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友の為に 5

本日の更新三回目。

「キラリちゃん、ノルンくん、おいで! 黒いバタフリューを探して!」

「フータ、ここへ。稀少種のバタフリューを見つけるんだ」

「「「 はい、マスター! 」」」


翌日、山へとやってきた私達は、中腹を少し越えた辺りで精霊を呼び出した。

私が光と土の精霊を、フレンさんが風の精霊を呼んだ。


「ノルン、フータ、負けないからね! バタフリューを見つけるのは私なんだから! 今日こそ私がマスターのお役に立つんだから!」

「キラリ……勝ち負けじゃないよ。大事なのは見つける事なんだから、誰が見つけたっていいじゃないか」

「僕も、そう思うけど……」

「何言ってるの! ふんっ、そりゃ、ノルン達はいいわよね……私と違って望まれて契約したんだもの。呑気でいられるはずよねっ。でも私は、役に立たなきゃ契約解除されるかもしれないのよ? それも普通の精霊召喚師じゃなく、あの方のお気に入りの、精霊召喚師であるマスターに! ……もし契約解除なんて事になったら私、光の精霊全員から後ろ指指される事に……っ!!」


……あの、聞こえてるんだけど……。

ああもう、キラリちゃん、また涙目になってるし……。

契約する時の事、いつになったら忘れてくれるんだろう……?


「キ、キラリちゃん。大丈夫だから。契約解除なんてしないから! だからそんなに気負わなくていいんだよ?」

「えっ……ほ、本当ですかマスター!?」

「うん、本当だよ」

「あ……ありがとうございます! 私、頑張ってお役に立ちますね!」

「え? いや、あの、だから」

「よぅし……! 負けないんだからねノルン、フータ~!!」

「…………」

「……マスター。すみませんが、キラリの好きにさせてあげて下さい」

「……僕からもお願いします。クレハ様」

「あ……う、うん。わかったよ……」


私はノルンくんとフータくんに半ば呆然と返事を返すと、口をつぐんだ。

そうして、待つことしばし。


「あっ! マスター、見つけました! 黒いバタフリューです!」


気合いを入れて頑張ったおかげか、そう声を上げたのは、キラリちゃんだった。


「本当? ありがとうキラリちゃん! どこにいる!?」

「もう少し上です! ご案内します、ついてきて下さい!」

「うん! シヴァくん、フレンさん、クレビスさん、行きましょう!」

「はい」

「うん」

「ああ!」


私達はキラリちゃんの案内の元、山を登って行った。

けれど、キラリちゃんが示す道は、急な斜面が続く、険しい獣道だった。

登るだけの体力はあると思っていた私だったが、次第に少しずつ皆から遅れていってしまう。


「クレハ様、大丈夫ですか?」


唯一私にスピードを合わせ、ずっと隣を歩いてくれていたシヴァくんが心配そうに声をかけてきた。


「うん……大丈夫……! アージュの為だもん、頑張るよ……!!」

「……わかりました。では、せめて掴まって下さい。俺がクレハ様を引っ張りながら登ります」


そう言うと、シヴァくんは私に手を差し出した。


「え……い、いいよ! それじゃシヴァくんが大変でしょ? それに、手を繋ぐなんて、ちょっと、恥ずかしいし……」

「え? ……何を言っているんです? 手なんて、王都でも繋いだじゃありませんか」

「へ? ……あっ、ダンスの時の事? や、でも、あれは、仕方なくない? そういうものだし」

「……それもありますが。クレハ様、ギルドで俺の手を取ってカウンターまで歩いたじゃありませんか」

「え? ギルド………………あああっ!?」


お、思い出した……!!

そういえば私、あの時そんな事やった!!


「あ、あああ、あれはねっ、違うの!! 無意識にやっちゃってたというか……!! と、とにかく違うの!! 信じてシヴァくん!!」

「何をですか? ……とにかく、掴まって下さい」

「へ!?」


シヴァくんは私の手を取ると、再び山道を登り出した。

えええ……!!

ど、どうし、どうしよう!?

……あ、でもこれ、ちょっと楽かも……。

うう……恥ずかしいけど、甘えちゃって、いいのかなぁ?

私は熱くなった顔を隠すように俯きながら、シヴァくんに手を引かれ、歩を進めた。

そんな私を、前を歩くフレンさんとクレビスさんが、苦笑して見つめていた。







「マスター! 見えました! あれです!」


それからかなり登った所でキラリちゃんが声を上げ、正面を指差した。

その方向を見ると、そこには大きな黒いバタフリューがいた。

それも、二匹も。


「間違いない……あれだ……!!」


図鑑そのままのその姿に、私は声を弾ませ呟いた。


「そう。なら、戦闘開始だね」

「そうだな。動けるかい、クレハちゃん?」

「はい、大丈夫です!」

「では行きましょう」

「うん!」


私が返事をすると、それが合図だったかのように、三人が武器を構え、バタフリューに向かって行った。

私も腰に差していた杖を構え、それに続く。


「マスター! 戦闘はこのまま私にご命令下さい! バタフリューの一匹や二匹、倒してご覧にいれます!」

「うん! お願いキラリちゃん! 光の矢で、バタフリューを貫いて!」

「はいっ!」


私の言葉を受け、キラリちゃんは光を集めて矢を作り、バタフリューに向かって放った。


「マスター、僕はこれで帰りますので、フウリをお呼び下さい! バタフリューは風属性です、同じ風属性のフウリなら、魔法でドロップアイテムを増やせますので」

「えっ、そうなの!?」


そんなの初耳だよ!?


「はい。それじゃ僕はこれで。またお呼び下さい、マスター」

「うん、ありがとうノルンくん!」


私に一礼すると、ノルンくんは消えた。

私はそれを確認して、口を開いた。


「フウリちゃん! おいで! ドロップアイテムの数を増やして!」

「はい、マスター!」


一陣の風と共にフウリちゃんが現れ、その風をバタフリューへと放つ。

バタフリューは一瞬風にまかれ、その体がぼんやりと光った。


「成功ですマスター! これで増えましたよ!」

「わ、ありがとう! じゃああとは、倒すだけだね! キラリちゃん! もう一度光の矢を放って!」

「はい、お任せ下さいマスター!」


キラリちゃんが再び光の矢を放ち、命中して動きが鈍った所でシヴァくんとクレビスさんが斬りかかる。

それを繰り返すと、バタフリューはやがて羽ばたきが止まり、ヒラヒラと地面に落ちていき、動かなくなった。


「やった、倒した!」

「ふぅ、稀少種というから身構えてたけど、それほどでもなかったな。弱い部類だったのかもしれない」

「そうですね。……あっちも、もうじき終わるでしょう」

「え?」


あっち?

……あれ、そういえば、バタフリュー、二匹いたよね?

もう一匹は……?

私はシヴァくんの視線を追って、左を見た。


「あ……!?」


そこには、バタフリューを光の結界で閉じ込め、炎で焼きつくしているフレンさんの姿があった。


「クレハちゃん、もうすぐ終わるから、ちょっと待ってて。……それにしても、クレビスさんの言う通り、稀少種にしては弱いよね。これならクレビスさんに助力を頼まなくても大丈夫だったね」

「かもな。けど、用心するに越した事はないさ。久しぶりにお前やクレハちゃんに会えて嬉しかったし、いいさ」

「あ、ありがとうございます、クレビスさん」

「よし、終わった。さ、クレハちゃん、神秘の粉を拾って、帰ろう。帰りは僕とクレビスで背負ってあげるよ」

「え!? い、いえ、大丈夫です!! 歩いて帰れます!!」

「遠慮しなくていいよ。ほら、おいで」

「い、いいですってば……!!」


断りながら後ずさる私に、近づいてくるフレンさん。

やがて後退していた私の背中が背後の木にぶつかったところで、勝負はついた。

……私の、負けだった。


その日はもう一度宿に泊まり、翌日、ザルグ村までクレビスさんを送り、別れの挨拶と、またの再会の約束をして、私達は帰路についた。

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