新たな出会い 1
本日一回目の更新です。
冬になった。
すっかり寒くなり、吐く息が白い。
「はあ、寒いね~。そろそろ風邪薬の需要が多くなるかなぁ。今日は風邪薬を中心に作ろうかな」
私はいつも通り材料採取を終え、帰路につきながら、そんな事を呟いた。
「風邪薬ですか。それも錬金術で作れるんですね!凄いです!」
「あはは、そうだね。……でもその前に、温かい物飲んで暖まりたいなぁ」
「わかりました。帰り次第お茶を淹れます」
「えっ? ……えと、シヴァくんが作ってくれるの?」
「はい」
「そ、そう。……ありがとうね、シヴァくん」
「はい」
う~ん、あれからずっとこんな調子で、キッチンに立ってないなぁ。
料理の腕、鈍ってないといいけど……。
えっと、風邪薬と、動物シリーズの服と、太陽の腕輪とかの太陽シリーズと……栄養剤も需要出るかな?
これから作る物を考えながら、私は調合室に向かい、その扉を開けた。
しかしそこには、先客がいた。
「……え、シヴァくん? 何してるの?」
「!!」
私が声をかけると、シヴァくんは手にしていた物を落とした。
粉のような物が机の上に舞う。
私はシヴァくんの背後から机の上を覗きこんだ。
「あれ……これ、緑の草? 乳鉢で擦ってたの?」
「…………」
シヴァくんは何故か俯いて答えない。
「……お茶を早々と飲んで、一人でリビング出てっちゃったから、部屋に戻ったんだと思ってたけど……」
「……すみません」
「え?何で謝るの?」
「……道具、勝手に使って……」
「ああ。別に構わないよ?」
「え……」
私がそう答えると、シヴァくんは顔を上げて私を見た。
「ここまで擦ったんなら、これで何か作ってみる? あ、風邪薬はどう? ちょうど作ろうと思ってたし」
「え、で、でも……俺、クレハ様のように上手くできないし……」
「あはは、それは当然だよ。私はもう一年以上やってるもの。シヴァくんは、調合やった事ないんでしょ?」
「……はい」
「でしょ? なのに私と同じようにできたら、私が自信なくすよ。さ、作り方教えるから、やってみよう?」
「は、はい」
そう返事をすると、シヴァくんは再び乳鉢を手に、緑の草を擦り始めた。
私は一度乳鉢を見た後、ちらりとシヴァくんに視線を移した。
シヴァくんは真剣な表情をしている。
……思い返してみれば、シヴァくんは私が調合をしている時、よく覗きに来ていた。
ふと視線を感じて振り向くと、少しだけ開いた扉の向こうにシヴァくんがいて、目が合うとペコリと頭を下げ、慌てて去って行くのだ。
てっきり私の様子を見に来ているんだと思ってたけど……。
「……スキップ」
「え?」
緑の草を擦りながら、突然呟かれた声に、私は目を瞬いた。
……時間短縮?
え、シヴァくんもこのスキル使えたの!?
私は手元の乳鉢を見た。
しかし、その中は呟く前と変わっていない。
「……やっぱり、駄目です。上手くできません。……クレハ様は、これでひとつの作業が終わるのに」
「え?……あっ!」
上手くできないって、そういう意味!?
「あ、あのねシヴァくん。それは違うんだ。私がスキップって言うのは、作業時間を短縮するスキルを使う為でね? 普通は、それを言っても作業は終わらないよ?」
「え……」
「ご、ごめん、勘違いさせちゃったね。スキルを使わずに作ると、凄く時間がかかるんだよ」
「……じゃあ……俺が駄目なわけじゃ、ない?」
「うん。ないない!」
「……。……でも、時間かかるなら、クレハ様が、できない……」
「あ、うん、そうだね。でもいいよ。シヴァくんが錬金術に興味あるなら、何か方法考えるから。とりあえず、それ、続きやってみよう?」
「あ……はい」
そのあとシヴァくんは、私の助言の元、見事に風邪薬を完成させた。
手にした完成品を見つめるシヴァくんはとても嬉しそうで、なんだか私も嬉しくなった。
……それにしても、スキル使わないと、本当に凄い時間がかかるんだなぁ。
その日は結局、シヴァくんが作った風邪薬ひとつで、調合は終わった。
明日は、アイリーン様に呼ばれている。
先日ハイヴェル邸にお邪魔した時、『次は絶対にこの日に来て』と、強く言われた。
その日に街で何かあるのかなと思ってアージュに聞いてみたけど、特に何もないらしい。
一体、どんな用事なんだろう?




