捕獲作戦 8
本日二回目の更新。
+捕獲作戦の6と7を編集しました。
指摘のあった箇所と、キラリの登場シーンの加筆です。
精霊達との契約後、私達は採取に出かけた。
囮も兼ねているし、私のレベルアップの為に魔物との戦闘もする為、丘を下り、森まで行く。
魔物を避けなくなったおかげで、私は丘や森に、まだ採取できる物がある事を知った。
その中には今までギルドで買っていた物もある。
つまり私は、買わなくて済んだ物まで買っていたのだ。
……もったいない事をしていたなぁ。
採取物は、家の周辺に、赤い草、青い草、緑の草、白い草。
丘にはそれらに加え、調合にも使用できる花やその種。
森には、やはり調合に使用できる木や木の実、きのこなどがある。
「ふぅ、今日もたくさん取れましたね。採取のご協力ありがとうございました、フレンさん、シヴァくん、ライルくん」
「どういたしまして」
「そんな、お礼なんていいですよ!それにこれは、食材集めでもありますし、僕達も食べるんですから!」
「……きのこ、たくさん取れて、良かったです」
「あ、シヴァくん、きのこ好きなの?」
「……はい。美味しいです」
「そっか。なら今のうちにたくさん取って保管しておこうね。冬になっても食べれるくらい!」
「え? ……いや、クレハちゃん。さすがにそれは、食べられなくならない?」
「いえ、倉庫に置いておけば大丈夫なんです。倉庫にある物は、劣化しないんですよ!」
「へ……何それ。本当に?」
「はいっ」
「……へえ、それはそれは……便利だね」
「ふふ、そうですね」
ピンコンッ。
「……クレハ様!」
「えっ!? わ……!!」
LINE音が鳴るのと、私が後ろのシヴァくんに腕を引かれるのは、ほぼ同時だった。
驚いてシヴァくんを見ると、シヴァくんは険しい表情で前を見据えていた。
「シヴァ? どうしたんだ?」
「……男が数人、います」
「十四人だよシヴァ! フレンさん、見知らぬ男が十四人、クレハ様の家の前にいます!」
「え、うちの前に!?」
「……へえ。ついに来たか」
「へ!? つ、ついにって……!?」
「行くよ。僕が五人、シヴァとライルで四人ずつ、クレハちゃんが一人でよろしく。……ああ、そろそろセイルとミュラさんも帰ってくるし、もう少し楽かな」
「わかりました!」
「はい」
「ええ……!? あっ、ま、待って……!!」
すたすたと再び歩き出すフレンさん達のあとを、私は慌てて追いかけた。
家の前に着くと、そこには案の定、あの日に会った盗賊の男がいた。
ずっと定期的に鳴り続けていたLINE音は、盗賊の姿が見えると、その頻度を上げた。
「よぅ、待ってたぜ、錬金術士のお嬢ちゃん。まさか街の騎士を、街の外にまで動かす力があるとは思わなかったぜ。とんだ誤算だ。おかげでだいぶ手下が減っちまった。……埋め合わせをしてもらいに来たぜ」
「……そ、そんな事、する気はありません!」
「はっ! ずいぶん強気だな? その三人は護衛か? 優男が一人に、ガキが二人か? そりゃあ怖ぇ! ははは!!」
「……あのさ。聞いていいかな。貴方の一味は、それで全員?」
「あん? ああ、そうだぜ。……そのお嬢ちゃんを拐って、そのまま全員でトンズラするからなぁ!」
「そう。……はあ、ならこれでやっとアイリーン様の元へ戻れるよ」
そう言って、フレンさんは一歩前に踏み出した。
「その為にも、もう誰も逃がさない。覚悟してもらうよ?」
「ほぉ? この人数相手にやりあう気か?」
「もちろん。そうしないと帰れないからね。……フータ、ノーズ。ここへ。僕の敵を、凪ぎ払え」
「「 はい、マスター! 」」
……戦いの火蓋は、一方的に落とされた。
フレンさんの召喚によって現れた風と土の精霊は、その魔法で、一瞬で数人を地に倒れさせた。
「な……っ!?」
「あれ、やり過ぎた? ……シヴァ、ライル。ごめん、二人ずつでいいよ。クレハちゃんは見学してて。あの頭目は、僕が相手をするから」
「凄い……これが、フレンさんの本気の実力……」
私が呆然とそう呟くと、シヴァくんとライルくんが同時に地を蹴り、盗賊へと向かって行った。
「あ……!」
ど、どうしよう、本当に私だけ見学してていいのかな……!?
そう思って、シヴァくんとライルくんを交互に見る。
その時、盗賊の頭目らしい男が声を張り上げた。
「お、おい! 予定変更だ! こんなの相手してられねぇ! とっとと戴いてずらかるぞ!!」
「「「「「 へ、へい、頭!! 」」」」」
そうして耳に届いた5つの返事。
…………5つ?
そう疑問に思うと同時、私は背後から伸びてきた手に羽交い締めにされた。
「!?」
「よしよくやった! ……ははっ、そいつは気配を消す天才でなぁ! 探索魔法にもかからねぇ術を身につけてんだ!! ……さあ撤退だ!! 捕まるなよ野郎共!!」
「「「「「 へい、頭!! 」」」」」
「「 クレハ様!! 」」
焦ったようなシヴァくんとライルくんの声、持ち上げられる体。
突然の事に真っ白になった頭に、次に発せられた、その落ち着いた声が響いた。
「へえ、もう一人いたんだ。僕とした事が、油断したな。ごめんクレハちゃん。でも火と雷で何とかなるよ? ……まあ、君が無理なら、僕がやるけど?」
「ひっ……!?」
瞬間、フレンさんから発せられた凄まじい殺気に、頭目の男は身をすくませた。
「クレハちゃん、できる? 火と雷だよ」
……火と、雷?
…………精霊!!
「……フ。……フエンくん! ライカくん! 助けて!!」
「うわぁっ!?」
我に返った私がそう叫ぶと、次いで私を抱えた男が悲鳴を上げ、私を落とした。
落ちた衝撃に痛みを覚えながらも男を見上げると、男の右肩が火に包まれていた。
男の回りには宙に浮いているフエンくんとライカくんの姿があった。
私はそのまま這いずるようにして後ずさり、男から距離を取ると、再び声を張り上げた。
「ライカくん! キツいの一発お見舞いしちゃって!!」
「はい、マスター!」
私の言葉にライカくんが返事を返すと、晴れているにも関わらず、轟音と共に雷が一筋落ちて、男を直撃した。
男は悲鳴を上げる事もなく、地面に倒れた。
うっ……や、やり過ぎたかな?
……いや、自業自得!!
身から出た錆だよ、うん!!
「クレハ様!」
「あ……シヴァくん」
「怪我は……!?」
「な、ないよ。大丈夫」
……落ちた時に打った所は痛いけど……。
駆けよって来て隣に膝をついたシヴァくんに、私は小さく手を振りながらそう言った。
だけど、シヴァくんはその手を見て顔を歪めた。
「……血が出てます」
「え? ……あ……っ」
言われて手を見れば、腕の赤くなった箇所から血が滲んでいた。
どうりでじんじんするわけだ。
「す、擦りむいたかな? でも、これくらいなら薬を塗ればすぐ治るよ! 大丈夫大丈夫!」
「…………」
「なら、すぐに手当てして薬を塗ろうか」
「え? フレンさん……?」
すぐ近くで聞こえたフレンさんの声に顔を上げると、やっぱりすぐ側に立っている。
「え……あの、盗賊は?」
「うん? ……あっちでライルが縛りあげてるよ?」
「え」
フレンさんが示した方向を見ると、確かにライルくんが男達をぎゅうぎゅうに縛りあげていた。
……いつの間に倒したんだろう……?
「クレハちゃん、さっきはごめん。君を一人にするべきじゃなかった。僕の判断ミスだった。僕もまだまだだな。……ふぅ。……あとは、セイルとミュラさんが戻って来たら、引き渡して終わりだね。今日はもう一度泊まらせて貰うけど、僕とライルは明日、アイリーン様の元へ帰るよ」
「あ……はい。えっと……短い間でしたが、今日まで色々、ありがとうございました、フレンさん」
「こちらこそ、お世話になったね。クレハちゃん」
「僕もです! お世話になりました、クレハ様!」
盗賊を縛り終えたらしいライルくんも私の側にやって来て、頭を下げた。
「そんな、お世話になったのはこっちだよ。また遊びに来てね、ライルくん。ここには、シヴァくんもいるから」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「良かったら、フレンさんも、是非」
「うん、そうだね。気が向いたらお邪魔するよ」
「……クレハ様、帰りましょう。手当て、急がないと」
「うん? ……そんなに急がなくても大丈夫だよ?」
「……駄目です」
そう言うと、シヴァくんは、擦りむいていないほうの私の手を取って立ち上がらせる。
そのまま手を引かれ、家へ向かって歩き出す。
「僕とライルは、ここでセイル達を待つよ。こいつらを引き渡したら、戻るから」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
そのあと。
家へ戻って来たセイルさんとミュラさんによって、盗賊達は引き立てられて行った。
セイルさんは『念の為に』と言ってフレンさんにも同行を頼んだ。
フレンさんはそれに頷いて、『やっぱりこれで失礼するね』と、アイリーン様の元へ帰って行った。
私は翌日、ハイヴェル邸にライルくんを送って行った。




