王都にて 2
本日2回目の更新。
今日はここまで。
む、無駄な抵抗だった……。
いくら逃げても王子様は諦めて帰ってはくれず、延々とおいかけっこは続き、ついに今日の採取目的地である洞窟に着いてしまった。
つ、疲れた。
もう走れない……。
私はしゃがみこんで荒くなった息を整えながら、ちらりと後ろを見る。
そこには息も乱さず、平然とした様子の王子様が立っていた。
あれだけ、走ったのに……。
シヴァくんやフレンさんですら、息が乱れてるのに……どうなってるの、この人……。
「ここが目的地か? なら、目的地まで着いてきたんだ。もう逃げるのはやめて俺を護衛に加えろ。どうせ俺が諦める事はないのだから」
「……何でですか。貴方は王子様なんでしょう? 平民の女の子の護衛なんて、していい人じゃないはずです」
「……身分など気にするなと言っただろう」
「いやいやいや、無理でしょう? 普通気にします! だいたい、何でここまで追いかけてきて私の護衛なんかしようとするんです? 意味がわかりません」
「……お前が、宴への参加を喜んでいなかったからな」
「はい?」
「もう一人の……アージュといったか。あの子は喜んでいたが、お前は困っていただろう? アレクが夫人の王都行きにお前達を巻き込んだ事には、お前達二人、それぞれにメリットがあったと言っていたから、それと相殺で許したのだろう? だが俺が巻き込んだ宴には、お前にはメリットはなさそうだからな。別の何かで巻き込んだ償いをするしかないだろう」
「へ……?」
メリット?
償い?
ええと、つまり、この人は私がアージュみたいに宴の参加を喜ばなかった事を気にして、アイリーン様を宴に出席させる為のダシに使った事を私に償おうと、護衛するなんて、言ったって事……?
……それなら。
「そんな事、お気になさらなくて構いません。宴の事は確かにちょっと気が進みませんが、参加すれば何かしら楽しみが見つけられるでしょうから」
……例えば、豪華で美味しい料理とか、料理とか、料理とか。
「だから、護衛は結構です。気にせずそのままお帰り下さい」
「……そういうわけにはいかない。償いはする。そして俺にできるのは剣をふるう事くらいだ。だから、護衛はさせてもらう」
「えっ」
何で!?
「さあ、中に入るぞ。洞窟内は暗い。気をつけろよ」
「え、あ、あの、ですから!」
「クレハ。俺は諦めが悪い。お前が折れたほうが楽だぞ? でないと、平行線の会話が長々と続く事になる」
「ええっ……!? ……フ、フレンさぁん」
私は困り果て、フレンさんに助けを求めた。
「う~ん……殿下がここまで言うなら、いいんじゃない? クレハちゃん」
「へっ!?」
「そのかわり、殿下。こちらは二回も断ったんです。もしご自身に何かあってもこちらの責任問題になさいませんように、お願いします」
「ああ、わかっている。大丈夫だ。さあ、行くぞ」
「はい。行こうクレハちゃん、シヴァくん」
「はい。クレハ様、立てますか?」
「う、うん。……ああもう、いいのかなぁ、本当に……」
私は一人疑問を抱えながら、洞窟に足を踏み入れた。
洞窟の中は、本当に暗かった。
少し歩くと、入り口から射し込んでいた光も届かなくなり、辺りは闇に包まれ始める。
「これじゃあ灯りがないと何も見えませんね」
「そうだな。たいまつかランプは、用意していないのか?」
「そんな物必要ありませんよ。ね、クレハちゃん?」
「はい。おいで! キラリちゃん!」
「はい、マスター!」
私が名前を呼ぶと、光の精霊であるキラリちゃんが姿を現した。
「精霊……? お前は精霊召喚師だったのか?」
「はい。キラリちゃん、光の魔法で辺りを照らして貰える?」
「はいマスター、お任せ下さい! 私がライカより役に立つという事をバッチリ証明します!」
「へっ?」
「さあ、張り切って全力でいきますよ!」
「何? ……おい待て! 照らしすぎると」
「そぉれっ!」
慌てて止めようとした王子様の言葉を聞かず、キラリちゃんは光魔法を発動させた。




