友の為に 1
今日一回目の更新です!
「よし、完成! シヴァくん、お菓子はできたよ! そっちはどう?」
「もう少しかかります」
「そっか。じゃあ私、ギンファちゃんと一緒に皆を迎えに行ってくるね。その間にお願い」
「はい、わかりました。行ってらっしゃいませ、クレハ様。お気をつけて」
「うん。じゃあ行ってきます! ギンファちゃ~んお待たせ~! 皆を迎えに行くよ~!」
「あっ、は~い!」
私は調合室から出て、リビングにいるギンファちゃんに声をかけ、街に向かった。
あれから季節は移り、春になった。
家の近くの、いつも採取をする場所の一角に、綺麗な花が咲き乱れる花畑を見つけた私は、アイリーン様とフレンさんとライルくん、セイルさん、ミュラさん、そしてアージュを誘い、ピクニックをしようと計画した。
そしてそれは、セイルさんとミュラさんが揃ってお休みを取れた今日、決行される事になった。
私とシヴァくんは朝からお菓子と飲み物の準備に大忙しだった。
私がお菓子、シヴァくんが飲み物を担当した。
なんと全部調合で作れる。
材料は砂糖や小麦粉、卵などを除けば、全て王都近くの採取地で取れた物で作れた。
ちなみに、砂糖、小麦粉、卵は日本の名称で、このラザルドールでは別の名称なのだけれど……ややこしいから、私はそのまま日本の名称を使っている。
まあ、人と話す時は、ラザルドールの名称で言ってるけどね!
街に着き、ハイヴェル邸を訪れる。
アージュやセイルさん、ミュラさんはすでにここに来て、アイリーン様達と待っているはずだ。
私が玄関の扉をノックしようとすると、扉は中から勢いよく開かれた。
「おはようクレハ! 良い天気で良かったね!」
そう言って、中から笑顔のアージュが現れた。
…うん、今日はちゃんと笑ってる。
そう思って、私は少しホッとした。
冬から春に変わる日々の中で、アージュは少しずつ痩せていっていた。
原因はただひとつ、アレク様だ。
あの容姿の上、王子様の友人で、侯爵家子息という事で、アレク様は王都の学院でとてもモテるらしい。
冬期休暇があけた後、つまり、私達が王都から帰った後、アレク様は告白してきた女子に『想い人がいるから』という理由で断るようになったらしい。
しかし自信過剰なとある貴族令嬢が納得せず、アレク様の想い人を調べ、それが平民のアージュだと知ると、嫌がらせを始めた。
アレク様と別れろ、という内容の手紙はもちろん、人を使ってわざわざこの街の、アージュの家である動物屋に嫌がらせまでした。
私はその場に居合わせ、アイリーン様に助けを求めて、その事に怒ったアイリーン様がその令嬢の家に抗議をして、その件はおさまった。
けれど、アレク様に会えない寂しさと不安も相まって、アージュは表情を曇らせるようになってしまった。
そこで私は、アージュの気分転換になればと、今日のピクニックを計画したのだった。
「おはようアージュ。今日は楽しもうね!」
「うん!」
「クレハちゃん、おはよう。待っていたわ」
アージュの後ろから、ゆっくりとアイリーン様が姿を見せた。
「あ、おはようございます、アイリーン様。皆さん、もう出られますか?」
「ええ。セイルとライルは、すでに出たわ。またクレハちゃんの家まで競争するんですって」
「へっ? 競争って……まさか、乗り合い馬車を降りた場所からですか?」
「そう、そのまさかよ」
「え。あっ、ミュラさん、フレンさん! おはようございます!」
アイリーン様の後ろから、フレンさんとミュラさんが現れた。
「おはよう。全く、信じられるクレハちゃん? 競争を言い出したの、セイルなのよ? 子供みたいよね」
「半分以上強引に頷かされて、ライルはいい迷惑だろうね。可哀想に」
「え……」
強引にって、セイルさん……何をしてるんですか……。
「ふふ。さあ、とにかく行きましょうか。クレハちゃんの魔法のじゅうたん、乗るのを楽しみにしていたのよ」
「私も! 早く乗せて、クレハ!」
「あ、うん。でも、街門をくぐってからね? でないと怒られちゃう」
「え? あ、そっか! じゃあ、早く行こ!」
「うん」
私達は街門までハイヴェル家の馬車に乗り、そこから魔法のじゅうたんに乗り換えて、家へと向かった。
途中、アイリーン様からこっそりと、『アージュちゃん、今日はちゃんと元気で、ホッとしたわ。全く、あの家と令嬢、もっと懲らしめてやるんだったわ!』と耳打ちされた。
懲らしめて……って、抗議をしただけじゃあなかったんですね、アイリーン様……。
だけど、その気持ちは私も同じだから、むしろグッジョブです、アイリーン様!




