避暑に行こう! 6
本日二回目の更新です。
今日はここまで。
階段を降りてエントランスへ行くと、アージュとアレク様が熱い抱擁を交わしていた。
傍でフェザ様が何とも言えない複雑な表情をしている。
そして私に気づくと、早足で近づいて来た。
「久しぶりだなクレハ。元気だったか?」
「はい。お久しぶりですフェザ様。フェザ様もお元気そうで何よりです。……アレク様も、ですけど」
私はちらりとアレク様とアージュを見る。
「……あれは、どうにかならないのか? 久しぶりの再会とはいえ、俺の前で……。いたたまれなかったぞ」
「そういう時は、そっと立ち去って、二人きりにしてあげるといいんですよ。先にアイリーン様のお部屋へ行ってましょう? フェザ様」
「……わかった。ところで、夫人は?」
「軍団長様とお話中らしいですよ。でもたぶん、そろそろ終わるかと。お二人が到着したら出発しようって、アージュに言っていたらしいですし」
「軍団長? ……ああ、警護の人選の話か。俺が共に行く事で、ハイヴェル侯爵家の采配で警護の者を何人かつける事になったらしいからな。……今回は俺の護衛もついてきたし……鬱陶しい」
そう言って、フェザ様は後ろを軽く睨んだ。
フェザ様の後ろには、初めて見るダークブルーの髪の男性がいる。
「……恐れながら。身分ある方の外出の際には、護衛が付き従うのが普通にございます」
男性は淡々とした声でそう言った。
「何を言ってる。いつもはついてこないだろう?」
「……そのいつもとは、貴方様が私に、一服もった菓子や茶を王子命令として食させ、私がそれに屈した間に外出してしまわれる時の事を仰っておいでなのですか?」
「へっ?」
「ついてこないのは事実だろう。それに、嫌なら逆らって食べなければいい。それだけの事だぞ?」
「…………」
……いや、それ、違うでしょう。
王子命令に逆らえる人はそうそういないと思います……。
ちらりと見上げれば、護衛の男性は無表情を貫いているが、その目は静かな怒りを湛えていた。
こ、怖い……。
私が体を強ばらせて俯くと、それに気づいたフェザ様が再び口を開いた。
「……ああ、悪いクレハ。けど大丈夫だから気にするな。俺とこいつはこれで普通なんだ。なぁ、レイザム?」
「はい。……ですが、私としてはもう少々、一般的な普通の行動を心がけて戴きたいところです」
「必要ない。面倒くさい」
「…………」
……え、ええと……誰か、助けて?
護衛の男性ーーレイザムさんから冷気が漂いだした為、助けを求めて後ろを振り返れば、ぶんぶんと首を振るギンファちゃんと、困ったような顔をするシヴァくんと、にっこり笑って笑顔で拒否するフレンさんがいた。
……駄目かぁ。
私はがっくりと肩を落とした。
その後、アージュとアレク様が合流し、アイリーン様が軍団長様とのお話を終えて部屋へ来るとすぐに、出発する事になった。
私達とアージュ、アイリーン様にアレク様にフェザ様。
そしてアイリーン様達の護衛である、イザークさん、ヴァンさん、レイザムさん。
そして、アイリーン様の義理の息子のアルフレート様が王都からつけた、ハイヴェル侯爵家のお抱え騎士様二人と、軍団長様の協力の元、アイリーン様がつけるこの街の騎士様二人とを加えた、計15人で行く事になったこの避暑。
当然、全員がひとつの馬車に乗れるはずもなく、馬車はふたつになり、護衛の騎士様方は馬に跨がった。
ラクロさんの事に対する懸念が消えたおかげで、楽しみに思う気持ちが再び私の胸に広がって、馬車が進む先に思いを馳せながら、私は一緒の馬車に乗った皆とお喋りに興じたり、時々景色を見たりして、旅の行程を楽しんだのだった。
やっと避暑に出発しました。
この"避暑に行こう!"がどこまで続くのか……あまりにも長くなったなら、出発するまでの回のサブタイトルを変えるかもしれません……。
行き当たりばったりですみません。




