出店 3
本日二回目の更新です。
今日はここまで。
夕方になった。
あと数個売れれば完売なんだけど……終了時刻までに売れるかなぁ?
自由市場に来る人はまだまだいるから、希望は捨てずいよう。
完売の目標は達成したい。
そんな事を考えていた時、それは起こった。
「あらぁ、まだ売れ残ってるのね。ちょっと来るのが早かったかしら」
「あら、問題ないわよ。あとたったの数個じゃない? 私達が買えば済むわ」
「ああ、それもそうね」
え……?
突如近くで聞こえた声に視線を向けると、そこには栗色の髪の女の子が二人いた。
なかなかの美人だ。
その二人は私の店の前まで歩いて来ると、微笑みながら口を開いた。
「すみませ~ん、この残ってる物、全部くださ~い」
彼女達は私ではなく、隣のフレンさんを上目遣いでじっと見つめて、そう言った。
「ありがとうございます。これで完売ですので、ありがたいです」
フレンさんはにっこり笑って応対した。
完璧な営業スマイルだ。
「ですよね~! ……あの~、完売したら、店じまいでしょう? もし良かったら、このあと私達と遊びに行きません?」
「ずっと売り子されてお疲れでしょう? ゆっくりお茶でも、いかがですかぁ?」
「え? 僕と……?」
「はい!」
わわ、逆ナンだ!
フレンさん、モテるだろうとは思ってたけど、実際誘われてる場を目撃したのは初めてだよ……!
「う~ん……まあ、お茶くらいならいいかなぁ」
「わぁ、本当ですか!?」
「やったぁ! あ、それと、そっちの男の子! 君も一緒に行かないっ?」
「え?」
そっちの……って、シヴァくん!?
シヴァくんは二、三回キョロキョロと辺りを見回すと、首を傾げながら言った。
「……俺、ですか?」
「そうよ、君! ね、行きましょうよ?」
「……わかりました」
「えっ」
シ、シヴァくんも行っちゃうの……!?
「わぁ、やったぁ! さ、じゃあ早く行きましょう!」
「はい。じゃあ、クレハ様、ギンファちゃん、片付けて行きましょう」
「えっ?」
「……え?」
「? ……どうしました?」
目を見開いた私と女の子達を見て、シヴァくんはまた首を傾げた。
「え、ええっと~……私達が誘っているのは、貴方達二人だけなんだけれど……?」
「この子達は、ちょっと……ねえ?」
女の子達は少しひきつりながら言った。
「え? ……なら、俺、行けません。俺はクレハ様の側を離れられません」
「え、ええ!? な、何でよぉ!?」
「俺はクレハ様の護衛ですから」
「はぁ!? 何よ、いいじゃないそんなの! 少しくらい離れたって別に……!」
「……お嬢さん方。僕一人じゃあそんなに不満かな? だとしたらちょっと悲しいね……僕一人では満足できないくらいには、僕に魅力がないって事だし」
「え……っ!?」
…………へ?
私は何度も目を瞬いた。
フレンさんは憂い顔に寂しそうな微笑みを讃え、フレンさんらしくないセリフを吐いている。
「そ、そんな事ないわ! とっても素敵です!」
「そうですよ! 魅力がないだなんて、そんな事!」
「……本当に? 本当にそう思っている?」
「「 もちろんです! 」」
「なら、行くのは僕一人でいいかな……?」
「「 はい! 」」
「……ありがとう。嬉しいよ。それじゃあ行こうか。……クレハちゃん、悪いけど片付けはよろしく。またね」
「え、あ、はい……!」
私が頷くと、フレンさんは女の子達を連れて去って行った。
……い、今のは、一体……?
「……俺、行かなくて良くなりましたね」
「え? ……あ!」
そ、そういう事か……!
シヴァくんが私から離れなくていいように、一芝居打ってくれたんだ!
ああ、フレンさんに悪いことしちゃった……!
「あとでお詫びとお礼言わなきゃ……!」
「……そうですね」
「と、とりあえずクレハ様、片付けましょう? 完売、しましたし」
「あ……うん、そうだね。片付けて、帰ろうか」
「はい」
「はいっ!」
女の子達を引き受けてくれたフレンさんに申し訳なさを抱きつつ、私達は片付けを終え、家に帰った。
後日、私はハイヴェル邸へ行ってフレンさんに会い、お詫びとお礼の言葉を言った。
するとフレンさんはけろっとして、『ああ、あれ? お茶だけ一気に飲んで、自分の代金置いて即帰ったよ。会話も何もなし。だから、気にしなくていいよ。完売して良かったね、クレハちゃん』と悪い微笑みを浮かべて言い放ったのだった。




