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避暑に行こう! 8

本日一回目の更新です。


今日もここまで。

翌日。

皆で朝食を食べ、食後にお茶が出されると、アイリーン様が口を開いた。


「さて……皆、今日の予定はどうするの? また湖で遊ぶのかしら?」

「あ、いえ……私は、もしどこかに、錬金術の材料が取れる採取地があるなら、そこに行きたいんですけど……アイリーン様、ご存じないですか?」

「ふふ。クレハちゃんは、そう言うと思っていたわ。あるわよ、一ヶ所だけ。今回は私も一緒に行くわ」

「え、アイリーン様もですか? でも採取地には、魔物も出るんじゃあ?」

「ええ、出るわね。でも今回は騎士の護衛もいるし……昔、夫に連れて行って貰えた思い出の場所でもあるから、どうしてももう一度行きたいのよ」


どこか遠くを見るような目で、アイリーン様はそう言った。

アイリーン様の旦那様との思い出の場所かぁ……どんな所なんだろう?


「……父上と母上の、思い出の場所ですか? なら、僕も行ってみたいです。ご一緒します」

「あ、私も! 私も行きたいです!」

「そう。わかったわ。……フェザ様は、どうなされます?」

「もちろん、俺も一緒に行きますよ。一人街に残っても仕方ないですし……魔物が出るなら、鍛練にもなりますから」

「わかりました。では、皆で行きましょう。とても綺麗な場所だから、きっと気に入って貰えると思うわ」


こうして、今日は全員で、アイリーン様と旦那様の思い出の場所へと行く事になった。







「着いたわ。ここよ」

「え? ここ、って……」

「ど、洞窟……ですか?」


アイリーン様に連れられてやって来たのは、山肌にぽっかり空いた洞窟だった。


「母上? 母上は、"綺麗な場所"だと、仰っていませんでしたか?」

「ええ、言ったわ。……ふふ、中へ入って奥へ進めば、その意味もわかるわよ。さあ、行きましょう」

「は、はい。あ、アージュちゃん。僕から離れないでね。君は必ず、僕が守るから」

「はい、アレク様!」


私達は洞窟の中へと足を踏み入れた。


「……これが、洞窟……。中は暗いんだね。クレハは、いつもこんな所で材料採取してるの?」

「ううん、いつもはもっと明るい場所だよ。洞窟に入るのは二度目だから。けどこれは、やっぱり明かりが必要かな。……キラリちゃん! おいで!」

「はい、マスター!」


不安げに呟いたアージュにそう返答を返すと、私はキラリちゃんを呼び出した。


「えっ! ク、クレハ、この子何!? 可愛い~……!!」

「精霊だよアージュ。私と契約してる、光の精霊。キラリちゃん、周囲を照らして貰える?」

「はい、お任せ下さい!」


キラリちゃんが頷くと、私達の周囲が明るくなった。

うん、今回はちゃんと加減してくれたみたい。


「うわぁ、一気に明るくなった……! 精霊って凄いんだねクレハ!」

「そうだね。精霊達のおかげで、色々助かってるし。……ありがとう、キラリちゃん。さぁ皆、進みましょう」


そうして奥へと進むと、やがて、カサカサと何かが動き回る音が聞こえてきて、蜘蛛のような魔物が現れた。


「魔物か。俺の出番だな」


そう言って、腰に差した剣に手をかけ、フェザ様が一歩前へ踏み出す。

けれど、レイザムさんがその肩を掴み、自分の後ろへと引き戻した。


「……レイザム? 何をする!?」

「なりません殿下。魔物退治は護衛の仕事です。貴方は後ろで見ていて下さい」

「は!? 何を馬鹿な……!」

「参る!」

「おい!」


フェザ様の抗議の声をスルーして、レイザムさんは蜘蛛のような魔物に斬りかかって行った。

口から糸を吐き出し襲いかかるその魔物をもろともせず、レイザムさんはものの数分で退治してしまった。


「強い……さすが王子殿下の護衛ですね……!」

「……ふん。護衛がいるとこれだからつまらん」


感嘆の声を上げた私とは正反対に、フェザ様は面白くなさそうな声を上げた。


「……クレハさん。どうぞ、今の魔物の、ドロップアイテムです」

「あ、ありがとうございます! えっと……え! こ、これ、魔力の糸だ! フレンさん! 賢者のローブ、これでやっと作れます!」

「え、本当に? それは良かった。やっと手に入るね」

「ああ、この魔力の糸、もっと欲しいなぁ……! いくつかの調合に必要だし……!」

「……ほう? ……聞いたかレイザム? あの魔物を探しだし、数十匹ほど退治してこい。王子命令だ」


私の言葉を聞くと、フェザ様はニヤリと笑ってレイザムさんにそう告げた。


「えっ!?」

「………………はい、かしこまりました」

「え!! あ、あああの、レイザムさん……!!」


レイザムさんはフェザ様の命令に頷くと、一人で洞窟の奥へと行ってしまった。


「嘘……どうしよう! わ、私があんな事言ったから……!!」

「何言ってる、お前のせいじゃない。命令したのは俺だ。何、レイザムなら大丈夫だ。気にするなクレハ」

「む、無理です……! 気にします!」

「はぁ、そうだよね。……もう、フェザ。いくらレイザムさんでも、一人でなんて可哀想だよ。ヴァン、申し訳ないけど、レイザムさんを手伝ってあげてくれるかな? 皆もいるし、僕は大丈夫だから」

「はい、かしこまりました」


アレク様がそう言うと、ヴァンさんは頷き、レイザムさんの後を追いかけて行った。


「さあ、クレハちゃん。これで本当に心配はないから、もう気にしないで? 先へ進もう?」

「そうだぞクレハ。本来なら、レイザム一人で十分だったしな」

「……フェザはもう少し気にしようよ……」


アレク様は溜め息をつきながらそう言った。







レイザムさん達を気にしながらも洞窟を進むと、やがて開けた場所に出た。

すると、アイリーン様が前に進み出た。


「ああ……着いたわ。皆、ここが目的の場所よ。上を見上げてみて?」


上?

不思議に思いながらも、アイリーン様の言葉に従って、私達は上を見上げた。


「うわぁ~~……!!」

「綺麗……!!」

「凄い……! これって、鍾乳石……?」

「ええ、そうよ。ここは鍾乳洞なの。……この輝きは、昔と変わらないわね……懐かしいわ……」


そこは、洞窟の天井から鍾乳石が大小不揃いに伸び、青白い光を放っている、幻想的な場所だった。


「……ここのような鍾乳洞は、とてもとても長い時間をかけて、この綺麗な光景を構築するのだと、あの人は言っていたわ。自分の大切な領地にある、ゆっくりと育ったこの美しさが汚される事のないよう、守って行きたいと……。……ふふ」

「……母上?」

「……アレク。貴方のお父様はね、ここで私に求婚なさったのよ。この場所のように長い時間をかけて、ゆっくり二人の綺麗な思い出をたくさん作っていきたい、自分は、貴女の事も守りたい、守らせて欲しいって……」

「え……!」

「……その言葉に反して、あの人との生活はたった数年で終わってしまったけれど……それでも、私にはたくさんの思い出が残されたわ。それに何より、貴方という大切な宝物を、あの人は私にくださった……幸せだわ、私は、今も」

「母上……!」

「アイリーン様……」

「……数年ぶりに来たけれど、ここが変わっていなくて安心したわ。……ずっと変わらず、このままであり続けて欲しいわね……」

「……。……そうですね」


それから、私達はしばし言葉を交わさず、その光景に見入っていた。


やがて、レイザムさんとヴァンさんが大量の魔力の糸を手にして来たのを合図に、私達はその幻想的な光景から目を逸らし、名残惜しくも、帰路へとついたのだった。

けれどその帰り道、シヴァくんが突然私達から離れた。

驚いているとシヴァくんはすぐに戻ってきて、私の前に手を差し出した。

見ると、その手の中には、花の形をした石、華石があった。

私達はその一帯を調べ、華石を採取した。


鍾乳洞での採取物。

華石、魔力の糸。

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