契約 4
本日更新四回目。
これで本日ラストです。
応接室に戻ると、アイリーン様はガラスの大きな器に紙を入れ、その紙に火をつけた。
「はい、できた。さあどうぞ、クレハちゃん」
「はい。…"猛りし火の眷属、火の精霊よ。我が声が聞こえたなら応え来たれ。我は汝との契約を望む者。…来たれ!火の精霊よ!"」
私は火の精霊とも契約すべく、文言を唱えた。
…………。
あれ……来ない?
「…来ない、ですね?アイリーン様?」
「うぅん…おかしいわね?水の精霊は来たのだから、火の精霊も来るはずだけれど…もう少し待ってみる?」
「あ、はい」
………。
……。
…。
「…駄目だ…来ない」
「そうね…どうしてかしら?ああ、火が消えてしまうわね。もう一枚紙を追加しましょうか」
そう言ってアイリーン様が立ち上がると、消えかかった火が再び燃え上がった。
「あっ」
「あら、来たかしら?」
「かもしれません…ねっ!?」
私が火を覗きこむと、火の中から何かが飛びだし、顔の横を通り抜けていった。
「な、何…!?」
「さあ、俺の勝ちだぞガイエン!大人しく帰れ!」
「へっ!?」
後ろを振り返りかけた直後、響いてきた声に再び燃え上がった火を見ると、そこから赤毛に赤い瞳の小さな男の子が出てきた。
「あっ。…遅くなり、大変申し訳ございません。ライバルを蹴散らすのに時間がかかってしまいました。俺はフエン。たった今、貴女様の精霊の座を勝ち取りました」
フエンと名乗った火の精霊は、そう言って胸を張り、嬉しそうに笑っている。
「えっ…。…あ、ああ、そう、なんだ…?…えっと、じゃあ、よろしく。フエンくん」
「はい!」
「…うう、くそ…!次は勝つからなフエン…!」
「えっ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、朱色の髪に朱色の瞳の、やはり小さな男の子が悔しそうな顔をして宙に浮いていた。
「何言ってるガイエン。次も俺が勝つさ」
「いいや、次こそ勝つ!今に見てろ!…失礼します!」
ガイエンというらしい火の精霊は、最後に私に向かっておじぎをすると、その姿を消した。
「…ええと…」
「ふふ、自分を巡って争われるなんて、女冥利に尽きるわね?クレハちゃん」
「あ、あはは…。…そう、ですかね…?」
「失礼致します。お食事のご用意が整いました」
「あっ、はい!」
「じゃあ、無事に火の精霊と契約もできた事だし、お昼にしましょうか。」
「はい」
グッドタイミングですメイドさん!
お昼を食べ終え、食後のお茶を飲んでいると、セイルさんがやって来た。
その後ろにもう一人、なんとも体格のいいおじさんがいた。
「ごきげんよう、軍団長さん。突然お呼び立てしてごめんなさいね」
「いえ、構いません。セイルから話は聞きました。近頃街で評判の、かの錬金術士殿が賊に目をつけられたとか」
「え?」
ま、街で評判?
錬金術士……殿?
「かの錬金術士殿の薬には、我が軍の騎士達もお世話になっております。その身が危険となれば捨て置けません。喜んでご協力させて頂きます」
「ありがとうございます、軍団長さん。よろしくお願いしますね」
「はい。…して、侯爵夫人。かの錬金術士殿は今、どちらに?」
「まあ。…ふふ、先ほどから貴方の前にいるではありませんか」
「は?……。…そんな…いや、まさか…?」
軍団長様はアイリーン様から私に視線を移し、私を凝視している。
「ふふ、そのまさかですわ。彼女が件の錬金術士です」
「ク、クレハ・カハラです。初めまして」
「なんと…!まさかここまで幼い少女だったとは…!…いや、知らぬとはいえ、失礼した。貴殿の薬には我々騎士一同、とても助けられている。…貴殿の身は、必ず守る。もう心配はない、安心なさい」
「あ…はい。ありがとうございます」
「うむ。…では侯爵夫人、作戦を練りましょうぞ」
「ええ」
こうして、あの人達を捕まえる為の作戦会議が、始まった。




