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住人達の攻防 2

本日一回目の更新。

今日はこれのみ。

「シヴァくん、いる? 今ちょっといい?」


コンコン、と2回ノックをし、扉の向こうへ声をかける。

するとすぐに扉が開かれ、シヴァくんが出てきた。


「クレハ様、どうなさいました?」

「うん、あのね、イリスさんが、シヴァくんと交渉するって言うから、連れてきたんだ。今、いい?」

「構いませんが……イリスさん、交渉とは?」


シヴァくんは私からイリスさんに視線を移し、そう尋ねた。


「はっ、はいっ! ……あ、ああああの、お、お掃除を、私にお任せ戴けないかと……!!」

「掃除……? ……掃除の役目を、俺から取り上げると言うのですか?」


シヴァくんは眉を少しだけ寄せ、イリスさんを見据えた。


「えっ! い、いいいいいえ! そんな、取り上げるだなどと、滅相もございません……!!」


イリスさんは手を突きだし、首と共に勢いよくぶんぶんと左右に振る。


「た、ただ私は、お掃除をさせて戴きたいと……!!」

「……同じ事です。……クレハ様。クレハ様は、今後俺じゃなく、イリスさんに掃除を任せたいとお考えなのですか?」


シヴァくんはそう言いながら、再び私に視線を移した。

その目はどこか不満そうな光を宿している。

そんなシヴァくんの様子に、私は苦笑を浮かべ、口を開いた。


「それもいいかなと思って。ほら、シヴァくんは掃除の他に、料理もやってくれてるでしょう? 家を増築してからはフレンさんと上手く手分けしてやってくれてるけど……今更だけど、二つ兼任の上、護衛もっていうのは、悪いかなって。それに今は、魚釣りもお願いしちゃってるし。だから、イリスさんがやりたいって言ってくれるなら、掃除だけでもシヴァくんの負担から外したらどうかな、って」

「……クレハ様。負担だなどという事はありません」

「そう? ……なら、いいんだけど」

「えっ!? あ、あの……!! 私にお任せして戴けるのでは……!!」


私とシヴァくんのやり取りを聞いていたイリスさんが、慌てたように声を上げた。


「私は、"シヴァくんの了解が取れたら"、って言ったと思いますけど? イリスさんの交渉術と、シヴァくん次第です」


私はイリスさんに視線を移し、困ったように笑ってそう言った。


「……わ、私の交渉術、ですか……!? …………。……シ、シヴァ様! ど、どうか私めに、お掃除という大役をお譲り戴けませんでしょうか……っ!?」


イリスさんは両手を握り締め、腰から上半身を折って、頭を下げながら、上擦った声を上げた。

角度はきっかり90度だ。


「……シヴァくん、どうかな? 私達は皆、何かしら家事を担っている事だし……イリスさんにもさ。ね?」

「……そうですね。確かに全員、役割を持っていますね……。…………わかりました。掃除は今後、イリスさんにお任せします」


どこか不満そうな目をしたまま、シヴァくんはそう言った。

それを聞いたイリスさんは、弾かれたように顔を上げた。


「あ、ありがとうございます……! 私、シヴァ様から引き継いで戴いたこの大役を、必ず全うさせて戴きます!!」

「……いや、イリスさん、それちょっと大げさですから。あと、"シヴァくん"、ですよ?」

「そうですね。俺に様づけや敬語は必要ありません。普通に話して下さい」

「えっ! ……そ、そんな、私のような者が普通にお話しさせて戴くなど……!!」

「イリスさん? その"私のような者が"って言うの、やめましょうって言ったでしょう?」

「……あ……! も、申し訳ございませんクレハ様っ!!」


私がたしなめると、イリスさんはまた勢いよく頭を90度に下げた。


「"クレハちゃん"、です。……あとで皆が揃った時にでも呼ぶ練習をしましょうか」

「えっ!?」

「さぁ、それじゃ家の中を案内します。行きましょう」

「え、あ、は、はい……!!」


そのあと、私はイリスさんに家の中をひととおり案内した。







「さぁ、それじゃいよいよ、動物の世話の仕方を教えます。……とは言っても、今日は動物達をこの放牧スペースから、動物小屋に戻すだけですけど」

「は、はい……! が、頑張ります……!!」

「あはは、そんなに気負わなくても大丈夫ですよイリスさん。ここの動物達は皆良い子ですから!」


夕方になり、私はギンファちゃんやイリスさんと共に、動物を小屋にしまうべく外に出た。


「それじゃあ、小屋への戻し方ですけど。簡単ですから、よく聞いて下さいね。まず動物小屋と鳥小屋の扉を開けて、脇に置いてある石で固定します。次に、放牧スペースの出入口の柵を開けて、また石で固定します。さ、まずはここまでやってみて下さい、イリスさん。ギンファちゃんは、今日は見ててね?」

「はい、クレハ様!」

「は、はい……! ええと、動物小屋と鳥小屋の扉を開けて固定して……!」


イリスさんは私の言葉を繰り返しながら、動物小屋まで歩いて行った。

扉を開けて、石を置き固定する。

次いで鳥小屋へ行き、同じように扉を開け石で固定する。

そして放牧スペースの出入口の柵を開け、これも石で固定した。


「で、できました! クレハ様!」


そう言って、イリスさんは私とギンファちゃんがいる場所へ戻ってきた。


「"クレハちゃん"ですよイリスさん。じゃあ次に、こう言います。よく聞いていて下さいね」


私は一度そこで言葉を区切り、大きく息を吸った。


「ココ、リリ、ニニ! モモ、ウル、メメ、エル! ララ、ピピ、アル~! 皆、小屋に戻って~!!」

「コッコッコ!」

「モオ~!」

「メエ~!」

「フエ~!」


放牧スペースへ向かって、私が大きな声でそう言うと、動物達は返事をして、列を作りながら、小屋に向かって歩き出す。

うん、いつもながらうちの子達は賢い良い子達です。


「とまあ、こんな感じです。あとは動物達が放牧スペースを出たら石をどけて柵を戻して、次に小屋に入ったらまた石をどけて扉を閉めます。そのあとは小屋に入ってエサ箱にエサを入れれば、終了です」

「……え……ほ、本当に、簡単なのですね……?」

「ふ、そうですね。でもたまに、小屋に戻るのを渋る子もいますから、そんな時はお尻を押して、小屋に戻します。お尻を押せば歩き出してはくれますけど、そこでやめるとまた渋って動かなくなりますから、ちゃんと小屋に入るまで押して下さいね」

「は、はいっ! わかりました……!」

「はい。それじゃ、石をどけたら、小屋に入ってエサをあげましょうか。イリスさん、石をどけて下さい」

「は、はい! が、頑張ります……!」


イリスさんは柵と小屋の扉の石をどけ、閉める。

そして私達は揃って小屋に入った。


「イリスさん。エサはそこに積んである干し草です。コッコ達のは、鳥小屋にある棚にある茶色の袋に入ったのがそうなんですけど……これはまたあとで教えますね。とりあえず、干し草を適量、あのエサ箱に入れて行って下さい」

「え、て、適量……ですか……!?」

「あ、はい。えっと、量は」

「このくらいですよ、イリスさん!」


そう言って、ギンファちゃんは干し草をつかんで抱え上げた。


「あ、はい……。ええと、このくらい……ですか?」


ギンファちゃんが抱えた量を見ながら、イリスさんも干し草を抱え上げた。


「いいえ、もうちょっと多めにです!」

「……じゃ、じゃあ……このくらいですか?」

「いえ、今度は多いです。もうちょっと少なく」

「は、はい。……ええと、じゃあ……このくらい?」

「はい、そのくらいです! さぁ、エサ箱に入れましょう!」

「は、はい! ありがとうございます、ギンファ様!」

「えっ? あの、私の事は、様なんてつけないで呼んでいいですよ?」

「えっ! そそそそんな! 私のような者が」

「イリスさん? それは言っては駄目ですよ?」

「あっ! も、申し訳ございませんクレハ様……! ……あ!」


イリスさんはまた頭を下げ、その拍子に手にしていた干し草をバサバサと地面に落とした。


「も、申し訳ございません……! 動物様の大切なご飯が……!」


イリスさんは慌てて拾い集めた。


「いや、別に落とすくらいなら大丈夫ですよ? ……というか、"動物様"って……イリスさん……」

「……えっと……イリスさんて、個性的な方ですね? ……灰色猫さんの所にいた時は話す事なかったですけど、永続奴隷さん達って、皆さんこんなふうなんでしょうか……?」

「さ、さあ……」


私とギンファちゃんは、ちょっと引きぎみにイリスさんを見つめた。

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