友の為に 6
本日四回目の更新です。
今日はここまで。
またひたすら馬車に揺られる事四日。
街に帰ってきた私達が街門をくぐると、その回りをウロウロと行ったり来たりしているアージュがいた。
「アージュ! ただいま!」
「え……! ク、クレハッ!!」
私が声をかけると、アージュは弾かれたようにこっちを向いた。
私の姿を目にすると、駆け出し、抱きついてくる。
「わ……!」
「お帰りクレハ! 大丈夫だった!? 怪我してない!? ねぇ、怪我してない!?」
ギュウと私を抱き締めて、アージュは早口に捲し立てた。
その声はすでに涙声になっている。
「……うん。大丈夫だよアージュ。どこも怪我なんてしてないから。……ごめんね、心配かけたね」
「そ、そっか……! 良かったぁ……!!」
「アージュ。神秘の粉、無事に手に入れて来たよ。家に帰ったらすぐに親愛の水晶を作って、明日には届けるからね。アレク様には、アイリーン様に送って貰おう? 明日、アイリーン様のお屋敷で待ち合わせね?」
私はそっとアージュの腕を外して、半歩距離を取ると、顔を覗き込んでそう言った。
「う、うん、わかった……! 本当に、ありがとう、クレハ……!」
「どういたしまして。さ、今日はもう帰りなよ。私もアイリーン様に帰ってきた事を知らせたら、今日はすぐ帰るから」
「あ、うん! クレハ、疲れてるもんね。ごめんね、ゆっくり休んでね?」
「うん、そうするよ」
「あっ! シヴァくんとフレンさんも、お帰りなさい! 私の為に遠くまで、ありがとうございました!」
「うん、ただいまアージュちゃん。どういたしまして」
「ただいまです、アージュ様」
「アージュ、動物屋まで送るよ。行こう?」
「あ、うん! ありがとうクレハ!」
「ぷ。アージュってば、今日はそればっかりだね」
「え? あっ……! そ、そうだね。……えへへっ」
あ、笑った。
……水晶を作って、アレク様といつでも話せるようになったら、また前みたいに元気に笑うアージュに、戻るといいな。
私はアージュの控えめな笑顔を見ながら、そう思った。
アージュを送り届けると、私達はハイヴェル邸にやって来た。
応接室に通されて出されたお茶を飲んでいると、扉が開き、アイリーン様が姿を現した。
「アイリーン様! ただいまです。無事に神秘の粉を手に入れて来ました」
「そう。それは良かったわ。お帰りなさいクレハちゃん、シヴァくん。フレンも、ご苦労様」
「はい、ただいまです」
「ただいまです。……アイリーン様。僕、この屋敷を出る事に決めました」
「え?」
「フ、フレンさん……!」
もうその話をするの!?
「……どういう事フレン? 屋敷を出て、どうするの? クレビスの所で生活する事にでもなったのかしら?」
「いいえ、違います」
「違う? なら、レッテルベルの街でやりたい事が見つかったの?」
「いいえ、それも違います。僕は、クレハちゃんに正式に護衛として雇われました。なので、これからはクレハちゃん達と暮らします」
「護衛? ……クレハちゃんの?」
そう呟くと、アイリーン様は私を見た。
「う……あの、そうなんです。フレンさんから、正式に私の護衛にって話をしてもらえて。それで、お願いしたんです」
「そう……。……フレン。ひとつだけ聞いていいかしら。クレハちゃんの護衛が、貴方が見つけた、貴方のやりたい事なの?」
「……さあ? それはわかりません。けど、クレハちゃんの護衛をしながら、畑や動物の世話を手伝って暮らす、そんな生活も面白そうだなと、そう思いまして」
「……フレン」
「アイリーン様。どのみち、これ以上ここにいても、僕はやりたい事を見つけられそうにありません。なら、思いきって、新しい生活をするのも、ひとつの手だと思うんです」
「! ……そう。わかったわ。そういう事なら、私に異論はないわ。好きになさいフレン」
「えっ!? い、いいんですか!? アイリーン様!?」
「ええ。フレン自身の事だもの。フレンが決めたなら、構わないわ。フレンの事、よろしくね。クレハちゃん」
「え、あ、は、はい!」
「シヴァくんも、今まで以上に、フレンと仲良くしてあげてちょうだいね」
「はい」
ア、アイリーン様、本当に反対しないんだ……。
「さて、話は終わったし、僕は部屋にある荷物を纏めるとするよ。クレハちゃん、引っ越すのは明日にするから、よろしくね」
「あ、はい。……あっ、そうだ、アイリーン様! フレンさん用の個室を作る為に、家を増築しようと思うんです。腕のいい大工さんをご存じありませんか?」
「あら、そう。なら魔法の大工さんをこちらで手配するわ」
「へ? ……魔法の大工さん?」
「ええ。貴族が贔屓にしてる大工さんなのよ。魔法の大工さんは、数日で家を建ててくれるのよ? 増築なら、二日もあれば終わるかしらね」
「へ、へぇ、貴族が贔屓にしてる大工さんですか……! ……ち、ちなみに、その大工さん、費用って、どれくらいかかるんでしょう?」
貴族が贔屓にって事は、物凄く高いんじゃ……?
「まあ……ふふ、大丈夫よ。リーズナブルだから、そんなに高くはないから。一般の大工さんより、ちょっとだけ高くはなるけど、いい仕事してくれるわよ?」
「そ、そうなんですか。ちょっとだけ、ですか。……う~ん、それなら、大丈夫かな……?」
「ええ。問題はないと思うわ。……フレン。クレハちゃんはわざわざ増築までして貴方の部屋を用意してくれるのだから、しっかり働くのよ?」
「はい、わかっていますよ」
「えと、アイリーン様。それじゃあその大工さんでお願いします」
「ええ、わかったわ。明日ここに来てくれるよう連絡しておくわね」
「はい。……それじゃあ、私今日はこれで失礼します。アイリーン様、フレンさん、また明日。シヴァくん、帰ろう」
「はい」
「また明日ねクレハちゃん、シヴァくん。ゆっくり休むのよ? クレハちゃん、ライルは、明日一緒につれてきてちょうだい」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあね二人とも。また明日」
私達はハイヴェル邸を後にして、家に帰った。
「ギンファちゃ~ん、ただいま~! ライルくん、お留守番ありがとう~!」
私は玄関の扉を開け、中に向かってそう声をかけた。
するとリビングから、ギンファちゃんとライルくんが出てきた。
その手は……うん、やっぱり繋がれているね……。
「お帰りなさいクレハ様、シヴァくん!」
「お帰りなさい!」
「うん、ただいま!」
「ただいま」
「クレハ様、お疲れではありませんか? リビングでお茶になさいますか?」
「あ、ううん、今はいいよ。親愛の水晶を作っちゃいたいから。それが終わってからにする」
「あ、はい。わかりました」
「ライルくん。貴方は今日は泊まって、明日一緒につれてきてって、アイリーン様に言われたから、明日送って行くね」
「あっ、はい! ギンファちゃん、まだ明日まで一緒にいられるよ!」
「うん!」
そう言って、ギンファちゃんとライルくんは微笑み合った。
……仲が良くて、何よりです、うん。
その後、私は荷物を片して、親愛の水晶作成に取りかかった。
スキルを使ったのでそれはすぐに完成した。
日に当たるとキラキラと輝く、青白い水晶。
どうかこれで、アージュの本当の笑顔が戻りますように。
翌日、ハイヴェル邸でアージュに渡すと、本当に嬉しそうな顔でお礼を言われた。
アレク様には、アイリーン様が責任を持って届けさせると約束してくれた。
そして後日。
水晶が届いたアレク様から、早速水晶を通して連絡があったと、アージュが教えてくれた。
アージュは、いつもの元気な笑顔を浮かべていた。




