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王都にて 4

本日二回目の更新。

今日もここまで。

そして、瞬く間に数日が過ぎ、新年の宴が開かれる日がやってきた。

私とアージュはアイリーン様とアレク様に、マナーとダンスの最終確認をしてもらってから、支度に入った。

ハイヴェル家本邸から侍女さんが派遣され、アイリーン様と私とアージュの支度を手伝ってくれた。

アージュは袖と腰のあたりにリボンがついた可愛らしいピンクのドレスを纏い、侍女さんの手によって髪が結われ、軽くお化粧がされると、いつもの、動物屋の元気な看板娘の雰囲気はなりをひそめ、愛らしい令嬢風に仕上がった。

一方、私は翠色のドレスを纏い、侍女さんの手によって肩くらいまでの短い髪が纏められ、軽くお化粧もされたが、アージュほどの変身ぶりは見られなかった。

でも、私はこれでいい。

豪華な料理を堪能したあとは、目立たずひっそりと壁の華でいたい。

ダンスに誘うと言っていたアレク様や王子様……フェザ様からは全力で逃げる覚悟だ。

アージュが踊りたいなら、ダンスが始まったらアージュはアレク様に託す。

そして、私は逃げる。

その後のアージュの事は、きっとアレク様が引き受けて下さるはずだ。

この数日で、二人はとても仲が良くなったのだ。

見ていて微笑ましいくらいに。

アイリーン様はそんな二人を見て一言、『少し予定とは違うけれど……アージュちゃんなら、まあいいわ』と言っていた。

予定ってなんだろう。

そんな風に私が思考に沈んでいると、扉からノックの音がした。


「アイリーン様、お支度はお済みですか? 入室してもよろしいでしょうか?」

「ええ、いいわよフレン。どうぞ」

「失礼します」


アイリーン様の許可を得て、フレンさんとシヴァくんが部屋に入ってきた。


「……!!」


その姿を見て、私は息を飲んだ。

金茶の髪に青い瞳のフレンさんは、白のタキシードを着こなしていて、とても素敵だ。

けれど、私にとって問題はシヴァくんだった。

黒のタキシードを着た、銀髪の少年(シヴァくん)

……素敵すぎる……!!

ああもう、眼福です!!


「……クレハ様、よくお似合いです。とても可愛らしいです」

「……え……っ!!」


ちょ、待って?

今のその姿で、そんなふうに軽く微笑みながらそんな事言われたら……っ!!

私は耐えられず、思いっきり顔を背けた。


「……クレハ様? どう、しました?」


シヴァくんはそんな私の態度に、戸惑ったように声をかけた。


「ご、ごめん……! 何て言うか、その、ちょっと、照れる……。ありがとう。シヴァくんも、すっごく素敵だよ……!!」

「あ……はい。ありがとうございます、クレハ様」

「……全く、あそこは何をやっているんでしょうね。照れるにしたって、あんなふうに顔を背けます?」

「ふふ。照れたというより、シヴァくんを直視できないんじゃないかしら? クレハちゃん、外見の好みは銀髪の子らしいから」

「は……? ……何ですかそれ」

「ふふふ。さあ、皆。そろそろ行きましょうか」

「あ、はい」

「はい!」

「……はい」


私達は宿を出て、王城へ向かった。







宴の会場である大広間に着くと、アイリーン様は挨拶回りがあるからと私達から離れて行った。

私はアージュ達を引き連れ、料理が置かれているテーブルへと向かった。

そこには予想通り、高級食材であろうものをふんだんに使った豪華な料理が所狭しと置かれていた。

私とアージュは感嘆の声を上げ、周りから浅ましく見られない程度に料理を取り、それを堪能した。

美味しい……すっごく。

食べながらアージュと感想を言い合っていると、王様の挨拶が始まった。

食べるのを一度中断し、けれど料理が乗ったお皿は手にしたまま、王様へと視線を向ける。

あの人が、この国の王様なんだ……。

金髪碧眼の王様は、やはり親子だけあって、フェザ様に似ていた。

そして王様の挨拶が終わると、楽隊が音楽を奏で出した。

う、きた。

ダンスタイムの始まりだ……逃げる準備をしなきゃ。

私はお皿にある料理を食べると、お皿を置いた。


「クレハ、ダンス、始まったね。……アレク様、どこかなぁ?」

「え? ……ああ、そうだね。どこかな」


どうやらアージュは一番最初の相手はアレク様がいいらしい。


「探しに行くかい? アージュちゃん。行くなら付き添うよ?」

「え? あ……はいっ。お願いします、フレンさん」

「うん、わかった。じゃあ行こうか。シヴァ、わかってるね? クレハちゃんをよろしく」

「はい」

「あとでね、クレハ!」

「うん。ダンス、楽しんで来てね。アージュ」

「うん!」


アージュはフレンさんを連れ、アレク様を探しに行った。


「……さて、シヴァくん。私達も移動するよ」

「クレハ様」

「どこなら見つからないかなぁ……う~ん」

「クレハ様」

「……ん? 何? シヴァくん?」


逃げ場を探して大広間の隅に視線を走らせていた私は、シヴァくんの呼び声に、視線を戻した。

するとシヴァくんは、私に向かって手を差し出した。


「クレハ様。どうか一曲、俺と踊って下さい」

「え………………」


……思考回路が停止すること、数分。

ようやく我に返った私は、シヴァくんとその手を交互に見た。


「わ、私と、踊るの? シヴァくんが……?」

「はい。その為に、練習をしていました」

「……そ、その為に……?」

「はい」

「…………」


か、顔が熱い……。

まさか、シヴァくんがダンスの練習をしていた理由が、私と踊る為だったなんて……!!

それなら、このお誘いだけは受けなくちゃ……!!

そう考えて、私が返事をしようと口を開くと。


「今日の俺の任務は、見知らぬ男がクレハ様にダンスを申し込むのを阻止する事です。その為には、クレハ様を誘って踊ってしまうのが一番だと言われました」

「…………え?」


に、任務……?


「え、えっと……シヴァくん? 任務の為に、踊る、の?」

「? はい」

「…………」


……で、ですよね~。

うんうん、もちろん、わかっていましたとも。

こんなに素敵な男の子が、好き好んで私なんかと踊るわけがないんだよ、うん。

ちょ……ちょっとショックだとか、そんな事は決してないんだから……!!


「……クレハ様?」

「あっ、ううん、何でもない! じゃあ、踊ろうか、シヴァくん」

「はい」


私はシヴァくんの手を取り、踊っている人達の輪の中へと歩いて行った。



シヴァくんとのダンスが終わると、戻って来たフレンさんに誘われ、もう一度踊った。

それも終わって、さあ壁の華になろう!

と動き出した私は、突然後ろから、ポン、と肩を叩かれた。

振り返ると、そこにはアージュを連れたアレク様と、フェザ様の姿があった。

……逃亡失敗。

そんな言葉が頭をよぎった私を待っていたのは、この四人とのダンスの無限ループだった。

私の、これが最初で最後だろう豪華パーティーへの参加は、シヴァくんのタキシード姿と、ダンスの思い出を残し、幕を閉じたのだった。

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