王都にて 1
本日1回目の更新です。
翌日。
皆で楽しく朝食を取り部屋へ戻ると、扉の前にアレク様と金髪美少年が立っていた。
挨拶を交わし、揃って部屋に入る。
「夫人。父上より、こちらを預かって参りました。どうぞ、お受け取り下さい」
ソファに腰を落ち着けるとすぐに、金髪美少年はアイリーン様に封筒を差し出した。
封筒には、"招待状"と書かれている。
「まあ……新年の宴の招待状ですわね? ……出席しなければ駄目かしら、アレク?」
「母上……申し訳ありませんが、招待状が来た以上は、出席をお願いします、としか申せません」
「案ずる事はございません夫人。父上は、そちらのご友人も一緒にと、申しております」
そう言って、金髪美少年は私とアージュを見た。
「え? 私達?」
「えっと……し、新年の宴って何? クレハ?」
「さ、さあ……?」
「新年の宴とは、毎年1月2日に開かれる、王家主催のパーティーの事だ。父上より、君達も夫人と一緒に出席する許可が下された」
「へえ、そんなパーティーがあるんですね……!」
王家主催のパーティーかぁ。
きっと凄いんだろうなぁ。
そこに私も出席する許可が…………。
はっ?
「しゅ、出席!?」
「うわぁっ、本当ですか!? 聞いたクレハ、凄いよ!! 王様のパーティーだって!! 庶民の憧れの場所だよ!!」
「えっ!? ア、アージュ……!?」
「凄いなぁ、どんなかなぁっ!! 楽しみだねクレハ!!」
「……アージュ」
アージュは目を輝かせ、無邪気に喜んでいる。
「……ふぅ。仕方ないわね。出席させて戴きますわフェザ様。あの子達と一緒に」
「はい、お待ちしています、夫人。……悪いなアレク。夫人を動かす為に、お前と同じ手を使った」
「……謝るのなら、相手は僕じゃないよ。フェザ」
「……そうだな。 だが、喜んでいるぞ?」
「そうだけどね。……アージュちゃん、クレハちゃん。今日はパーティーで着るドレスを選びに行こうか。プレゼントするよ」
「え、あの、いえ、私は……!」
「えっ、ドレス!? そ、そっか!! パーティーだから、ドレス着るんだ!! うわぁぁっ、凄い凄い!! ね、クレハ!!」
「!!」
ああ……駄目だ、これ、行きたくないなんて言えない。
無邪気に喜んでるアージュを悲しませちゃう……。
でも……王家主催のパーティーなんて、庶民が行って楽しい場所だとは思えないけど……はあ。
「アレク様、クレハちゃんのドレスは必要ありませんよ。こんな事もあるかと、以前アイリーン様がプレゼントした物を、僕がクレハちゃんの鞄に入れておきましたから」
「へっ!? あの……フレンさん? それって、私の部屋のタンス……?」
「いや、僕は部屋には入ってないよ。ドレスを取って来たのは精霊さ。だから大目に見てくれると、嬉しいんだけど?」
「え……ま、まあ、それなら……?」
「ありがとう。というわけで、クレハちゃんのドレスはありますから、予定通りクレハちゃんは採取に行きます。マナーについては、夜に僕がきっちり教えますから、ご心配なく」
「……え?」
マ、マナー……って……え、何それ、美味しいの……?
「わかった。なら、アージュちゃん。君には僕が教えるよ。頑張ろうね?」
「え、あ、はい! パーティーの為に、頑張ります!」
「うん。いい返事だ。じゃあ、まずはドレスを買いに行こうか」
「あ、はいっ!!」
「私も一緒に行くわ。アージュちゃんに一番似合う物を、じっくり探しましょうね」
「アイリーン様。僕はクレハちゃんの採取に付き合います」
「ええ、もちろんそうしてちょうだい、フレン。クレハちゃん、気をつけてね?」
「あ、はい。じゃ、じゃあ行って来ます。シヴァくん、フレンさん。出発しましょう」
「はい」
「うん」
シヴァくんとフレンさんの返事を聞いて、私は部屋を出るべく扉へ向かった。
フレンさんのマナー講座の事は……うん、考えるのよそう……。
「待て。採取というと、王都の外に行くのか?」
「え? はい、そうですけど」
扉に手をかけた所で投げかけられた質問に、私は部屋の中を振り返って答えた。
声の主は、金髪美少年だ。
「……そうか。わかった。なら俺も同行する」
「え……ええっ!?」
「護衛は多いほうがいいだろう? これでも腕はたつ」
「え、でも……だって、そんな。昨日会ったばかりの人に護衛なんて……あ、雇うって事ですか? えっと、おいくらでしょう? もうあんまり所持金ないですけど……」
「金などいらない」
「へ? えっと……」
「何だ? 俺では不満か?」
「え、いえ、不満というわけじゃないですけど……」
「なら何だ?」
「ア、アイリーン様、アレク様。この人、アイリーン様の知り合いで、アレク様のお友達……で、いいんですよね?」
「は?」
「あ」
「あら……自己紹介、まだでしたの? フェザ様?」
「自己紹介……? あっ!」
「え……気づいて、なかったんです?」
そう、この金髪美少年は、私にもアージュにも名乗っていないし、私もアージュも、この金髪美少年に名乗っていない。
この金髪美少年はずっとアレク様と話していたし、アイリーン様に挨拶をしたあとはすぐに帰ってしまったから、する暇がなかったのだ。
アレク様との話に割って入って名乗るのも違う気がしたし、王都の人だという事もあって、深く関わる事もないだろうから、まあいいかと思ったし。
「……悪い、失念していた。俺はフェザラッド・ネオスティア。アレクの友人だ。……これで同行させて貰えるか?」
「え? あ、はい……でも、本当にいいんですか?」
「ああ」
「……わかりました。ならお願いします。私はクレハ・カハラです」
「ク、ククク、クレハ、待って……!」
「え? 何、アージュ? ……え」
アージュのどこか固い声に視線を向けると、アージュは何故か驚愕の表情をしていた。
「クレハ……ネオスティア、って……この国の名前だよ……!!」
「へ?」
国の名前?
ネオスティア……。
……フェザラッド・ネオスティア!?
く、国の名前を、自分のフルネームとして名乗るって事は、この金髪美少年は……!!
「この国の、王子様……!?」
「ええ、その通りよ。フェザ様はこの国の第四王子なの」
「剣の修業と称してよく城を抜け出す、困った王子だけどね」
「うるさいぞアレク。……身分など気にするな。ただのフェザラッドとして接してくれ」
「ええ……!?」
いやいやいや、無理でしょう!!
王子殿下に護衛なんてさせられますか!!
「あ、あの、やっぱり私、護衛はフレンさんとシヴァくんで十分なので! お気持ちだけありがたく戴きますです!!」
「何?」
「というわけでさようなら! 行こうシヴァくんフレンさん!!」
私は早口にそう言うとすぐさま踵を返し、扉を開け、脱兎の如く駆け出した。
私の行動が予想出来ていたのか、シヴァくんとフレンさんが後ろに続いてくれた事が、重なる足音でわかって、ホッとした。
しかし。
「おい、待て!!」
という言葉と共に増えた足音に顔だけを動かし振り返ると、そこには追いかけてくる王子様の姿。
嫌ぁぁぁ、ついて来ないでぇぇぇ!!
私は心の中で悲鳴をあげながら、必死で逃げた。




