パジャマパーティー! 3
本日一回目の更新です。
中途半端に短くなった昨日の"パジャマパーティー! 2"の家に着いた後の話を加筆しました。
それと、"捕獲作戦 8"の最初と、"帰還 1"の最後に、採取した材料の記載を追加しました。
それから、近いうちに、タイトルを『異世界スローライフ日誌』から別の物に変更するかもしれません。
そして夜。
ミュラさんが釣ってきた大量の魚がテーブルに並び、皆で楽しく食事をして、アージュと一緒にお風呂に入ったあと。
私とアージュとギンファちゃんとミュラさんは、私の部屋に集まった。
全員、着ぐるみを着て。
そう、全員。
私はミュラさんにも着ぐるみを着て貰う事に成功した。
説得は何ともすんなりいった。
『全員でお揃いにしたいから着て欲しい』と言ったら、ミュラさんはあっさりと、『いいわよ。そういうノリ、久しぶりね』と言って着てくれたのだ。
なので現在、私がラピぐるみ、アージュがコッコぐるみ、ギンファちゃんが獣人用に改良したメエぐるみ、ミュラさんがフエぐるみを着ている。
「さて……お泊まり会で、女の子が夜集まってお喋りとなれば、内容はひとつよね?」
ミュラさんはハーブティーを一口飲むと、そう言った。
ハーブティーは、私が調合で作ったものだ。
「ギンファちゃん、セイルに聞いたところによると、ライルくんと随分仲いいみたいね? この間クレハちゃんが遠出で留守の時、この家に二人きりだったのよねぇ? ……楽しかった?」
「えっ!! ……ええと……はい、楽しかった、です」
ギンファちゃんは顔を真っ赤にしながら頷いた。
「そういえば、聞きたかったんだけど、ギンファちゃんとライルくんて、何がきっかけでああいう関係になったの? 私達が王都に行ってた間に、何があったの?」
「え、ええと……何、と言いますか……その、ライルくん、凄く優しくて……毎日、色々手伝ってくれて……槍の稽古も、付き合ってくれて。休憩の為にお茶した時も、話していて楽しいし……そんなふうに毎日ずっと一緒にいたら、ああ、好きだなって、思って……」
「あ、それわかる! アレク様も、ダンスとか、マナーとか、凄く優しく丁寧に教えてくれて……休憩の時話したら、すっごく楽しいし、色んな事知ってて凄いなぁって……!! それに微笑まれると、凄くドキドキして……!!」
「そう! そうなんです!! あの笑顔見るともう、気持ちが暖かくなって……!!」
「ね~~!!」
アージュとギンファちゃんは笑顔で顔を見合わせ頷き合った。
「……はあ、幸せそうね。いいわねぇ、両思い。羨ましい」
んっ?
羨ましい……?
ため息と共にミュラさんが呟いた声に、私は昼間のフレンさんの言葉を思い出した。
「……ミュラさんは、誰か好きな人いないんですか? ……例えば、セイルさんとか」
「えっ!? や、やだクレハちゃんたら!! 確かにセイルは強くて優しくて格好いいけど、あんな子供っぽい一面がある男、私は別に……!!」
「……好きじゃないんです? セイルさん、冬の終わりにアイリーン様についに思いを伝えて、長年の片想いにピリオド打ったってフレンさんが言ってたから、今が狙い目だと思いますよ?」
「うっ……! ……そう、なのよねぇ。やっとセイル、あの不毛な片想いを終わらせてくれたのよね。フレンくんにバッサリ切るように突きつけられた言葉で動く気になったらしかったけど……私も動くなら、今よね」
「えっ! ミュラお姉ちゃんて、セイルさんが好きだったの!?」
「ええっ、そうなんですか!?」
驚いたように声を上げるアージュとギンファちゃんに、ミュラさんは苦笑して頷いた。
「……そうなのよ。気がついたらいつのまにか好きになっててね。あんな子供っぽい男、タイプじゃなかったはずなんだけど」
「へえぇ……!!」
「……それで。クレハちゃんにひとつ聞きたい事があるのよ。それが今日参加させて貰った理由でもあるんだけど」
「へ、私に聞きたい事ですか? 何でしょう?」
「……クレハちゃんは、セイルの事どう思ってるの?」
「………………はい!?」
「あ、それ、私も聞きたいです! ずばり、クレハ様の本命ってどなたですか!?」
「へ!?」
「私も知りたい! シヴァくん? フレンさん? セイルさん? あっ、王都で会った王子様って可能性もあるよね!? 誰なのクレハ!?」
「ええ……っ!! い、いや、私はそんな……!! そんな事、まだ考えた事もないよ!!」
「「「 ええっ!? 」」」
……いや、『ええっ』て、三人声を揃えて驚かれても……。
私は聞き手に専念するはずだったのに、まさかこんな質問が飛んでくるとは……。
「……とりあえず、ミュラさん。私はセイルさんをそういう対象に見ることはまずないので、私を警戒する必要はないですよ」
「え? ……ああ、違うのよ。警戒とか、そういうんじゃなくて、もしクレハちゃんもセイルに気があるなら、正々堂々と勝負して、どちらがセイルに選ばれても恨みっこなしよって、そう言おうと思って」
「正々堂々とって……子供相手に何を言っているんですか」
「あら、恋の争奪戦に年齢は関係ないわよ?」
「そうだよクレハ! 『たとえ歳が離れていようと、これと思える人を見つけたなら精一杯努力して捕まえなさい』って、お母さんも言ってたし!」
「へっ!?」
ジュ、ジュジュさん、アージュに一体何を……。
「クレハ様? この国では、18歳で成人したら即結婚なんて珍しくない事はご存じでしょう? 子供だからと候補も考えずに呑気に過ごしていたら、周りにいる素敵な人もすぐに全員相手ができて、嫁き遅れてしまいますよ?」
「え」
じゅ、18歳で成人?
即結婚が珍しくない?
……は、初耳なんだけど……。
「そうなのよね。……なのに私ったらセイルに恋なんかしたせいでもう20よ? 急いでセイルを振り向かせないと、嫁き遅れだと影で笑われかねないわ……」
「クレハ! 9年なんてあっという間だよ? 考えた事ないっていうなら、今からでも考えなよ! せっかく周りに素敵な人達がいるんだからっ!! ねっ!?」
「う、うん……わかった……」
アージュの迫力に押され、私はコクコクと頷いた。
「よろしい! ……それで? クレハはどんな人が好みなの?」
「へ?」
「確かクレハ様は、銀髪がお好きなんでしたよね? 私を護衛に雇って下さったのも、決め手は銀髪でしたし」
「え」
「あら、そうなの? ならシヴァくんで決まりじゃない! フレンは金茶の髪だし」
「い、いや、ちょ、ちょっと待って!? えっと、確かに私は銀髪が好きだけど、だからシヴァくんが好きってわけじゃ!!」
「え、じゃあ……フレンさんですか?」
「それとも、やっぱりあの王子様?」
「え、え!? ええと……だ、だから!! 考えた事ないってば~~~!!」
その日、家の中に、困りきった私の絶叫が何度も響き渡った。
同じ階のシヴァくんの部屋で、男は男同士でと、雑談していたシヴァくんとフレンさんの元に、そんなはしゃいだ大きめの会話が聞こえてくる。
「……なんだか僕達がクレハちゃんの恋人候補になってるみたいだけど、どうするシヴァくん?」
「……俺は、あと少しでいなくなりますから……」
「ああ、そうだったね。……でも、本当に帰るの? ……帰りたいの?」
「……クレハ様は、俺が両親の元に帰るのを、喜ばれるでしょう」
「そんなの、言えばいいよ。一言。そうすれば」
「……クレハ様に、そんな事がある事を知らせたくありません」
「……けど」
「いいんです。……俺は、いいんです。それが俺の運命なんでしょうから」
「……。……そんな運命はないよ、シヴァくん。……あってたまるか。自由になりたいなら、いつでもその為の道は、すぐ近くにあるんだよ? 僕がその証だ」
「……それでも、クレハ様に知って欲しくありません」
「……まあ、いいけどね。どのみち……」
『次があるなら、灰色猫さんが動くから』。
そう続けようとした言葉を、フレンは飲み込んだ。




