友の為に 4
本日二回目の更新です。
レッテルベルの街に着くと、私達は大通りにある宿に部屋を二つ取った。
私は自分の部屋に荷物を置くと、皆と合流して食堂へ行き、テーブルの真ん中に地図を広げ、食事をしながら、皆で山への道を確認する。
「山とはいえ、そんなに大きくはなさそうだね。けど稀少種の魔物なら、やっぱりいるのは奥、頂上付近かな」
「恐らくそうだろう。……それで? 目的の魔物はどういう魔物なんだ? クレハちゃん?」
「あ、はい。大きな黒いバタフリューです」
「図鑑には、人の顔くらいの大きさだと、書いてありました」
「顔くらいの……それはでかいな」
「確かに。バタフリューは普通、掌ほどの大きさもないからね」
バタフリューは、蝶のような魔物だ。
「この黒いバタフリューは、風魔法を使うと図鑑にありました。……魔法を使う分手強いでしょうが、頑張って倒しましょうね!」
「ああ。けど、その前に見つけないとならないけどな」
「あ、それについては大丈夫ですよ、クレビスさん。対策は考えました」
「対策?」
「え、何かいい方法があるんですか? フレンさん?」
「精霊を使うんだよ、クレハちゃん。光に風に地の精霊を。それぞれ属する力を通じて、居場所を探れるはずさ」
「あ……! そうですね! それなら見つけられますね!」
「うん」
「となると、あとの問題は山道だな」
「そうだね、そこだね」
「……そうですね」
三人はそう言うと、じっと私を見た。
「え?」
「クレハちゃん。頂上付近まで山に登るわけだけど、平気?」
「へ? ……えっ! だ、大丈夫です! 登るだけの体力はあります!」
「登るだけって……探索と下山もするんだよ?」
「わ、わかってます! 大丈夫です!」
「ならいいけどさ……まあいざとなれば、俺とフレンで交代で背負えばいいか」
「だ、大丈夫ですってば! 信じて下さい!」
「はいはい。とりあえず、クレハちゃん、四日も馬車に揺られて疲れてるんだから、今日は早めに寝るようにね」
「あ、は、はい。わかりました」
食事が終わると、解散となり、私は一度部屋へ戻ったが、食堂に地図を忘れた事に気づき、取りに戻った。
そして再び部屋へと足を向けると、向かいにある宿の庭に、シヴァくんとフレンさんがいるのを見つけ、そちらへ向かった。
「シヴァくん、フレンさん! まだ眠らないんですか?」
私が声をかけると、二人は揃って振り向いた。
「やあ、クレハちゃん。少し、シヴァくんと話をしてたんだよ」
「話、ですか? 何の話をしてたんです?」
「……クレハ様。もう寝ないと明日に響きます」
「え? ……えっと、私に言えない話……?」
「……いえ。そういうわけでは、ないですが……」
「僕の話だよ、クレハちゃん。昼間にクレビスさんに言われた事が引っ掛かってね」
「え?」
「いつかアイリーン様の元を去るのか……って。今まで誰にも何も言われなかったから考えないようにしてたんだけどさ。最後の契約期間を終えてからもう何年も経つし、このままズルズルいていいのかなって、ね」
「……契約期間? 終えてから……?」
「うん。……僕も昔は、契約奴隷だったんだよ。アイリーン様に買われた、ね」
「え。……ええっ!?」
「でも僕は、ちょっと事情があって、契約期間が終わってもハイヴェル邸に残れたんだ。……残ってもいいと言われた時、アイリーン様に言われた事があったのを、さっき思い出したよ」
そう言うとフレンさんは上を向き、夜空を仰いだ。
「……なんて、言われたんです?」
「……"やりたい事を、見つけなさい"って」
「……やりたい事……?」
「うん。……でも僕、それをすっかり忘れててさ。未だに何も見つかってないんだよね。……けど、その点、シヴァくんはいいよね。自由はまだでも、錬金術に出会ってるんだから」
「……。……そうですね」
「ちょ、ちょっと待って下さい! "自由はまだ"って……そりゃ、確かにシヴァくんはまだ契約期間中ですけど! 私はそれでも、シヴァくんにも、ギンファちゃんにもちゃんと自由はあげてるつもりです!」
「うん? ……ああ、ごめん。今のはそういう意味じゃないんだよ」
「え? じゃあ、どういう意味なんです?」
「さあね。けど……クレハちゃんも、そのうちわかる時が来るかもね。今の言葉の意味」
「へっ?」
「何しろ、君の……」
「フレンさん!!」
「え!? シ、シヴァくん……!?」
フレンさんの言葉に反応して、シヴァくんが珍しく声を荒げた。
私はビックリして、シヴァくんを凝視した。
「……すみません。何でもありません」
「え……?」
シヴァくんは私から顔を反らし、俯いてしまった。
「ふ……シヴァくんが怒るから、話を戻すけど。このままハイヴェル邸にいても、僕のやりたい事、見つからない気がするんだよね」
「……えっ!? じゃ、じゃあフレンさん、出て行っちゃうんですか!?」
私は俯いたシヴァくんを見つめていたが、聞こえたフレンの言葉に、視線をフレンさんに移した。
私の視線が自分から外れた事にホッと安堵の溜め息をついたシヴァくんの様子に、私は気づかなかった。
「う~ん……それが問題なんだよね。アイリーン様も屋敷の皆も好きだし、それにクレハちゃんやシヴァくん、ギンファちゃんも好きだから、縁は切りたくないし。かといっていつまでもズルズルとハイヴェル邸にいたら、追い出されはしなくても、いつかアイリーン様に怒られるくらいはするだろうし。どうしようかなぁ」
「……クレハ様の護衛は、必要です」
「うん?」
「え? シヴァくん……?」
いつのまにかシヴァくんは顔を上げ、フレンさんを見つめていた。
「俺がいられるのは、あと半年です。現状では、ギンファちゃんは、遠出の時は留守番になります」
「ああ……! なるほどね。確かに、クレハちゃんの側は楽しいし、飽きないしなぁ。……けどシヴァくん、君はそれでいいの?」
「……。……クレハ様を守る人間は、必要です」
「……そう。やっぱり君は、まだ自由じゃないね」
「へっ? で、ですからフレンさん、私は」
「クレハちゃん! ねえ、僕を正式に君の護衛として雇う気はない?」
「へ!?」
抗議しようとした私の言葉を遮り、フレンさんは思いもよらぬ事を言い出した。
「衣食住の面倒を見てくれれば、給金は雀の涙ほどでいいからさ。採取の時にでもその辺の物拾って、適当に売って稼ぐから。君の元で護衛しながら、畑や動物の世話を手伝って暮らすのも楽しそうだし」
「え? え?」
「ね? いいでしょう、クレハちゃん?」
「クレハ様。フレンさんなら適任です」
「えっ。ちょ、ちょっと待って? そんな急に……第一、アイリーン様にも聞かないと……!」
「それは大丈夫だよ。……アイリーン様は、決して反対なさらないから」
「ええっ?」
「だから、ね?」
フレンさんは、にっこりと笑顔で迫ってきた。
「う……わ、わかりました。じゃあ、お願いします」
「うん。お願いされたよ。ありがとうクレハちゃん」
「はい。ああでも、それならフレンさんの部屋が必要ですよね。けど部屋は全部塞がってるから……増築……?」
「え、僕の部屋も作ってくれるの? シヴァくんと同室でもいいよ? ねえシヴァくん」
「はい、構いません」
「えっ、そんな、そういうわけにはいきませんよ! 個人の空間は大事ですから! お金はありますし、増築します!」
「……そう。ありがとう。じゃあよろしく。散財させる分、頑張って働くよ」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして、フレンさんが正式に私の護衛になる事が決定した。
街に帰ったら、アイリーン様にちゃんと話さなきゃ。
そして……この時のフレンさんの、『シヴァくんが自由じゃない』という言葉の真の意味を、私はいずれ知り、胸を痛める事になる。
それはもう少し、先の話。
フレンはずっとアイリーンの元にいてたまにクレハの元に出張するだけのはずだったのに……私は異様にフレンが気に入ってしまったようで、気づけばこんな展開にwww




