しかし、その助けは、穏やかな声と共にもたらされた。


「……ねえ、キラリちゃん? 僕の精霊に、何か文句があるのかな?」

「えっ……!?」

「フウタは主たる僕の命に従って、その役目を果たしただけだと思うんだけど? そのフウタに文句があるなら、僕が聞くよ?」

「……え……」


キラリちゃんは、ゆっくりとその声の主、フレンさんに視線を移した。

フレンさんはにっこりと微笑みを浮かべている。

けれど、纏う空気は氷よりも冷たかった。


「………………い、いえ、文句なんて、何も! そんなもの、ありません! はい!」

「そう。ならいいんだ。勝負、残念だったね、キラリちゃん。でも仕方ないよね? 賊相手に、遠慮なんてしてられないもんね?」

「は、はい、そうですね! 仕方ないです!」

「うん。……フウタ、キラリちゃんはわかってくれたみたいだよ。……もし、戻ってから何かを言われたら僕の所へ報告においで? クレハちゃんにキラリちゃんを呼んで貰って話をするから」

「!! だ、大丈夫です! 私、何も文句なんてありませんからっ!! マ、マスター! 私これで失礼しますっ!!」


そう言うと、キラリちゃんは逃げるように姿を消した。

……精霊のキラリちゃんでも、あの絶対零度のフレンさんの微笑みには逃げ出すんだね……。


その後、精霊達は口々にフレンさんにお礼を言い、私に挨拶をすると、帰って行った。

アイリーン様とアレク様は事後処理の為騎士団支部へ行き、夜遅くに、眠ってしまったアージュを抱えて帰って来た。

私達は先に別荘に戻り、中途半端だった夕食を軽く済ませると、順番にお風呂に入り、それぞれの部屋へと戻った。


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