一緒に行こう! 1
本日二回目の更新です。
今日はここまで。
「は~、暑~い! ギンファちゃん、早く終わらせて家で涼もう! 私、畑に水やりしてくるから、動物達の放牧はお願い! 最後に桶に水汲んで、放牧スペースに置いておくの、忘れないでね」
「はい、わかりました!」
ギンファちゃんと手分けをして動物のブラシがけと餌やりを終えた私は、放牧をギンファちゃんに任せ、畑へと急いだ。
ミウちゃんを呼んで、畑に水をたっぷりと撒く。
季節は、夏になった。
連日強い陽射しが降り注ぎ、風は生暖かく、熱気が周囲に漂う。
今年はいつもよりも暑いと、知人は皆口を揃えて言う。
私はこの世界にきて二回目の夏だが、今年は去年よりも暑いという事だけはわかる。
「クレハ様、只今帰りました」
「あ、シヴァくん! お帰りなさい。どうだった?」
「けっこう釣れました。しばらくはもつと思います」
「そっか、ありがとう。ご苦労様! じゃあ倉庫に入れておいて」
「はい」
私に返事を返すと、シヴァくんは釣ってきた魚を手に倉庫へ向かった。
この季節の魚釣りは、日中にやるのは物凄く厳しい。
その為、数日に一回、まだ涼しい朝のうちに、シヴァくんにお願いする事にした。
釣りをする日、シヴァくんは朝早くに出かけ、私とギンファちゃんの作業が終わる頃に戻ってくる。
そしてその日の朝食は、シヴァくんの代わりにフレンさんが作ってくれる。
「クレハ様! 放牧終わりました!」
「あ、ありがとうギンファちゃん。こっちももうすぐ終わるよ。先に家に入ってて、すぐに行くから」
「はい、わかりました。じゃあ冷たい飲み物、用意しておきますね」
「うん、お願い」
家に戻るギンファちゃんを横目で確認し、私は畑の残った箇所に水を撒いた。
水やりを終えて家に戻り、リビングへ行くと、途端にひんやりとした空気に包まれた。
中央のテーブルの上に、フレンさんの精霊、氷の精霊のレイくんがいた。
「はぁ、涼しい……!」
「あ、お帰りクレハちゃん。お疲れ様」
「クレハ様! 冷たいハーブティー作っておきました!」
「うん、ありがとう」
「さあ、朝食にしましょう。お座り下さい、クレハ様」
「うん」
四人揃ってテーブルにつき、朝ごはんを食べる。
「クレハちゃん、今日の予定は?」
「街に行きます。アイリーン様に頼まれてた香水と粉末ハーブと野菜を届けないと。それからギルドに寄って、取り寄せを頼んだ品を受け取って、アージュの所にもミュラさんの分も含めて、野菜を届けに行きます」
ミュラさんは昼間は騎士のお仕事で留守な為、近所のアージュの所に一緒に届け、帰宅する道すがら寄り、持って帰って貰っている。
「つまり、いつもの街に行くときのコースだね。わかった」
「ふふ、アージュさん、今日もご機嫌なんでしょうね」
「うん、きっとね。あと一週間で、またアレク様に会えるんだもん。アイリーン様も、どこか落ち着かないみたいだし」
「そうですね。……クレハ様も、嬉しいですか?」
「ん? ……そうだね。アージュやアイリーン様の嬉しそうな顔が見れるのは、嬉しいよ」
「いえ、そうではなく。……王子様も、いらっしゃいますし」
「ああ、そうだね。……フェザ様、本当に来る事になったもんね。びっくりだよね」
「…………」
「もう、クレハ様ったらそんな呑気な……! お泊まり会での話、忘れてはいませんか? 大事なチャンスですよ?」
「えっ。う、うん、大丈夫、忘れてないよ……?」
「なら、いいですけど……」
「さ、さて! 早く食べて、出かけようか!」
ギンファちゃんの物言いたげな視線から逃れる為、私は会話をやめ朝ごはんに集中した。
街に着き、ハイヴェル邸に行くと、応接室には先客がいた。
「あ、クレハ! こんにちは!」
「アージュ! どうしたの? アイリーン様に用事?」
「うん。でも私じゃなくて、アイリーン様がね。私のほうが呼ばれたの」
「アイリーン様が、アージュに用事? アレク様の事かな?」
「うん、たぶん」
「アージュちゃん、クレハちゃん、こんにちは。お待たせしてごめんなさいね」
「あ、アイリーン様。こんにちは」
「こんにちは、アイリーン様!」
「クレハちゃん、ちょうどいい時に来てくれたわ。貴女にもお話があったのよ」
応接室に入り、ソファに腰かけながら、アイリーン様はそう言った。
「私にも? アージュと同じ話ですか?」
「ええ。……知っての通り、もうすぐアレクとフェザ様がいらっしゃるでしょう? でも今年は暑いから、別荘に避暑に行こうと思うのよ。もちろん、貴女達も一緒にね」
「べ、別荘?」
「避暑に?」
「ええ。シュピルツの街までね。別荘の近くに湖があるから泳げるわよ? 水着も含めて、支度をしておいてね」
「は、はい!」
「……あの、アイリーン様。私は……畑や動物達の事がありますし」
「あ、それなら大丈夫ですよクレハ様! また私がしっかりと留守を任されますから!」
「……ギンファちゃん。でも」
「アイリーン様、あの、お留守番、またライルくんと一緒にいてもいいですか?」
「ええ、もちろんいいわ。……クレハちゃん、どうかしら?」
「……。……ギンファちゃん、本当にいいの?」
「はい! もちろんです!」
「……そう、わかった。じゃあお願いするね」
「はい!」
「クレハ! このあと用事ある? 水着、一緒に買いに行かない?」
「うん、いいよ。行こうか」
「うん!」
「それじゃあアイリーン様、また一週間後に。失礼します」
「失礼します!」
私とアージュは立ち上がり、応接室の扉へ向かう。
「ああ、待ってクレハちゃん。明日は何か予定があるかしら? 灰色猫さんに呼ばれているのよ。貴女も一緒にって事だから、一緒に奴隷商館に行って貰えないかしら?」
「灰色猫さんに? ……シヴァくんとギンファちゃんの事でしょうか?」
「いいえ、それは違うと思うわ。……奴隷の事なのは間違いないとは思うけれど」
「違う……? ……う~ん、わかりました。明日また来ますね」
「ええ、お願いね」
「はい。それじゃあ、また明日」
私達はハイヴェル邸をあとにした。
その後、私はアージュと一緒にたっぷり時間をかけて水着を選び、他の用事も済ませて、家へと帰った。
その日の夜。
私はギンファちゃんの部屋を訪ねた。
「ギンファちゃん、今、いいかな? 話したい事があるんだけど」
そう言ってノックをして、返事を待つ。
「クレハ様? 今開けます!」
ギンファちゃんの声がして、扉が開いた。
「どうぞ、クレハ様!」
「ありがとう。お邪魔するね」
私は部屋の中に入り、クッションに腰を下ろした。
ギンファちゃんは私の正面に座った。
「クレハ様、お話って何ですか?」
「うん、あのね。遠出する時に、お留守番をお願いする事についてなんだけど……ほら、ギンファちゃんは、私の護衛だし、本当はどう思ってるのかなって、そう思って」
「クレハ様……。……私は、本当に嫌じゃないんですよ? クレハ様の大切な畑と動物達を、不慣れな人に任せられませんから。……一緒に行きたくないと言えば、嘘にはなりますけど」
「……ギンファちゃん。……わかった! それなら、やっぱり動物と畑の世話を専門にやってくれる人を雇うよ。ちょうど明日、灰色猫さんの所に行くし」
「え……!」
「一週間で世話の仕方覚えて貰って、一緒に行こう? ね?」
「クレハ様……! ……はいっ!!」
ギンファちゃんは、笑顔で頷いた。




