表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/125

変化 2

今日一回目の更新。

クレハ不在の為、なんと突然のフレン視点でお送りします。

クレハちゃんが帰ったと聞いて、僕はアイリーン様の私室へ向かった。

私室の前まで行くと、扉が少し開いている事に気づく。

まあ、たとえ開いていようとノックをしなくていいわけじゃない。

僕はノックをしようとした。

けれど。


「ふふふっ…」


控えめに、けれど楽しそうに聞こえたその笑い声に、僕はつい、扉の隙間から部屋を覗いてしまった。

部屋の中のアイリーン様は楽しそうに微笑んでいた。


「…ずいぶん、楽しそうですね?」


思わずそう声をかけると、アイリーン様は顔を上げ、扉の隙間の向こうにいる僕を見て、今度は困ったように微笑んだ。

僕は左手で扉を押し開けながら、右手でノックをして、部屋に入る。


「…フレン、ノックは扉を開ける前にするものよ?」


案の定、アイリーン様はたしなめてくる。


「開いていましたもので。…それでもしようとはしたんですが、アイリーン様の楽しげな声に、つい声をかけてしまいました」

「まあ。きちんと扉を閉めなかった私も悪いけれど、ノックをしない理由にはならないわよ?」

「そうですね、すみません」

「…謝罪はもう少し心を込めてなさい」


そう言ってアイリーン様は溜め息をついた。

さっきの楽しそうな顔は、消えてしまった。

しかし戻すのはきっと簡単だ。


「…クレハちゃんが、何か面白い事でもしましたか?」


そう尋ねると、アイリーン様の表情はみるみるうちに変わる。

さっきと、同じものに。

ほら、簡単だ。


「…返事がね、二つ返事だったの。私が勝手に進めた話なのに責めもせず、クレハちゃん、二つ返事で頷いてくれたのよ。私は、あの時と同じように保留にしようとされるか、最悪断られる事も覚悟して、今後ゆっくり時間をかけて説得していくつもりだったのに……頷いて、くれたの」


『あの時』というのは、アイリーン様とクレハちゃんが出会った、あの日の売買契約の時の事だろう。


「あれから、半年以上経っていますからね。その日々の分だけ信頼度も上がっているという事でしょう」

「…ええ。…聞いて頂戴フレン!クレハちゃん、私の事を『お姉さんみたいな人』だと言ってくれたのよ!クレハちゃんが、私をよ?…こんなに、嬉しい事はないわ…!」


アイリーン様はそう言って、本当に嬉しそうに笑った。


「それは、良かったですね。けれど、『お母さん』のほうがもっと嬉しかったのではないですか?」

「…ふふ。ええ、そうね。でも今はこれで十分よ。その呼び方は、将来の楽しみに取っておくわ」

「…将来、ですか。…アレクリード様は、冬期休暇はこちらに来られそうなのですか?」

「ええ…手紙には、今度こそ来るとあったわ。…来たら必ず、クレハちゃんに引き合わせるわ。そうしてクレハちゃんがアレクを、アレクがクレハちゃんを気に入ったなら、将来クレハちゃんはきっと私の娘に…!」

「…クレハちゃんは、あの家から動かないと思いますが?侯爵家の子息を婿に出すのですか?」

「まあ、意地悪な事を言うのね。…でも、あの子は家を継がないのだし、それでもいいと思うわ。全てはあの子次第よ」

「…そうですか。…なら、二人が恋愛感情を持つといいですねぇ?」

「…フレン?…ちょっと貴方、その言い方…今回の居候生活でクレハちゃんを気に入ったのね?邪魔をするつもり?」

「まさか。気に入りはしましたが、そういう意味ではありません。むしろ僕より、シヴァやライルのほうが障害になるのでは?」

「まあ…!…そうね…特にシヴァくんは、これからも一緒に生活するのだし…!ああなんてこと!アレクが出遅れてしまったわ!」


頬に手を当て、本気で嘆くアイリーン様に、僕は苦笑を浮かべた。

そろそろ本題に入らないと、アイリーン様が良からぬ計画を考え出すかもしれないな。


「ところで、アイリーン様。クレハちゃんの"お兄さん"、やはり会えませんでしたよ」


僕がそう告げると、アイリーン様は動きをピタリと止め、真顔に戻って、僕を見た。


「…そう。…今回の事に、何の手助けもしないどころか、顔も見せないなんて、どういうつもりなのかしらね。仮にも兄を名乗るなら、せめて側で守るくらい、してもらいたいものだわ」

「…事情がありましてね。それが叶わないのですよ」

「え!?」

「誰だ!?」


突然聞こえた声に、僕はアイリーン様を後ろに庇う。

直後部屋の中に一陣の風が吹き、青い髪の男が姿を現した。


「…約束もなく、このような形での訪問、どうかご容赦戴きたい。…初めまして、クレハさんの"兄"、ラクロと申します。…貴女にお願いがあって参りました。アイリーン・ハイヴェル侯爵夫人」

「…え…?」


ラクロと名乗ったその男は、アイリーン様にひとつ、頼み事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ