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変化 4

本日の更新一回目です。

「ラクロさん!こんばんは。お会いするのは、誕生日以来ですね」

「…華原さん。お話があって参りました」

「え、はい…?何でしょう?」

「……。…貴女と」

「先輩っ!!待って下さいってば!!」

「えっ!」


ラクロさんが話始めるのと同時に、馬鹿天使の大きな声が聞こえた。

次の瞬間、馬鹿天使はラクロさんと私の間に現れる。


「まだいいじゃないですか!!考え直して下さい、先輩!!」

「…くどいぞルーク。そこを退け」

「嫌です!!」

「ちょ、ちょっと馬鹿天使!もう少し声を抑えてよ!シヴァくんに聞こえて、もし様子を見に来たら何て誤魔化せばいいのよ…!」

「あ…っ!」

「…心配はいりません。ルークが追いかけて来て騒ぐのは明白でしたから、この部屋には現在、防音の魔法をかけています」

「え?…あ…そ、そうなんですね」


でも、馬鹿天使が追いかけて来て騒ぐ事が明白って……ラクロさん、一体どんな話をするんだろう?

な、何か、良くない話なのかな……?


「それで、華原さん。お話ですが」

「先輩!!やめて下さいってば!!今日は帰りましょう!!お願いですから…!!」

「…黙れルーク。話の邪魔をするな」

「先輩っ!!」

「………ラクロ様」

「えっ。あ、エンジュさん…!」


隣から聞こえた弱々しい小さな声に視線を向けると、エンジュさんが立っていた。

い、いつのまに来たんだろう…。


「…お前も来たのか。ちょうどいい。全員で挨拶をするとしよう」

「へ?…挨拶…?」

「はい。…華原さん」

「ラ、ラクロ様!!……どうしても、ですの?どうしてももう……!?引き延ばす事は、できませんの!?」

「…。…十分、引き延ばしたんだ。エンジュ。もう限界だ」

「そんな!!そんな事ありません!!まだっ!!」

「……頼むから!!黙ってくれ!!」

「!!……先輩」

「…ラクロ、様…!」

「えっ……」


…び、びっくりした。

ラクロさんが、こんなふうに声を荒げるなんて……。

馬鹿天使とエンジュさんも硬直してるし、珍しいんだろうな…。

…ほ、本当に、一体、何の話なんだろう?

何だか………聞きたく、ない。


「…………華原さん。貴女と交流を持つのは、これが最後です」

「…え…?」


ゆっくりと、息を吐き出しながら、ラクロさんが告げた言葉。

その意味がわからなくて、私は瞬きを繰り返した。


「…私が手助けをするのは、貴女の生活が安定するまでだという話を、覚えていらっしゃいますか?」

「え…」

「貴女はすでに生活の基盤を立て、友人、知人を持ち、そして今回、護衛を雇い、友人らと協力をして、見事身に迫った危険を退けた。…もう十分、私の手助けがなくともやっていける事を証明したんです」

「……。……お別れ、なんですか……?」

「っ。………そうです」

「……………」

「ぼ…僕、やっぱり嫌です!!先輩が考えを変えないなら、神様に変えて貰います!!いくら先輩だって、神様の言葉なら聞くでしょう!!」

「なっ!待てルーク!!神様にそんな事を…!!」


ラクロさんは静止をかけたが、馬鹿天使はそれを聞かず、姿を消した。


「…チッ…!!あの馬鹿が……!!」

「…ラクロさん…」

「…。…何をどうした所で変わりません。神様があんな訴えを聞く事はない。…お別れです。華原さん」

「………。…そう、ですか」


私はそう返事を返すのが精一杯だった。

最初の頃、慣れない畑作業や動物の世話で、困った事があった時には、いつも手紙でラクロさんに相談した。

馬鹿天使がやって来て失敗をしでかした時には、ラクロさんが対応してくれた。

エンジュさんが延々と馬鹿天使の話をして止まらなかった時には、ラクロさんが連れ戻しに来てくれた事もあった。

私はいつも、ラクロさんに助けられてた。

でも、それもおしまい。

今日で、お別れなんだ……。

だんだん、私の視界が滲んでいく。

ラクロさんは顔を歪めて視線を外し、エンジュさんはそっと抱きしめてくれた。


「…貴女のスキルは、今後もそのまま使えます。家のものも同様です。モオも、乳が出なくなる事はありません。…今ここにいるモオ限定ですが。…それと、日中、アイリーン・ハイヴェルに会い、貴女の後見となる事をお願いしておきました。彼女は快諾したので、今後何かあれば彼女を頼るといいでしょう。……他に何か、ご質問はございますか?」

「…す…すみません。…ちょっと、思いつきません…」

「…華原さん。よく考えて下さい。この場が最後です。もう手紙でお答えする事もありませんので」

「……………」

「ラクロ様、そんな…!少しくらい待ってあげても…!」

「黙れエンジュ」

「……っ」

「やりました~!!神様の許可がおりましたよ~~!!」

「!?」


エンジュさんが息を詰めた直後、なんとも場違いな、底抜けに明るい声が響いた。

次いで、

嬉々とした表情の馬鹿天使が現れる。


「先輩、エンジュ!!華原さんに、今後も会っていいそうですよ!!」

「え…嘘…!?ほ、本当に!?ルーク!?」

「うん!!」

「…馬鹿な…!?こんな短時間であっさりと、神様がお許しになるはずが…!!何をしたルーク!?」

「特に何も。ただ、今後の手助けは一切せず、ただ友人として会うと、神様とお約束をしました」

「…約束?……誓約の事か!?」

「はい」

「なっ…!!この馬鹿!!お前みたいなうっかりドジが、何でそんな事をした!?誓約を破ればどうなるか、知らない訳じゃないだろう!?もしうっかり華原さんを手伝えば、お前は…!!」

「…やだなぁ先輩。僕は天使ですよ?いくら僕がドジでも、神様との約束は破りませんよ。だから問題ないです!」

「ルーク…!!ほ、本当に、大丈夫なの!?」

「もちろんだよ。エンジュも約束しておいでよ。エンジュももし望むなら承諾するって、神様がおっしゃってたよ」

「え…わ、私も!?」

「うん。…それと先輩。先輩は必ず来るようにとの事です」

「!!」


………ええと。

私一人話についていけてないんですが……誓約って何ですか?

三人の様子からするに、何だか物凄く大それた約束事のようですが……。

でもこれは、たぶん聞いても答えてくれないんだろうなぁ。


「ほら先輩。何してるんです?早く行かないと」

「………………」


ラクロさんは馬鹿天使から視線を外し、ゆっくりと私を見た。

そのままじっと見つめられる。

そしてしばらくすると、ラクロさんは口を開いた。


「……華原さん。これで失礼します。………また、お会いしましょう」

「え…!!」


そう言って、ラクロさんは姿を消した。


「…また…また会える…!!」

「あはは、もちろんですよ。…神様が言ってました。『ラクロは真面目なのはいいが、時々頑なで愚かだ』って。本当、そうですよね」

「え…嘘、神様がラクロ様の事をそうおっしゃったの…?それはびっくりだわ…!あっ、いけない、私も行かなくちゃ!神様をお待たせしちゃう!それじゃクレハさん、また来るわね!」

「もう遅いし、僕も今日はこれで帰りますね。また会いましょう、華原さん」

「うん!またね、エンジュさん、馬鹿天使!」


私がそう言うと、二人は微笑んで姿を消した。

これからも会える。

加護を与える天使と、それを受ける人間から、ただの友人に形を変えて。

…うん、それでいい。

それが、いい。

私は穏やかな気持ちで、ベッドに横たわった。

というわけで、ラクロ達天使は、これからも時々現れます!

さて、今度はどういうふうにルークを失敗させ、ラクロを怒らせようかなぁ(笑)

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