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友の為に 2

今日二回目の更新です。

今日はここまで。

家へと戻った私は、アイリーン様達をリビングへ通し、調合室へ向かった。


「シヴァくん、ただいま! どう? できた?」


そう声をかけながら中へ入り、シヴァくんの手元を覗き込む。


「あと少しです。すみません、もう少しだけお待ちください」

「あ、うん。いいよ、大丈夫、ゆっくりやって。セイルさんとライルくんの到着がまだだから、平気だよ」

「……そうですか。わかりました。ありがとうございます」

「うん。……待ってる間に、私ももう少し作ろうかな。倉庫から材料、取ってくるね」

「はい」


私はシヴァくんに一声かけ、倉庫へ行き、お菓子の材料を持って再び調合室へ戻った。

シヴァくんが調合を覚えたあの日から、私達は二人揃って調合をするようになった。

興味があって手を出したためか、シヴァくんの覚えは早い。

調合中、こっそりシヴァくんを見ると、その顔はいつも笑っている。

楽しそうで何よりだと思う。


「クレハ様、完成しました」

「あ、うん、わかった。こっちもすぐに作っちゃうね。リビングで待ってて?」

「はい」


シヴァくんが調合を終えリビングへ行くと、私はスキルを使ってお菓子をもう一品作り上げた。

そのあとセイルさんとライルくんの到着を待って、皆で花畑へと向かった。







「うわぁ……! きれ~い……!」

「凄い……見渡す限り、一面の花畑ね」

「素敵な場所ね……! とても綺麗だわ」


花畑へ着くと、アージュ、ミュラさん、アイリーン様は感嘆の声を上げた。

色とりどりの花が咲き乱れる花畑は、カラフルなじゅうたんのように一面に広がっている。


「この丘、こんな場所があったんだね」

「凄いですね! 綺麗です!」

「確かに。いい場所だな」


辺りを見回して、フレンさん、ライルくん、セイルさんも感心したような声を出した。

うんうん、よしよし。

この場所でピクニックは正解だったみたいだ。

良かった。


「さあ皆さん。シートをひいて、お茶にしましょう? 私とシヴァくんで、お菓子と飲み物、一生懸命作って来ましたから」

「まあ、ありがとうクレハちゃん、シヴァくん」

「どういたしまして! じゃあシート、ひきますね」

「手伝います」

「あ、うん。ありがとうシヴァくん!」


私はシヴァくんに手伝って貰いながらシートを広げた。

皆でその上に座り、お花を眺めながら、お菓子ーークッキー、マフィン、パイ、チーズーーを食べ、飲み物ーー未成年はハーブティー、成人はワインーーを飲み、楽しく雑談をした。

セイルさんやミュラさんが街を守る騎士としての仕事の中で起こった珍騒動や、ハイヴェル邸の人の中で流行っている事、私の家の畑や動物達の事、と、尽きることなく話は続いて、終止アージュが笑っている事に、このピクニックの趣旨を知る皆が安堵した。

そして、日が落ちてきた頃、私はアージュを見つめて、口を開いた。


「アージュ。錬金術の図鑑の中に、"親愛の水晶"っていうアイテムがあるんだよ。その水晶はね、遠く離れた場所にいる人の姿が見れて、会話ができるんだよ」

「え? ……離れた場所にいる人と、会話ができる……?」

「うん。話をしたい人の名前を言うと、水晶の中にその人の姿が映って、声が聞こえ、話ができるんだ。もっとも、水晶を使う人が見知っている相手に限定される上、その相手も水晶を持っていなきゃいけないんだけど。……アージュ。私、材料を集めて、この水晶を作ろうと思う。そしてアージュとアレク様にプレゼントするよ。そうすれば、離れていても顔が見れて、話ができるでしょう? そんなに寂しい思いは、しなくてすむはずだよ」

「……クレハ……!」

「クレハちゃん……その材料がある場所は、わかっているの? 取り寄せられそうかしら?」

「……いえ。ひとつだけ、取り寄せが難しい材料があるんです。神秘の粉っていって……発見率の低い魔物が落とすドロップアイテムらしくて。だから私、その魔物が生息する場所に行って、探して来ようと思うんです。行って、魔物を見つけて、倒して……絶対、手に入れて来ます」

「え……ど、どこにいるの? その魔物?」

「レッテルベルって街の、近くの山だよ」

「ええ!? レッテルベルって……かなり遠いじゃない!」

「あんな所まで行くのか!?」


場所を聞いて、ミュラさんとセイルさんが驚愕の声を上げた。


「え……そ、そんなに遠いの? クレハ?」

「うん。だからしばらくかかるかな。でも、畑や動物達の事は、またギンファちゃんにお留守番をお願いしたから心配ないし、レッテルベルの街までは乗り合い馬車が出てるから、大丈夫だよ。護衛はシヴァくんがいるし、私も少しはレベル上がったしね?」

「クレハ……!」

「……クレハちゃんの中では、行く事はもう決定なんだね。いつ発つの?」

「明日です」

「そう。明日かぁ……。なら、帰ったら急いで準備しないとだね。クレハちゃん、今度からはもう少し準備期間に余裕持たせてよ。次はもっと早く教えてよね」

「……えっ? 準備って……何のです? フレンさん?」

「うん? 何の、って、行く準備に決まってるじゃないか」

「行く……? どこにです?」

「何言ってるの。君達と一緒に行くんだよ。子供だけで、あんな遠くまで行かせられるわけないでしょ?」

「え……えっ! つ、ついて来てくれるんですか!?」

「そう言ってるじゃない。……けど、発見率の低い稀少種(レア)の魔物か。僕がいても、三人じゃ厳しい可能性があるね……現地で冒険者でも雇う?」

「フレン。レッテルベルなら、近くにザルグ村があるわよ?」

「え? ザルグ村……って、ああ! クレビスさんの故郷ですね!」

「えっ? クレビスさんの……?」

「ええ。クレビスは今、故郷のその村で農作業をして暮らしながら、自警団の一員にもなってるらしいわ」


クレビスさんは、ハイヴェル邸の元使用人さんで、私が初めて奴隷商館を訪れた時に、契約期間を終え、故郷へと帰って行った人だ。


「そうか……クレビスさんか。うん、なら大丈夫そうですね。お願いしてみます」

「それがいいわ。クレビスなら、引き受けてくれるはずよ」

「え……? クレビスさんに、護衛を頼むんですか?」

「うん。クレビスさんは大剣の使い手で、かなりの腕だよ。クレハちゃん、明日までに、君が作れる中で一番いい大剣、作っておいてよ。クレビスさんに渡すから」

「あ、はい! わかりました!」

「うん、よろしく」

「あ、あの、クレハ様、アイリーン様! 僕、ギンファちゃんと一緒にいても構いませんか!? ギンファちゃん一人じゃ物騒ですし!」


話がまとまると、ライルくんが身を乗り出しながら、そう訴えてきた。

うん、女の子一人でお留守番ともなれば、恋人としては心配だよね。


「そうしてくれると、私も安心だけど……どうでしょう? アイリーン様?」

「ええ、構わないわ。そうしてあげて、ライル」

「は、はい! ありがとうございます! ギンファちゃん! 一緒にクレハ様の留守を守ろう!」

「うん! 頑張ろうね、ライルくん!」


ギンファちゃんとライルくんはそう言って微笑み合った。

しかしそんな二人の側で、アージュは心配そうに顔を歪めていた。


「ク、クレハ……! ねえ、無理、しないでね? 気をつけてね!? 絶対、帰って……っ、ごめん、ごめんねクレハ、ありがとう……!!」

「アージュ……! やだな、泣かないでよ? 大丈夫だよ、絶対アイテム手に入れて、帰って来るから! そしたら、アージュのあの元気な笑顔で、お帰りって、言ってよね? 約束だよ?」

「うん、うん……っ!! うんっ!! 約束、するよ……っ!!」


アージュはポロポロと泣きながら私の手を握り、何度も何度も頷いた。

……涙腺、弱くなってるなぁ。


「……俺もついてってやれたらいいんだけど、そう何日も仕事休めないしな……フレン、シヴァくん、クレハちゃんを頼むぞ?」


そんなアージュを見て、セイルさんは独り言のようにポツリと呟くと、次いで、フレンさんとシヴァくんに向かって言った。


「は? 何それ? 誰に向かって言ってるのさ」

「クレハ様は、必ず守ります」

「まあ、頼もしいわね。……クレハちゃん。クレビスも加わるし大丈夫だろうけれど、十分に気をつけてね?」

「そうよ、クレハちゃん。無理は決してしないようにね?」

「はい、アイリーン様、ミュラさん。……行ってきますね!」

「ええ、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「行ってらっしゃいクレハ! 帰ってくるの、待ってるからね!!」

「うん」


こうして私は、親しい友人達にしばしの別れを告げた。


そして翌日。

私とシヴァくんは乗り合い馬車の停車場所で馬車を待ち、やがて来た馬車にフレンさんの姿を確認すると、乗り込んだ。

目指す場所はレッテルベルの街。

そしてその近くにある山だ。

必ず、神秘の粉を手に入れて来るからね。

待っていて、アージュ。

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