避暑に行こう! 9
本日一回目の更新です。
今日もこれのみ。
その日の夜は、別荘のお庭で、バーベキューをする事になった。
とは言っても、食材を切ったり、焼いたりとかは全て、この別荘付きのメイドさんがやってくれるので、私達は談笑しながら食べるだけだ。
アイリーン様やアレク様、フェザ様は平然としているけど、私やアージュ達、所謂庶民は、やっぱりちょっと恐縮してしまう。
「さあ皆様、こちらが焼き上がりましたわ。どうぞ、お召し上がり下さい」
メイドさんはそう言って、取り皿に焼けたお肉や野菜を乗せ、順に私達の前に置いていってくれた。
「あ、ありがとうございます! いただきます!」
「ありがとうございます! い、いただきます!」
私とアージュはメイドさんにお礼を言って、揃ってお皿からお肉を手に取り、かぶりついた。
「「 おいしい……!! 」」
そう言って頬が緩むのも、同時だった。
そんな私達を見て、皆が笑う。
そんなふうに食事を楽しんでいた時、唐突にそれは起こった。
ピンコンッ。
「んっ!?」
「え? ……どうしたのクレハ?」
「あ……えっと……」
ピンコンッ。
「あ……!」
やっぱり、LINE音だ!
危険察知のスキル発動だ……って、え、街中で!?
私はキョロキョロと辺りを見回した。
すると、街門がある方向から、嫌な感じがした。
「……クレハ様、どうかなさいましたか? あちらに、何か?」
「あっちは……街門だね。街門がどうかした?」
「……あ……!」
私の視線を追って街門のほうを見ながら、シヴァくんとフレンさんが尋ねてきた。
どうしよう……スキルの事は、話してないし……。
「えっと……あの、何だか、嫌な予感がした、というか。 ……もしかしたら、なんだけど、魔物が、街を襲いにきてるかも……?」
「へ? 魔物が、街をかい? ……いや、それは」
「クレハちゃん、それはないわ。だって街の街門には」
「そう。なら、急いでこの街の騎士に知らせを出したほうがいいね」
「わかりました。戦闘準備します」
「私、槍を取って来ます!」
セイルさんとミュラさんの言葉を遮って、フレンさんとシヴァくん、ギンファちゃんは動き出した。
「……よくわからないが、戦闘準備だな」
「そうしたほうがいいみたいだね」
「あらあら……お食事中だというのに、嫌ね」
そう言って、フェザ様とアレク様、アイリーン様もお皿を置き、席を立った。
「え、殿下、アレク様? アイリーン様まで……? お、おい、フレン……!」
「何してるのさセイル? さっさと騎士団支部に走りなよ」
「い、いや、待てよ? 街に魔物だなんて来るわけが」
「魔物とは限らないだろ? ……クレハちゃんが言い出したんだから、動くべきだよ」
「……魔物とは限らない……?」
「クレハちゃんが……って」
「いいから、早く……!」
カンカンカンカンカンカンカン!!
「!!」
フレンさんが苛立ちを含んだ声を上げると同時に、街門のほうから、けたたましいほどの音を立てて、警鐘が鳴り響いた。
それを合図に、それまで困惑したように成り行きを見守っていた護衛の人達も、一斉に席を立った。
「マジかよ……! 一体何が来たんだ!?」
「魔物なわけはないから、それ以外でしょうね!」
「……つまり、賊、ですか」
「おのれ、ハイヴェル侯爵領に現れるとは……!」
「大奥様、皆様! 急ぎ安全な場所へ、騎士団支部へ参りましょう!」
「……ええ、そうね。貴方達はこの街の騎士達と協力して、街の人々を騎士団支部へ避難させてちょうだい」
「は……!?」
アイリーン様は、王都から来たハイヴェル家のお抱え騎士さん達にそう告げた。
次いで、アージュを見る。
「アージュちゃんは、彼らと共に行ってちょうだい。騎士団支部に避難していて?」
「え!? わ、私一人でですか!?」
「ええ、そうよ。貴女は戦闘経験がないでしょう? 危険だもの」
「……あ……! あ、でも、クレハは!?」
「クレハちゃんは精霊召喚師だし、魔物との戦闘経験があるもの。……けれど、そうね……。クレハちゃん、魔物相手と、人相手では違うわ。アージュちゃんと一緒に、騎士団支部へ行く?」
アイリーン様は私に向かって気遣わしげにそう尋ねた。
私は一瞬迷ったけれど、首を横に振った。
「……いいえ。皆が戦うんですから、私も戦います。……大丈夫です! 私は、盗賊と戦った事があるんですから!」
……けれどあの時は、無我夢中だったから、何かを考える余裕なんてなかった。
人を傷つけるのは、正直怖い。
けど、皆が戦ってるのに、戦う力があるのに、何もせず安全な所にいるのは、嫌だから。
「皆と一緒に、戦います!」
私ははっきりとそう告げた。
「……そう、わかったわ」
「……クレハ様は、必ずお守りします」
「大丈夫、君には指一本触れさせないよ」
「クレハ様の回りは私達がバッチリ固めますから、援護をお願いしますね!」
私の言葉にアイリーン様が頷くと、シヴァくん、フレンさん、ギンファちゃんが私の周りに立って、そう言ってくれた。
「……うん、ありがとう。よろしくね、皆! じゃあ、行こうか!」
その存在に心強さを感じながら、私は笑って言った。
目指すは街門。
魔物……じゃなくて、賊退治。
皆と一緒なら、きっとできるはず!




