パジャマパーティー! 1
今日一回目の更新です。
魔法の大工屋さんがおこなった増築によって、一階にひと部屋、二階にひと部屋が増え、更に三階が追加された。
これにより私の家は、一階にリビングとキッチン、お風呂とトイレ、洗濯部屋、応接室。
二階に私、シヴァくん、ギンファちゃん、フレンさんの部屋。
三階に客室四部屋、となった。
応接室は、そこに通すようなお客様が来た事はないから不要かもだけど……空き部屋にするのももったいないから、とりあえずね!
客室四部屋は、またセイルさんやライルくん、ミュラさんが泊まりに来た時用に。
もしかしたら、今後まだ交流を持つ人が増えるかもしれないしね!
私は仕事を終えた魔法の大工さん達を、再び魔法のじゅうたんで街まで送った。
増築を一日で終える為、薄暗くなっても作業していたから、現在、辺りはもう真っ暗だ。
それでも、大通りに軒を連ねるお店の明かりで、夜道を歩いても怖くはない。
魔法の大工さん達にお礼とお別れを言った私は今、ハイヴェル邸を目指している。
フレンさんを迎えに行くためだ。
「あれっ? クレハ?」
「え?」
突然名前を呼ばれて振り向くと、そこにはアージュがいた。
その後ろに、アーガイルさんとジュジュさん、そしてミュラさんが見えた。
「やっぱりクレハだ! こんな時間に街にいるなんて、どうしたの?」
「クレハちゃん……護衛がいるとはいえ、夜に子供だけで出歩いているなんて良くないわ。街の治安を守る騎士としては、感心しないと注意するしかないわね?」
「俺も同感だな。駄目だぞクレハちゃん?」
「クレハちゃん、これから帰るのは危ないわ。今日はうちに泊まりなさい?」
ミュラさん、アーガイルさん、ジュジュさんはそう言って、叱るような目で私を見た。
「あ……ご、ごめんなさい。今日は、魔法の大工屋さんに家の増築をしてもらって、それが終わったから、魔法のじゅうたんで送ってきたところなんです。うちは街の外だし、途中の森とか、魔物が出るから……」
「増築? ……ああ、そういえばセイルがそんな事言ってたわね。フレンくんがハイヴェル様のお屋敷を出て、クレハちゃんの家に住む事になったんですって?」
「あ、はい。それで今は、ハイヴェル邸にフレンさんを迎えに行く所でして」
「あら、そう。……ん~、フレンくんが一緒なら今から帰っても大丈夫かしら。とりあえず、ハイヴェル様のお屋敷までは私が送るわ」
「まあ、待ってミュラちゃん? その人がいれば、本当に大丈夫なの? クレハちゃん、うちに泊まってもいいのよ?」
「あ、いえ、それは。うちでギンファちゃんが待ってますし」
「ジュジュさん、フレンが加わるなら大丈夫ですよ。私が保証します」
「そう? ……わかったわ。でも気をつけるのよクレハちゃん?」
「はい。それじゃあ、失礼します」
「じゃあ私、クレハちゃんを送って来ますね。アーガイルさん、ジュジュさん、ご馳走さまでした。アージュちゃん、またね」
「あ、アージュ、またね!」
私はアージュに手を振ると、ハイヴェル邸へ向かって歩き出そうとした。
けれど即座に、誰かに腕を掴まれて止められる。
視線を向けると、キラキラと目を輝かせたアージュが目に入った。
「クレハ! ねえ、私クレハのおうち、一回だけしか、それもリビングにしか入った事ないよね? 増築したなら、もう一度行って見てみたい!」
「えっ?」
「まあ、アージュ、何を言っているの? 駄目よ? こんな時間に街の外へ行くなんて」
「アージュ、父さんも反対だ。いくらクレハちゃんとその護衛くん達が一緒でも、駄目だ」
「え~! あ、じゃあ、明日! 明日行きたい! ね、クレハ、明日お泊まりさせて? 昔ミュラお姉ちゃんが、"お友達の家にお泊まりしてパジャマパーティーした"って、凄く楽しそうに言ってたの! 私もやってみたい!」
「えっ? パジャマパーティー……? ……わぁ、楽しそう! いいよ、おいでよアージュ!」
「わぁ、やったぁ! ありがとうクレハ!」
「あら、懐かしいわね。それ、私も参加しようかしら。明日は早番で、明後日はお休みだからちょうどいいわ」
「え、ミュラさんも参加ですか!? わ、更に楽しそう!」
「なら決まりね。クレハちゃん、明日のお昼過ぎに動物屋に迎えに来てくれる?」
「はい!」
「じゃあ明日、待ってるねクレハ!」
「まあ、アージュったら……まあ、明るいうちに行って、また翌日暗くならないうちに帰って来るならいいわ。アージュ、そう約束できるわね?」
「うん! ありがとうお母さん!」
「ミュラちゃん、クレハちゃん、それじゃ、明日はアージュを頼むよ」
「はい、アーガイルさん!」
「お任せ下さい。……さ、それじゃクレハちゃん、これ以上遅くならないうちに行きましょう?」
「あ、はい」
「また明日ねクレハ!」
「うん、明日ね!」
アージュに手を振って、私は今度こそ歩き出した。
「待ってたよ、クレハちゃん。それじゃあ行こうか」
「えっ?」
ハイヴェル邸に着くと、ミュラさんは帰って行った。
それを見送ってから門をくぐり、扉を叩くと、フレンさんが出てきてそう言った。
手には荷物を持っている。
「……あの、フレンさん? アイリーン様に改めて挨拶とか、しなくていいんですか?」
「昼のうちに済ませたよ。明日は朝イチでここを出るつもりだったからね。窓から君の姿が見えたおかげで、少し早まったけど」
「だからといって、私にクレハちゃんを会わせないまま行く事はないでしょうフレン?」
「!」
「あ、アイリーン様! こんばんは!」
背後からの声にフレンさんが後ろを振り向くと、その向こうにアイリーン様の姿が見えた。
「ええ、こんばんはクレハちゃん。ここに来たという事は、増築はもう終わったのかしら? 早かったのね」
「あ、はい。私の家、魔法の大工さん達が建てたものだったらしくて。驚きました」
「あら、そうだったの。……ねぇ、クレハちゃん。フレンの事、よろしくお願いね。フレンはこう見えて、繊細な子だから」
「え?」
「はい? 何を言っているんですか、アイリーン様? 僕のどこが繊細なんです?」
「あら、違ったかしらフレン?」
「ええ、違います」
「あら、そう。……ならフレン、私は貴方にこう言うべきかしらね? クレハちゃんに、迷惑をかけるんじゃないわよ?」
「かけませんよ、そんなもの。僕を何だと思っているんです?」
「そうねぇ……消極的な、困った子、かしら?」
「へ?」
しょ、消極的?
それに、繊細?
フレンさんが?
「……いつの話ですか、それ」
「昔……だといいわね?」
「大昔ですよ」
「そう。なら安心だわ」
「あの……フレンさんて昔、消極的だったんですか?」
「あら……ふふふ。実はそうなのよ、クレハちゃん。フレンはね」
「さ! もう暗いんだから、さっさと帰るよクレハちゃん!」
「えっ!?」
フレンさんは突然そう言い捨てると、私の腕を引っ張って歩き出した。
私はフレンさんにずるずると引きずられる。
そんな私の後ろを、シヴァくんが困ったような顔をしてついてきた。
「えええぇぇ~~……! は、離して下さいフレンさん~~!!」
「駄目」
「ふふふふふ。またねクレハちゃん、シヴァくん。……元気で暮らすのよ、フレン」
アイリーン様は、微笑みながら手を振っていた。




