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避暑に行こう! 1

今日三回目の更新です。


タイトルも変えました。


今日はここまで。

あれから五日が経った。

まだぎこちなくはあるけど、イリスさんは動物の世話も、畑の世話もやり方を覚え、こなしてくれている。

保険として賢いコタに手助けを頼んでおけば、遠出してもきっと大丈夫だろう。

そんなわけで、アレク様とフェザ様がこの街に到着し、そのままシュピルツの街の別荘に向かう前日、私はハイヴェル邸を訪れていた。

荷物を前もって預け、明日の朝一番で馬車に積み込んでおいて貰う為だった。

……の、だけれど。


「え? メイドさんを二人、うちに泊めるんですか?」

「ええ。ギンファちゃんも一緒に行くとなれば、あの子……イリスちゃんが、家に一人きりになるでしょう? それは寂しいのではないかと思うのよ。だから話し相手に、このレナとジュリアをと思って。どうかしら、クレハちゃん?」

「……レナさんと、ジュリアさんを?」

「ええ。二人からは、すでに承諾を貰っているわ。ねえ、二人とも?」

「はい。及ばずながら、そのイリスさんのお手伝いもしたいと考えております」

「それに、クレハちゃんの家の中の事も、私達ならお役に立てますし。仕事柄、家事は得意ですもの」

「……それは、そうでしょうけど……」


確かに、アイリーン様の言う通り、街の外にぽつんと建つ一軒屋に、数日間一人というのは、寂しいかもしれない。

自分で望んでそこに家を持った私でさえ、約半年くらいで寂しさに耐えかねて街に出て来たんだし。

イリスさんに話し相手をと言ってくれるアイリーン様の気持ちはありがたい。

でも……気になるのは人選だ。

レナさんとジュリアさん。

この二人は、ハイヴェル邸に数人いる、"戦うメイドさん"のうちの二人だ。

しかも、その中でも強いほうなのだ。

私が"戦うメイドさん"の事を知ったのは、忘れもしない、まだアイリーン様に出会って間もない頃、アージュと行った市場で、ジュリアさんが逃げるスリに飛び蹴りをお見舞いしているのを見たのがきっかけだった。


『あら、見られちゃったわね。私、お屋敷に侵入したりとか、大事な主人に害なす不届き者がいたら撃退できるように、武道を習得したのよ。そういう子、他にも何人かいるのよ? アイリーン様ご自身は護衛のイザークさんが守って下さるけど、お屋敷は、警備兵と力を合わせて、私達、使用人が守らないとね?』


と、スリ撃退後に目が合った私とアージュに、にっこりと笑って言ったジュリアさんの姿は、はっきりと記憶に残っている。

そんなジュリアさんとレナさんを、アイリーン様は選んだ。

それは、もしかすると……。


「……あの、アイリーン様? イリスさん、悪い人じゃありませんよ? 元永続奴隷とは言っても、無実だったんですし……警戒する必要は、ないと思います」

「あら……。嫌ね、違うわよ? さっきも言った通り、私はただ、一人では寂しいと」

「なら、どうしてレナさんとジュリアさんを選んだんです?」

「……クレハちゃん……」


私がそう続けると、アイリーン様は困ったように微笑んだ。


「……念のためよ。一緒に生活しているとは言っても、出会ってまだ6日でしょう? 人柄を判断するには、短すぎるわ。一人きりで留守を任せるのは、不安が残るもの」

「アイリーン様……!」

「クレハちゃん。私は、貴女の"お兄さん"から、直々に貴女の後見を任された身よ? 貴女の安全や身の回りの事に気を配る権利があるわ。……フレンには過保護だと言われてしまったけれど、今回は、私の提案を受けてちょうだい? お願い」

「え……フレンさんが、そんな事を?」


私は驚いてフレンさんを見た。


「何? 僕は事実を言ったまでだよ。……けど、今回は受けてもいいんじゃない? 確かに、知り合って間もない人間に一人きりで留守を任せるのは少し不安だし。それに、建て前としてアイリーン様が言った"一人じゃ寂しい"っていうのも、一理あるしさ」

「う、でも……ギ、ギンファちゃんとシヴァくんは、どう思う?」


私は助けを求めるように、ギンファちゃんとシヴァくんを見た。


「え、私ですか? ……えっと……受けても、いいんじゃないでしょうか? 建て前の理由も本音の理由も、もっともだと思います」

「俺も同意見です。何より、イリスさんの身の安全にもつながりますし」

「え? ……イリスさんの、安全?」

「はい。万が一魔物が家に来たら、イリスさんでは対応できませんから」

「あ……ああっ!?」


そうだった……その可能性もあるんだった!!

今まで家に魔物が来た事なんてないからすっかり失念してたよ……!!


「レナさん、ジュリアさん! よろしくお願いします!!」


私は正面に視線を戻し、二人に向かって頭を下げた。


「あらあら……その子への警戒じゃなく、その子の為に受けるのね」

「クレハちゃんらしいけど……世の中は善人ばかりじゃないんだから、もう少し警戒心はあったほうがいいわよ?」

「わ、わかってます! 警戒心も、ちゃんと持ってます!」

「ふふ。……何にせよ、受けて貰えて良かったわ。それじゃあ二人とも、よろしくお願いね」

「「 はい、アイリーン様 」」

「……じゃあ、アイリーン様、今日はこれで失礼します。また明日」

「ええ、また明日ね。ふふ、たまには玄関まで見送ろうかしら」

「あ、ありがとうございます」


そう言って立ち上がると、私はアイリーン様と並んで応接室を出た。

すると、アイリーン様から微かな香りが漂ってきて、私の鼻腔をくすぐった。


「あれ……? アイリーン様、この香りって……」

「ええ。先日クレハちゃんに依頼した新しい香水の香りよ。いい香りよね。いつもながら、クレハちゃんの作る品は素敵だわ」

「あ、ありがとうございます」


……う~ん、だけど……。

確かにいい香りだし、自信を持って渡したんだけど……なんだか、こうしてアイリーン様を前にして嗅ぐと……アイリーン様のイメージには、少し合ってない気がするな……?


「……クレハちゃん? どうかした?」

「え? あっ、いえ、何でもないです!」

「そう……?」

「はい! ……。」


私はもう一度、気づかれないように香水の香りを嗅いだ。

……うん、やっぱり、アイリーン様に合ってない。

でも、図鑑通りに作った香水だしなぁ……。

香りを変える事って、できないかな?

香りの元になる材料を変えたら、どうなるだろう?

帰ったら、ちょっと試してみようかな。

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