一緒に行こう! 2
今日一回目の更新。
今日はこれのみ。
……今回ちょっと、話が重いです。
翌日。
私達は一度ハイヴェル邸へ行き、アイリーン様と合流して、馬車に乗り込み、一緒に奴隷商館へ向かった。
「アイリーン様。私今日は、動物達と畑の世話を専門に担ってくれる人を新たに雇おうと思うんです。灰色猫さんの所に、植物や動物が好きな人が、いるといいんですけど……」
「あら、そうなの? じゃあギンファちゃんは、遠出の時も護衛ができるようになるのね」
「はい。昨夜ギンファちゃんと話して、そういう事になりました」
「そう。……いい子がいるといいわね。クレハちゃん、ギンファちゃん」
「はい」
「はい!」
アイリーン様の言葉に、私とギンファちゃんは揃って頷いた。
奴隷商館に着くと、アイリーン様に先導され、私達はまっすぐに灰色猫さんの元へ向かった。
「こんにちは、灰色猫さん」
「あ……! これはこれは、お越し戴きありがとうございます、ご夫人。クレハ様。お呼び立てして申し訳ございません」
「いえ、構いませんわ」
「私も、構いません。……けど、どんなご用でしょうか?」
「……ええ、その事なのですが……」
灰色猫さんは、言いにくそうに視線をさ迷わせた。
「……灰色猫さん?」
「まあ……言い淀むだなんて、貴女らしくないわね、灰色猫さん? 一体どうしたというのかしら」
「……。……失礼。ですが、私も想定外の事に戸惑っているのですよ。この"灰色猫"が取り扱う商品に、間違いがあっただなどと言うのですから」
「……間違い? 貴女の商品に?」
「へ? ……灰色猫さんの商品、って……」
私は、灰色猫さんの近くにある檻と、シートに座る少年、少女達を見た。
「……貴女の商品に間違いだなんて……どういう事かしら。説明をして下さる? 灰色猫さん?」
アイリーン様は、いつもの穏やかな口調を一変させ、どこか鋭い、凛とした声で、そう言った。
「……もちろんです。その話をする為に、お呼びしたのですから。……けれど誓って、その間違いは今まで貴女様にお売りした商品の事ではない事だけは、先に申しておきます」
「……私に売った子ではない? ……ならどうして私達を……?」
「……順を追ってお話します。事は十年前、とある国で起こった謀反から始まります。その国の王が襲撃され、決して軽くはない傷を負いました。そして、その襲撃の黒幕として、王家の分家である、公爵家当主が捕らえられたのです。謀反は大罪。当然、当主は処刑され、その家族……妻と娘は、永続奴隷にその身を落とされ、先代の灰色猫……私の父の手に、渡りました。けれど……十年がたった今、その当主は無実であった事が明かされたと、その国の王が言うのですよ」
「えっ、無実……ですか!?」
「まあ……! では先代の灰色猫さんは、無実の者を永続奴隷として売ってしまったのね?」
「はい。……その国の司法の過ちとはいえ、無実の者を永続奴隷として扱い売るなど、奴隷商人としてあってはならない間違いです。……しかも……すでに妻は厳しい労働に耐えきれず過労死していて……その国の王は、残った娘を私に預け、灰色猫の名と手腕にかけて、どこか遠くの他国で、しかと身の立つようにせよと、命じてきたのです」
「……"遠くの他国で"、ね。厄介払いという事かしら。随分な話ね」
アイリーン様は、嫌悪感を滲ませそう言うと、シートに座る少年、少女に視線を移した。
「それで? 貴女は私にその子を引き取らせたいというのよね? どの子なの?」
「……一番、左端の子です。けれど、ご夫人に、というわけではございません。できれば、クレハ様に、と考えています」
「……私に?」
「まあ!? ……クレハちゃんに、元永続奴隷を引き取れと言うの!?」
「彼女が望みは、"のんびりとした穏やかな生活"ですので……」
「ならば、私でもいいはずだわ! 一度永続奴隷となり心に闇を抱えたであろう者を、クレハちゃんの元にだなんて、そんな荷が重い事」
「……こんにちは。初めまして。お姉さん、植物や動物はお好きですか?」
「させら……!? えっ!? クレハちゃん!?」
私は、憤り、灰色猫さんに強く言い募るアイリーン様から離れ、シートの左端に座る少女に声をかけた。
アイリーン様の驚く声が横から聞こえてくる。
「……え……?」
声をかけられた少女は、不安と怯えの入り交じる目で私を見た。
「動物と、植物。お好きですか?」
私は同じ質問を繰り返した。
「クレハちゃん! 新たに雇う人材は、他の契約奴隷から探せばいいわ! 元永続奴隷なんて、貴女にはまだ」
「アイリーン様。私はこの一年半、貴女を含め、色々な人に助けられ、支えられて、なんとかやってこれました。私はまだ子供だし、これからも助けや支えてくれる手は必要でしょう。……けれどそろそろ私も、ただ助け、支えられるだけじゃなくて、周りの皆を……誰かを助け、支える側にも回りたいと思うんです」
私は視線だけをアイリーン様に向け、はっきりとそう告げる。
「……え……」
驚きに目を見開き、どこか呆然と立ち尽くしたアイリーン様に苦笑して、私は視線を少女に戻した。
「私は今、家にいる動物達と、畑の世話を担ってくれる人を探してるんです。……もう一度お聞きします。動物と植物、お好きですか?」
「……あ……。……は……はい……」
少女は小さな声でそう返事をして、僅かに頷いた。
それを見て、私はにっこりと微笑んだ。
「それなら良かった! ……アイリーン様。この人は私が雇います。いいですよね?」
「……クレハちゃん……。……灰色猫さん。彼女に危険はないのね?」
「はい。灰色猫の名にかけて、保証致します」
「……。……わかったわ。それでいいわ、クレハちゃん」
「やった! ありがとうございますアイリーン様! ……お姉さん。私はクレハ。クレハ・カハラっていいます。お姉さんは?」
「……え……。……イ、イリス……」
「イリスさんですね! よろしくお願いしますね、イリスさん!」
私はイリスさんの手を取り、握手をした。
するとイリスさんはびくっと体を震わせ、更に怯えた目で私を見た。
あ……失敗した?
「ご、ごめんなさい! えっと……とにかく、これからよろしくお願いします! 仲良くして下さいね!」
「…………」
私はパッと手を離し、そう続けたが、イリスさんは答えない。
……これは、長期戦だね……!
「……フレン。どうかくれぐれも、よろしくお願いね」
「はい、アイリーン様。……けど、灰色猫さんは危険はないと言っていますし……クレハちゃんなら、大丈夫だと思いますけど? アイリーン様は少し、クレハちゃんに過保護すぎます」
「……。……そうね。そうなのかも、しれないわね……
」
イリスさんとの交流の仕方に考えを巡らせていた私は、横でこっそりと、そんな会話がなされていた事に、気づかなかった。




